原油暴落の震源となった怒れるサウジ、非常事態のただ中で瓦解したOPECプラス <コモディティ特集>
サウジアラビアとロシアという世界最大級の産油国が手を取り合った石油輸出国機構(OPEC)プラスは事実上崩壊した。中国発の新型コロナウイルスが世界中に蔓延し、石油需要が落ち込んでいるにも関わらず、ロシアが協調減産の規模拡大を拒否した。現行の協調減産は今月末で終了する。
●怒り心頭のサウジアラビア
OPECプラスが一段と減産すれば、その減少分を穴埋めするのはおそらく米国である。追加減産によって相場は下支えされるが、サウジやロシアのシェアが減少し、米国のシェアは増加する。新型肺炎が蔓延する非常事態でも、シェアを重視するロシアと価格を優先するサウジは折り合えなかった。
今月でOPECプラスの協調減産が終了し、4月からOPEC加盟国も含めて主要産油国が自由に生産量を調整するならば、1960年に設立された価格カルテルはその役割を終える。サウジとロシアの意見の食い違いはこれまでもあったが、新型コロナウイルスの流行は産油大国の溝を深めるきっかけとなり、原油市場に大きな亀裂を生んだ。
原油価格を支えようとしていたサウジはロシアに対しておそらく怒り心頭である。原油価格の暴落の一部はサウジが意図しており、率直に感情が表現されているに違いない。サウジ国営石油会社サウジアラムコは顧客に公式販売価格の大幅値下げを通告、引き下げ幅は1バレルあたり6~8ドルと通常であればありえないレベルである。
また、4月に供給量を日量1230万バレルまで拡大すると発表している。サウジの生産能力は日量1200万バレルであることから、在庫を取り崩してまで供給を拡大する構えである。今週、ロシアのノバク・エネルギー相は5月や6月にOPECプラスの会合が行われる可能性があると述べたが、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は拒否した。
●需要見通しの悪化はこれからが本番
足元の原油安は、需要見通しの悪化に供給拡大リスクが加わっている。下げを生み出す前輪と後輪が同じ方向へ勢いよく回転している。どちらかが止まるなり、逆回転するなら下げが落ち着きそうだが、中国発の新型コロナウイルスが世界経済を蝕み、リセッションのリスクを発生させたことから、需要見通しの悪化はこれからが本番である。
世界経済の中心である中国が疫病に冒され、米国でも感染が広がっていることから消費の落ち込みは避けられない。原油安で石油企業の設備投資が萎縮するだけでなく、資金繰りの悪化は不可避であり、産油大国である米国の余裕は一気になくなった。
米中が沈めば世界経済に待っているのは景気後退である。中国で新型肺炎の感染拡大が落ち着いても何の救いにもならない。景気拡大の峠をとっくに過ぎている中国がリセッション入りする可能性もゼロではないと思われる。
●OPEC加盟国同士でもシェア争いが始まる
供給拡大についてはサウジが宣戦布告となる値下げ通告を行ったばかりである。ロシアの減産不支持でシェアを拡大するための安売り競争が始まろうとしており、原油安による収入減を補い、従来に近い収入を確保しようとするならばシェアを広げるしかない。サウジの動きにその他の産油国が続くと、4月以降の大増産は現実のものとなる。サウジにとって、OPEC加盟国のイラクやクウェート、アラブ首長国連邦(UAE)もシェア争いの敵である。従来からシェアを重視するロシアもサウジの敵である。
サウジと政治的・経済的に距離を縮めようとしていたロシアはこの未曾有の事態を予見していたのだろうか。新型肺炎で世界経済が混乱している最中にOPECプラスを崩壊させ、原油市場だけでなく金融市場をさらに当惑させる必要はなかった。ロシアは産油国以外からも恨みを買ったのではないか。
ただ、需給見通しは最悪で、原油安を示唆しているにせよ、今週の下げは行き過ぎである。指標原油であるウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)とブレント原油は2018年10月以降の下降チャネル下限を下抜けた。オーバーシュートである。下方向への新たな射角のチャネルが形成され、一段安に沈む可能性があるにしても、週明けのような価格帯は長続きしないのではないか。無秩序に見える下げにも拠り所はあるはずである。短期的に下げが落ち着くことを期待する。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース