インターネット「誹謗中傷」空間を浄化せよ、対策サービスに脚光 <株探トップ特集>
―悲劇追放へプロバイダー責任制限法改正も視野、「誹謗中傷対策関連株」を探る―
インターネット上の誹謗中傷への対策が注目されている。インターネットの匿名性を利用した個人への攻撃は増加しており、今年5月には、SNS で誹謗中傷を受けていたプロレスラーの女性が自ら命をたったとみられる悲劇も起きた。
こうした状況を受けて、政府はネット上の誹謗中傷や嫌がらせへの対策を取りまとめる方針で、現行のプロバイダー責任制限法の見直しも進められている。これらに関連する企業は今後、ビジネスチャンスが広がるとみられ、存在感も増しそうだ。
●違法・有害情報の相談件数は10年度の4倍
インターネット上の誹謗中傷などの被害は年々増加しており、総務省によると、ネット上の違法・有害情報に関する相談窓口に寄せられた相談件数は2019年度には5198件で、10年度の約4倍に増加した。
被害者を救済するためには、ネット上の発信者情報開示が必要となるが、現行のプロバイダー責任制限法では、SNSなどの運営会社にIPアドレスの開示を請求する、プロバイダーに氏名や住所などの開示を請求する――の2回の裁判を経なければならず、1年以上の時間と費用がかかる。これは同法が時代の変化に追いついていないためで、施行された02年当時はネット掲示板による被害が中心で、SNSがまだ想定されていなかったせいでもある。
こうした状況を受けて、被害者の早期救済のためには同法を改正すべきではないかという動きが強まり、総務省は今年4月以降、有識者検討会を開催。現行よりも開示が行われやすくなるような要件の緩和や、投稿者の特定につながる情報の範囲などが検討され、7月には中間報告が取りまとめられる方針だ。
●個人だけではなく企業にとっても対策は重要
インターネット上の誹謗中傷は、個人に限ったものではなく、店舗や企業などでも増えている。また、店舗や企業にとっては、誹謗中傷同様にSNSに関連して深刻とされるのが、いわゆるバイトテロと呼ばれるものだ。
バイトテロとは、主に飲食店や小売店の従業員(正社員、非正規雇用)が、勤務先の商品や店舗の什器などを使用していたずらや悪ふざけを行い、その様子をスマートフォンなどで撮影してSNSに投稿することで、00年代後半以降に増加した。バイトテロは企業イメージを低下させるだけではなく、投稿内容によっては客足に大きなダメージを与え業績を左右することもある。
そのため、未然に防ぐための従業員教育や罰則の強化とは別に、これを監視する仕組みも必要となっている。こうした仕組みは個人への誹謗中傷対策に通じる部分があり、近年ビジネスチャンスを広げている。
●SNS投稿の監視行う企業に注目
関連銘柄の代表格は、SNSの投稿監視などを行う銘柄だろう。
イー・ガーディアン <6050> は、インターネット上の投稿監視や風評調査のリーディングカンパニーで、24時間365日体制で月間約1000万件の投稿を監視している。6月8日には企業と企業に所属する個人を対象にSNSの投稿内容をチェックする「SNSリスク投稿対策サービス」を開始したと発表。同サービスは、名誉棄損や誹謗中傷にあたる投稿を発見・保存し、必要に応じて弁護士事務所と連携して投稿した人の情報開示請求などの対応につなげる一気通貫のサービスで、芸能事務所などに所属する有名人や一般企業向けに提案する。
エルテス <3967> [東証M]は、企業向けにデジタルリスクの検知や危機対応のコンサルティングなどを提供している。常時400社以上の企業に提供しているWebリスクモニタリングサービスでは、24時間365日、人工知能(AI)と人の目でWeb上の投稿を監視し、緊急性の高い投稿を検知した際には、緊急通知や沈静化までの初期対応の支援を行っている。また、5月29日には、ネット中傷や風評被害を最小化するサービス「モニタリアン」の提供を開始したと発表。月額980円からの試験提供で、導入企業の拡大を狙う。
ポールトゥウィン・ピットクルーホールディングス <3657> は、ソフト・ハードウェアの不具合の検出を行うデバッグ・検証事業と、ネット上の違法・有害情報の検出や不正利用の検出を行うネットサポート事業を展開している。ネットサポートでは掲示板やSNSなどに投稿されるテキストや画像、動画などをシステムと有人を組み合わせてチェックしている。また、09年からは学校非公式サイトなどの監視をメインとしたスクールネットパトロールサービスも提供している。
アディッシュ <7093> [東証M]は、コミュニティーサイトやECサイトのユーザーコメント・書き込みの投稿監視、SNSのアカウント監視などを行うインターネットモニタリング事業を展開しており、特に学校非公式サイトの監視やネットいじめ対策を行うスクールガーディアン事業に強みを持つ。5月27日には、誹謗中傷の内容を保存しておきたい場合や、損害賠償請求を考えている場合など向けに、証拠となるデータを収集し報告をする「誹謗中傷対策サービス」を開始したと発表しており、誹謗中傷の被害者支援をスタートさせている。
●AIによるリスク対応や口コミ分析などを手掛ける企業も
このほかにも、FRONTEO <2158> [東証M]は、独自開発の人工知能(AI)エンジン「KIBIT(キビット)」を活用した「KIBIT SNS・書き込みチェックソリューション」を提供している。同サービスは、SNSやインターネット掲示板などのオンラインデータをKIBITで解析し、誹謗中傷にあたるレベルの不満・苦情や情報漏洩、不正隠蔽など企業リスクにつながる書き込みを早期に検知し、スピーディーなリスク対応・解決を可能にしている。今年6月には、リリーフサイン(東京都港区)とSNSの炎上予防対策の強化を目的にした業務提携も発表しており、同事業の拡大が期待できる。
更に、社名やブランド名といった特定キーワードの評判、ネガポジ(ネガティブ/ポジティブ)を測定することで、炎上対策を可能とする「クチコミ分析」機能を持つサービス「Social Insight」を展開するユーザーローカル <3984> や、ネット上の投稿・情報のなかから、口コミ・評判・風評などのソーシャルリスクをモニタリングし、リスク情報を調査・発見するe-miningサービスを手掛けるリリーフサインを持ち分法適用関連会社に持つホットリンク <3680> [東証M]などにも注目したい。
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