武者陵司 「敵対関係に入った米中、その経済・投資への含意」<後編>
※武者陵司 「敵対関係に入った米中、その経済・投資への含意」<前編>から続く
(3) 中国は景気対策と資産バブル高揚に専念、米国の批判口撃は受け流すしかない
・受け身に回る中国、ハワイ会談失敗
米国が個別事案ではなく中国の体制そのものへと批判をエスカレートしたことに対して、中国には有効な対抗策はない。習近平氏の、時宜をわきまえない韜光養晦(能力を隠して力を蓄え時を待つ)という抑制的外交路線の破棄によって、自らをpoint of no-returnに追い込んでしまったのではないか。中国が一定の譲歩で米国の敵対姿勢を緩めようとした6月17日のハワイにおける米中外交トップ会談は完璧に拒絶された。
・コロナを利して時を稼ぐ
中国は景気対策と資産バブル高揚で、当分経済優勢を維持することは可能である。コロナで多くのアドバンテージを得た。対コロナ制圧で世界最先頭を走り、経済はV字回復を果たし、中国経済は充実している。
コロナパンデミックは、中国に大きな地政学上のアドバンテージを与えた。①感染鎮圧を先行したことによる高い成長、供給力の温存、②感染国に対する援助支援で抱き込む、③経常収支悪化が大きく先延ばし、2018年に顕在化しそうになっていた外貨不安解消、等である。2018年から地盤沈下すると思われていた中国の経済プレゼンスは逆に高まった。アキレス腱である経常収支は大きく改善、いち早く供給体制を改善した供給力を武器に4~6月輸出はほぼ前年並みまで改善、輸入の減少により貿易黒字は大きく増加。加えて最大の赤字要因であった中国人の海外旅行が著しく減り、経常収支の黒字は膨れ上がっている。ドル準備は強化され、一見今の中国に死角は見えない。
・中国国内での習近平批判は高まるまい
米国の批判をかわす中国国内での政変、例えば習近平氏の失脚はまず起きないだろう。8月初旬の北戴河会議でも何も起きない。①習近平氏を批判すべき長老はわいろ・不正で弱みを握られている、②デジタル検閲・行動言動監視システムで習近平の個人独裁が完成しており反抗できない、③中国国内の愛国教育と情報統制で国民世論は支配者の味方、④軍を習近平氏が統率しているなどが指摘されている。ポンペオ氏の呼びかけは中国国内には全く届かないだろう。このように、中国は打つ手はないものの、経済は頑健である。
・米国は兵糧攻め、中国経済の衰弱を待つ
こうして、米国は外堀を埋めつつ中国経済力の衰弱を待つという戦略をとらざるを得ないだろう。ポンペオ米国務長官は、対ソ連と異なり対中では交流を遮断する封じ込め政策は有効ではない、と述べている。中国の世界経済に対する関与が比べ物がないほど大きいからである。よって中国にとってもまだしばらく信用拡大と公的支出でエンジンをふかす余地がある。
アフターコロナを展望すれば、限定的武力行使による市場急落場面があるとしても、なお株式と経済の長期上昇トレンドは途切れないであろう。
* 次回のストラテジーブレティンでは、本レポートの続編としての
「米中対決、中国のアキレス腱と米国の戦略」をテーマとしてお送りする予定。
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(2020年7月27日記 武者リサーチ「ストラテジーブレティン257号」を転載)
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