明日の株式相場戦略=新型コロナが変えたマネーの潮流
名実ともに8月相場入りとなった。週明け3日の東京株式市場は久々の切り返しに転じ、日経平均株価は前週末の急落を完全に取り戻すには至らなかったが、一時500円強の上昇をみせた。きょうは朝から一貫して買いが先行したため日銀のETF買いなどは入らなかったが、その代わりGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)など公的資金の買いが観測されたほか、先物主導の裁定買いも全体指数押し上げに寄与した。リスクオンの流れに乗じてドル・円相場が急速に円安方向に押し戻されたことも追い風となった格好だ。
しかし、外部環境を見る限りは悪材料山積、薄氷を踏む戻り相場といってもよい。日本国内の新型コロナウイルス感染拡大に対して決して楽観はなかったと思うが、米国などの凄まじい感染状況と比べ、少なからず対岸の火事的なムードも漂っていた。しかし、ここにきて認識は変わりつつある。「感染スピードが同じでも10人から100人までと、100人から1000人、1000人から1万人は同じ期間で達成される理屈になる。しかし、感染者数の増え方だけを見ると恐ろしく加速しているように見えてしまう」(中堅証券アナリスト)と指摘する。折り悪く、政治的な思惑もネガティブ方向に働いた。「本来なら行われるべきロックダウンは見送られ、ベクトルが逆向きの『Go To トラベル』やマスクの再配布などピント外れの政策に相場が拒絶反応を示した部分もあったのではないか」(中堅証券アナリスト)とする。梅雨明けでいよいよ真夏の太陽が輝く季節の到来、という場違いなタイミングで感染第2波に襲われており、果たして寒さが募り空気も乾燥する冬の季節にどうなるのか、という漠とした不安感が拭えない。新型コロナのワクチン開発は米国でモデルナやファイザーが大規模治験に入るなど大詰めにあるが、安全性の確認という作業は意外に難儀するのではないか。普通の感覚では、安全かどうか確信が持てるだけの期間を経なければ、罹患していない人がワクチンを打つことを躊躇するのは当然だ。
企業の四半期決算発表も承知していたとはいえ、出足からかなり厳しいものとなっている。また、株式需給面でも8月相場は過去10年間の統計を見ても海外マネーは引き潮となることが分かっている。ちなみに7月の外国人投資家動向は第4週時点の累計で現物は300億円程度の小幅買い越し、先物は4300億円程度の買い越しだったが、最終週の急落局面でヘッジファンドなどの売り仕掛けも含め大きくスタンスが変わった感触は否めない。
後はカネ余りの環境がどこまで神通力を発揮できるか。相場が下がらない根拠はこの一点にかかっている。WTI原油価格はマイナス圏に沈むなど歴史的な椿事(ちんじ)はあったが、あれは夢だったかと思わせるくらいに現在は1バレル=40ドル台近辺で落ち着いている。また、金価格については1トロイオンス2000ドルの大台を突破し、空前の先高期待に沸いている。株式市場においても、今のカネ余りが追い風となっていることは論をまたない。しかし、資金は水かさが増すように株式市場に均等に流入するわけではない。むしろ先鋭的だ。ニューノーマルに合わせて成長できる企業とそうでない企業、現実は圧倒的に後者の方が多いと思われるが、それだけに2極化相場の勝ち組に流れ込む資金の勢いは強烈となる。
例えば"巣ごもり消費"はテーマとして強い。SGホールディングス<9143>、丸和運輸機関<9090>、ヤマトホールディングス<9064>などEC特需で陸運が潤うという分かりやすい理屈がそのまま各社の業績に反映され、株価もそれを素直に評価されている。また、前週、取り上げた電子書籍関連も週末こそ全体相場急落の波に飲まれたが、きょうはLink-U<4446>やイーブックイニシアティブジャパン<3658>、パピレス<3641>、富士山マガジンサービス<3138>などきっちりと株価を切り返す銘柄が多かった。勝ち組消費関連ではスーパーバリュー<3094>が25日移動平均線をサポートラインに再騰に向けた足掛かりを築いている。このほかディスカウント業態ではPLANT<7646>の押し目にも着目。通期営業利益予想を第3四半期で大幅超過、しかもPBRは0.4倍だ。ゲーム関連ではドリコム<3793>、DX関連のキューブシステム<2335>なども改めてマークしたい。
日程面では、あすは7月のマネタリーベースが寄り付き取引開始前に日銀から開示される。また、7月の財政資金対民間収支が引け後財務省から発表。このほか10年物国債の入札も行われる。主要企業の決算では、ソニー<6758>、ソフトバンク<9434>、三菱UFJフィナンシャル・グループ<8306>などが予定されている。海外では、6月の豪貿易収支・小売売上高のほか、豪中銀が政策金利を発表する。6月の米製造業受注も開示。(中村潤一)