原油調整安を後押しする“中東異変”、コロナショック後の需要回復は一巡 <コモディティ特集>

特集
2020年9月16日 13時30分

コロナショック後、順調に回復していた原油相場は調整局面に入った。ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は先月に1バレル=43.78ドルまで上昇した後、今月初めにかけて36.13ドルまで下落した。

●コロナショック後の回復は夏季需要の終了とともに一巡

新型コロナウイルスの流行によって世界的な需要が一時蒸発した後、需給は順調に改善した。石油輸出国機構(OPEC)の月報によると、経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫は7月に増加が一巡し、減少に転じた。世界最大の石油消費国である米国では8月に入って過剰在庫の取り崩しが鮮明となっている。新型コロナウイルスに対する根強い警戒感と隣合わせではあるが、経済活動が段階的に再開し、石油需要は回復を続けている。OPEC加盟国を中心とした産油国が8月から減産目標を日量770万バレルに縮小したとはいえ、供給過多は解消されている可能性が高い。ただ、需給の好転は明らかだが、夏場の原油市場の上値は重かった。

コロナショック後の石油需要の回復局面は、北半球の夏場にかけての需要期とほぼ合致した。ニューヨーク市場でWTI先物が史上初のマイナス価格まで下落するという惨事はあったにしても、夏場の比較的旺盛なガソリン需要は石油市場の被害を多少なりとも和らげたといえる。季節的な要因のほか、感染を回避するため人々が以前よりも自家用車で移動するようになったことも石油市場の回復を手助けしたのではないか。

以上の認識を前提にすると、原油市場の調整安は自然である。これまでの石油需要の回復は季節的な要因や行動様式の変化が背景にあった。もちろん、経済活動の正常化に伴う需要回復があったにしても、冬場にかけて需給がさらに改善するとは期待できない。米エネルギー情報局(EIA)が発表している週報で、石油製品需要の4週間平均は日量1851万5000バレルまで回復した後にピークアウトする方向にあり、コロナショック後の需要回復は米国のドライブシーズンの終了とともに一巡した可能性が高い。

●中東情勢の異変が示唆するものは

石油市場を圧迫しているのは、季節的な需要変動だけではない。アラブ首長国連邦(UAE)に続き、バーレーンがイスラエルとの国交正常化で合意した。アラブ諸国に囲まれたイスラエルはこれまで敵地に孤立し、パレスチナ問題もあって絶えず険悪な視線に包まれていたが、米国の仲介で状況はなぜか一変している。中東の盟主であるサウジアラビアはパレスチナ国家の独立を軸とした中東和平を目指す姿勢を崩しておらず、イスラエルとの距離感を保っているものの、サウジ民間航空局はイスラエルとUAEを行き来する航空機がサウジ領空を通過することを許可した。

中東ではイスラエルを巡り地殻変動が発生しつつあるようだ。何が始まろうとしているのか想像すらできないが、これまで誰もなし得なかった中東和平が形になりつつあるのではないか。11月の米大統領選を控えて、現職のトランプ米大統領が支持率回復に躍起になっており、その一環で和平が前進しているとの見方や、米国と対立するイランの包囲網を固める動きであるとの指摘はあるが、トランプ政権だけの意向に沿って根深い中東問題が改善に向かっているとは到底思えない。

イランのスレイマニ司令官が殺害されたことや、コロナショック、サウジとロシアの石油戦争、WTI先物のマイナス価格など、今年はあまりにも多くの刺激的すぎる出来事があった。コロナ禍については出口がまだ見えてないが、UAEやバーレーンがイスラエルと国交正常化で合意したことは2020年の激変がまだ続くことを示唆する。中東情勢の異変から目が離せない。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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