植草一秀の「金融変動水先案内」 ―コロナの表と裏-
第44回 コロナの表と裏
●コロナに明け暮れる1年
2020年はコロナに明け暮れる年になっています。台湾政府が中国武漢市の異変を察知したのは昨年の12月31日のことです。1月23日には中国政府が武漢市を封鎖しました。ダイヤモンド・プリンセスが横浜港に帰港したのは2月3日でした。日本政府は1月28日にコロナウイルス感染症を第2類相当指定感染症にすることを閣議決定しました。武漢で確認された感染症が欧米に波及して3月には世界的な株価暴落が広がりました。
多くの都市が封鎖され、人々の行動に大きな変化が広がりました。人の移動は激減し、消費行動が一気に収縮。連動して企業の投資活動にも急ブレーキがかかったのです。
2020年4-6月期の経済成長率は歴史的な落ち込みを記録しました。多くの国で年率30%のマイナス成長が観測されたのです。日本では消費税増税の条件として「リーマン・ショックのようなことが起こらない限り」と言われてきましたが、リーマン・ショック時を上回る経済の落ち込みが発生してしまいました。
新型コロナには未知の部分が多く、この混乱が今後も持続するなら世界経済が壊滅的な打撃を受けてもおかしくありません。ところが、世界の株式市場を見ると、3月の暴落から驚くほどの立ち直りを示しています。WHO(世界保健機関)を中心に警戒を呼びかける声は依然として強いのですが、その警告メッセージと株式市場が示すシグナルに無視できない相違が広がっています。
●堅調を維持する中国経済
米国のトランプ大統領は「武漢ウイルス」と公言していますが、皮肉なことにコロナの影響がもっとも軽微と見られているのが中国です。上海総合指数のコロナショックに伴う下落率は15.4%にとどまりました。主要経済大国で最小の下落率にとどまったのです。その後の株価反発は下落幅の169%に達しました。これも主要経済大国で最大の株価反発率になっています。
OECD(経済協力開発機構)の見通しでは中国だけが2020年に1.8%のプラス成長を実現するとされています。2021年には8.0%の高成長が見込まれています。中国以外で株価が堅調な推移を示しているのが台湾と韓国で、コロナショック後の株価反発率は台湾が123%、韓国が122%に達しています。東アジアではコロナ被害が相対的に軽微に抑制されています。何らかの免疫構造が遺伝子構造などに組み込まれている可能性も指摘されています。
日本政府のコロナ対応を総括した民間臨調報告書には、政府対応が場当たり判断で行われ、「泥縄だったが(人口当たり死者が抑制されて)結果オーライだった」との官邸スタッフの発言などが掲載されていますが、東アジアにおけるコロナの特性が日本の不幸を抑制する主因になったと言えるのでしょう。
コロナ被害が最小の中国が貿易戦争で米国と正面から対峙していますが、中国の対米国交渉姿勢が昨年5月に一変した事実を見落とすことができません。
●トランプ大統領の苦境
米国の対中国制裁関税発動は2018年7月に本格始動していますが、2019年5月までは中国が一方的な譲歩姿勢を示していました。その基本スタンスが大きく変化したのが2019年5月です。米中交渉日程の直前にトランプ大統領が対中国要求をエスカレートさせたことに対して、中国が明確なNOの姿勢を示したのです。
中国政府が新たに示した姿勢は、譲れることは譲るが一方的な譲歩の連続は示さないというものでした。トランプ政権に対しても言うべきことは言う姿勢で臨み、長期戦も辞さないスタンスを明確に示したものと言えます。中国は毅然とした態度で交渉に臨み、持久戦を戦うなかでトランプ退場の時機を慎重に待ち望むというものであるように見受けられました。
米国大統領選が11月3日に投票日を迎えますが、最終局面でのトランプ大統領再選に向けた環境は極めて厳しいものに転じています。9月初旬にはBetting Odds(ベッティング・オッズ:掛け率)でトランプ、バイデンの勝率予想がほぼ拮抗しましたが、その後の1ヵ月余りの期間に情勢が一変しました。バイデン優位が急速に強まっています。2016年の事例もありますので予断を持つことはできませんが、トランプがかなり厳しい状況に置かれているのはたしかです。
トランプ大統領自身がコロナに感染しただけでなくホワイトハウスでクラスターを発生させてしまいました。9月29日のテレビ討論ではルール無視の傍若無人対応が強い批判を招きました。さらに、Black Lives Matter(ブラック・ライヴズ・マター)運動に対する「法と秩序」を盾にした対応に対しても批判が強まっています。
●カギを握るコロナの帰趨
トランプ大統領は投票結果で敗北する可能性を視野に入れて、その場合には不正選挙で提訴する方針を公言しています。大統領選の結果判断が法廷闘争に持ち込まれる場合、最終判断は連邦最高裁に委ねられることになります。このことを念頭に置いてトランプ氏は逝去したギンズバーグ判事の後任としてバレット女史の指名に踏み切りました。
ホワイトハウスで挙行されたバレット女史指名行事で多数のコロナ感染者が発生したと見られるのですが、トランプ大統領は大統領選前にバレット氏の最高裁判事就任を実現しようと画策しています。
大統領選が行われる年に最高裁判事に欠員が生じた場合、大統領選で当選した新大統領が後継判事の指名を行う慣例が存在するなかでの判事指名が強い批判を招いています。しかし、トランプ氏にとっては背に腹は代えられぬ状況なのでしょう。
投票結果がトランプ敗北となる場合には、新大統領決定までに大きな混乱が生じることも予想されます。また、今秋から来春にかけてコロナ感染の本格的第2波が発生するのかどうかも極めて重要な視点になります。
仮定の話ですが、トランプ敗退とともにコロナ問題が徐々に収束に向かうということになると、中国にとっては最良の展開ということになります。このあたりにコロナの真相を探るカギが隠されているようにも感じられるのです。
(2020年10月9日記/次回は10月24日配信予定)
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