金は景気回復期待で転換点を意識、ドル安進行見通しは下支え <コモディティ特集>

特集
2020年11月18日 13時30分

の現物相場は11月、リスク選好のドル安を受けて堅調となり、9月16日以来の高値1964.92ドルをつけた。しかし、米製薬大手ファイザーが独ビオンテックと共同開発している新型コロナウイルスのワクチン開発の進展が伝えられると、景気回復期待から急落した。

新型コロナの感染急増により、欧米で制限措置が再導入され、欧州中央銀行(ECB)や米連邦準備理事会(FRB)の追加措置が見込まれていることは金の下支え要因だが、米モデルナのワクチン開発も伝えられ、景気の先行きに対する楽観的な見方が強まっている。米ファイザーは今月中に、モデルナは向こう数週間で米当局に緊急使用許可(EUA)を申請する可能性があるとしており、早ければ12月にもワクチン接種が開始できるとみられている。

米ファイザーは前週、独ビオンテックと共同開発している新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験(治験)で感染を防ぐ有効率が90%を超えたと発表した。米モデルナも治験で94.5%の効果が確認されたとする暫定結果を発表した。どちらのワクチン候補もメッセンジャーRNA(mRNA)技術に基づくものであり、遺伝子を人工的に合成することから短期間で大量のワクチンを製造できるという。

米ファイザーのワクチン開発進展による景気回復期待を受け、米株式市場ではハイテク株が多いナスダック連動ETF(上場投信)から資金が引き揚げられ、景気に敏感なS&P500連動ETFやダウ平均連動ETFが買われる場面もみられた。

金はこれまで緩和的な金融政策や景気刺激策を受けて資金の逃避先として買われ、ETFへの投資資金の流入が価格を押し上げる要因になっていたが、ポートフォリオ組み替えの動きで売られると、下落に転じる可能性が出てくる。9月安値1848.96ドルが支持線であり、当面はここを維持できるかどうかを確認したい。

一方、米シティバンクはワクチン完成と緩和的な金融政策により、2021年にドルが20%下落する可能性があるとの見通しを示した。ドル指数は20年3月以降、9月1日に2018年4月以来の安値91.75をつけている。その後はドル安が一服し17日時点は92.44で推移しているが、FRBの追加措置でドル安が進むかどうかも焦点である。

●新型コロナウイルスの感染急増と制限措置の再導入

パウエルFRB議長とラガルドECB総裁は、新型コロナウイルスのワクチンの治験で良好な結果が出たことを歓迎したが、経済の先行きは不透明なままだとし、慎重な見方を崩していない。

欧州諸国でロックダウン(都市封鎖)が再導入されるなか、ラガルド総裁は来月の理事会で新型コロナ向けの「パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)」や、市中銀行を対象とした長期資金供給オペ(TLTRO)の拡大が焦点になるとの見方を示した。欧州ではミンク農場で新型コロナの変異種がみつかり、人への感染も確認されている。実際にワクチンが供給され、収束見通しが立つまで金は底堅く推移する可能性もある。

米国では新型コロナの感染が急増するなか、米大統領就任式までの約2ヵ月間で感染者数は800万人以上、死者は7万人以上増える見通しとなっている。17日時点の感染者は1121万9993人、死者は24万6978人。

トランプ米大統領は絶対にロックダウンを行わないと述べ、バイデン次期米大統領の新型コロナ対策のアドバイザーもロックダウンを否定したことで景気が大幅に悪化するとの懸念は後退したが、流行地で制限措置が再び導入されており、対策を強化すべきとの意見も出ている。

米上院選で議席数は共和党50、民主党48となり、残る2議席は来年1月5日に行われるジョージア州の決選投票で決まることになった。米大統領選ですべての州で当確が出そろい、バイデン氏が勝利したが、米上院で共和党が引き続き過半数を獲得すれば、ねじれ現象で景気刺激策の交渉などが難航することが指摘されている。

●金ETFから投資資金が流出

金の内部要因では、米ファイザーの新型コロナウイルスのワクチン開発進展による景気回復期待を受けてETFから投資資金が流出した。世界最大の金ETFであるSPDRゴールドの現物保有高は11月6日の1260.30トンから、米ファイザーの発表をきっかけに17日に28.90トン減の1234.20トンとなった。米モデルナの発表を材料に引き続き売られれば更なる圧迫要因になるとみられる。

一方、米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細報告によると、ニューヨーク金先物市場でファンド筋の買い越しは11月10日時点で23万9736枚となり、9月22日以来の低水準となった。ニューヨーク金12月限は9日の急落で7月21日以来の安値1848.0ドルをつけた。手じまい売りが目立っており、ドル安や各国中銀の量的緩和で買い直されるかどうかも焦点である。

(MINKABU PRESS CXアナリスト 東海林勇行)

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