「女性活躍」株を手短に言うと「強い」、では高スコアなのは
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第61回
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
前回記事「「浮動株比率」と「グロース株」の濃い関係、「日銀点検」公表前に要確認!」を読む
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の元会長の「話が長い」発言で、日本が女性の活躍に後ろ向きな社会であるというイメージが世界中に拡散する事態となりました。
では、日本の上場会社は女性活躍が進展しているのでしょうか? そして女性活躍の度合いの濃淡で、投資パフォーマンスに明確な違いは出ているのでしょうか。
それを手短に確認します。まず、東証1部上場企業の状況を見てみましょう。
5年前と比較すれば、わずかながらも改善は進む
企業が発行する「統合報告書」をベースに
「女性職員の比率」
「新規女性職員採用の割合」
「女性管理職の比率」
を5年前と直近のデータを集計したところ、いずれの数字も上回っています。
同報告書は発行が必須ではないため、項目の欠如も含めてサンプル数が十分ではなく、正確な実態を反映しているかは分かりません。
しかし、比較しうるデータによれば、少なくとも3項目すべてが、5年前比で増加していることが判明しました。
■東証1部企業 女性の活躍ファクターの平均値 5年前との比較
出所:データストリーム
業種でみると、進んでいるのは空運、小売り、銀行
この3つのデータを、もう少し細かく分析しました。まずは、どのような業種で女性の活躍が進んでいるのかという点です。
先ほどの3ファクターについて業種ごとに集計値を計算し、現時点での上位と下位の業種を確認しました。下はそれぞれのファクターの上位10業種になります。
■女性の活躍ファクター 直近値 上位10業種
順位 | 女性雇用者数 の割合 | 新規女性雇用 の割合 | 女性管理職 の割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 保険業 | 60.70% | 保険業 | 86.80% | その他金融業 | 20.80% |
2 | 空運業 | 54.70% | その他金融業 | 56.30% | 小売業 | 19.80% |
3 | 小売業 | 50.60% | 銀行業 | 51.60% | 銀行業 | 18.90% |
4 | 銀行業 | 48.90% | 小売業 | 47.30% | 保険業 | 18.60% |
5 | その他金融業 | 47.60% | その他製品 | 42.70% | サービス業 | 17.00% |
6 | 証券、商品先物 | 39.30% | 食料品 | 42.10% | 医薬品 | 16.90% |
7 | サービス業 | 38.40% | 卸売業 | 41.90% | 空運業 | 15.70% |
8 | 倉庫・運輸関連業 | 35.50% | 医薬品 | 39.20% | 証券、商品先物 | 15.50% |
9 | 繊維製品 | 34.50% | 証券、商品先物 | 36.60% | 化学 | 14.40% |
10 | 医薬品 | 33.90% | サービス業 | 35.00% | 情報・通信業 | 14.00% |
出所:データストリーム
上の表の左に示した雇用者数の割合では銀行、空運、小売りなどが目立ちます。その他2つのファクターもこの3業種がランクインしています。
おそらく金融であれば営業店や事務職の採用、小売であれば販売員、空運であれば地上職やキャビン・アテンダントなど、慣例的に女性が活躍してきた状況が現在も継続しているとみられます。
「バツ」の業種は製造業・資源
一方で、製造業や資源といった男性が多いイメージの業種はやはり上位にはほとんど顔を見せず、大きな変化が起きるまでには至っていないようです。次の下位の10業種を見れば、それが一目瞭然です。
■女性の活躍ファクター 直近値 下位10業種
順位 | 女性雇用者数 の割合 | 新規女性雇用 の割合 | 女性管理職 の割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
1 | ゴム製品 | 11.20% | ゴム製品 | 10.20% | 鉄鋼 | 1.50% |
2 | 電気・ガス業 | 11.50% | 輸送用機器 | 19.90% | 石油・石炭製品 | 2.20% |
3 | 輸送用機器 | 12.90% | ガラス・土石 | 21.30% | パルプ・紙 | 4.30% |
4 | パルプ・紙 | 15.40% | 電気・ガス業 | 21.40% | 建設業 | 4.50% |
5 | ガラス・土石 | 16.50% | パルプ・紙 | 22.80% | 卸売業 | 4.60% |
6 | 建設業 | 16.80% | 建設業 | 23.00% | 鉱業 | 5.40% |
7 | 金属製品 | 20.50% | 機械 | 23.30% | 輸送用機器 | 5.40% |
8 | 鉱業 | 22.20% | 電気機器 | 23.40% | 繊維製品 | 5.70% |
9 | 機械 | 22.70% | 石油・石炭製品 | 24.00% | 精密機器 | 6.20% |
10 | 陸運業 | 23.90% | 鉱業 | 25.30% | ガラス・土石 | 6.40% |
出所:データストリーム
見事に、製造業・資源で一色に染まります。昨今、女性の採用や管理職が増加してきているとはいえ、業種によっては旧態依然とした状況が継続していると考えざるを得ません。
しかし、冷静に考えてみれば、個人の適性や生活の状況を無視して、やみくもに女性を雇用・昇格させればいいというものでもありません。
また、女性側にも就きたい職業や業務の希望があるため、現在までに継続・蓄積してきたギャップは良い意味でも悪い意味でも需給の関係でそう簡単には変わらないでしょう。
注目すべきは、業種ごとに「過去からどのように変わってきたのか」ということです。女性の絶対数は少なくとも、しっかりと能力に応じて女性の活躍の場を適材適所で提供できている企業は、過去に比べて増加の傾向が見られるはずです。
5年前からの変化をみると、製造業・資源も新規雇用では改善
そこで5年前時点との比較で変化率を計算し、上位10業種をランク付けしたものが以下の表になります。
■女性の活躍ファクター 5年前からの変化 上位10業種
順位 | 女性雇用者数 の割合 | 新規女性雇用 の割合 | 女性管理職 の割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 医薬品 | 5.00% | 卸売業 | 18.90% | 電気・ガス業 | 12.70% |
2 | 金属製品 | 4.70% | その他製品 | 14.50% | 保険業 | 5.30% |
3 | その他金融業 | 4.20% | パルプ・紙 | 9.80% | 銀行業 | 5.30% |
4 | 鉱業 | 4.00% | 電気機器 | 7.80% | サービス業 | 4.20% |
5 | 不動産業 | 3.90% | 輸送用機器 | 7.70% | 食料品 | 3.90% |
6 | 輸送用機器 | 3.90% | 機械 | 6.10% | 小売業 | 3.50% |
7 | 銀行業 | 3.60% | ガラス・土石 | 4.70% | パルプ・紙 | 3.40% |
8 | 食料品 | 3.10% | 建設業 | 3.60% | 医薬品 | 3.40% |
9 | 空運業 | 2.90% | 海運業 | 3.40% | 電気機器 | 3.20% |
10 | 証券、商品先物 | 2.80% | 食料品 | 3.10% | 不動産業 | 3.10% |
出所:データストリーム
今度は、ある程度業種にばらつきが出ているように思われます。特に、輸送用機器(自動車など)、パルプ・紙、電気機器などは複数の項目でランクインしていることが分かります。
特筆すべきは、新規女性雇用の割合は上位9位までを製造業が占めており、男性社会のイメージが強い日本の製造業が、積極的に女性を新規雇用に動き出し始めているのは明らかです。
雇用者や管理職の割合では精密機器がワースト
続いて、下位10業種です。
■女性の活躍ファクター 5年前からの変化 下位10業種
順位 | 女性雇用者数 の割合 | 新規女性雇用 の割合 | 女性管理職 の割合 | |||
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 精密機器 | -8.10% | 証券、商品先物 | -4.40% | 精密機器 | -3.90% |
2 | 非鉄金属 | -0.60% | 情報・通信業 | -2.90% | その他金融業 | -3.00% |
3 | 機械 | -0.50% | 非鉄金属 | -2.10% | ゴム製品 | -0.10% |
4 | 情報・通信業 | 0.20% | 医薬品 | -1.90% | 輸送用機器 | 0.80% |
5 | ガラス・土石製品 | 0.30% | 保険業 | -1.20% | 金属製品 | 0.90% |
6 | ゴム製品 | 0.50% | 電気・ガス業 | -0.60% | 卸売業 | 1.40% |
7 | 電気・ガス業 | 0.70% | 銀行業 | -0.50% | 建設業 | 1.50% |
8 | パルプ・紙 | 1.00% | サービス業 | 0.60% | 鉱業 | 1.50% |
9 | その他製品 | 1.10% | 金属製品 | 1.70% | 証券、商品先物 | 1.50% |
10 | 化学 | 1.20% | 不動産業 | 2.00% | 非鉄金属 | 1.60% |
出所:データストリーム
全体としては、やはり製造業が多く占めています。それでも見るべき点としては、下位10位の業種であっても半数以上で数字が「プラス」であることです。女性の雇用者数、女性管理職の数は、両者ともに4位以降で値がプラスに転じます。
つまり、数や程度の差はあれ、ほとんどの業種で女性の活躍の場は増え続けているのは事実です。とかく変化を嫌う日本社会、特に製造業において、こうした流れが始っていることは、雇用および所得・消費の創出可能性といった観点でも日本経済にとって有益なことは間違いないでしょう。
女性活躍銘柄が市場平均をアウトパフォームする理由
さて、ここからが本題です。女性活躍の場が増え始めているのは分かったのですが、問題はそれが「企業の業績や株価のリターン向上につながるのか」という点です。
少なくとも株式投資の観点では、それが実際にパフォーマンスの獲得につながらなければ、何の意味もありません。
これについて、次ページに示した「MSCI日本株女性活躍指数」と「MSCI日本株指数」の比較で明快になります。比較対象をTOPIX(東証株価指数)にしても問題はありませんが、ここではMSCIの指数に統一して比較しました。
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