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2021年4月13日 13時45分
特集

「ダメなら売るしかない」は変えられる

~ラクオリア創薬の体制を変えた個人投資家・柿沼佑一さんに聞く

~株探プレミアム・リポート~

筆者:真弓重孝 = 『株探』編集部・編集統括プロデューサー

ビジネス誌、マネー誌などを経て、2018年4月にみんかぶ(現ミンカブ・ジ・インフォノイド)に入社。現在に至る。

柿沼佑一柿沼佑一(Yuichi Kakinuma):
1977年11月16日生まれ、43歳。2007年1月に弁護士登録。

知り合いが株式投資をしていることを知り、自身も投資を開始。2007年から繰り返し投資を手掛けてきたそーせいグループ<4565>の株価上昇に乗り、約10年で資産を一時、約40億円までに拡大した。ラクオリア創薬には2017年1月ころから投資を開始し、同社の筆頭株主になる。『株探』プレミアムでは個人投資家として取り上げてきた際に、土志田 剛志さんという仮名で登場した。

「株主提案」というと、アクティビストや年金基金など物言う株主、そして企業などが行使するもので、個人投資家にとっては遠い世界の出来事のように捉えがち。だが最近、そんな既成概念を覆すケースも出てきた。

個人投資家で、創薬ベンチャーのラクオリア創薬<4579>の筆頭株主である柿沼佑一さんは先月、同社の株主総会で取締役の解任と選任などを提案。柿沼さんが提案した議案は70%台ないし80%台の高い賛成割合を獲得した。

これよって同社の取締役および、取締役の職務執行の監査や取締役会での議決権を持つ監査等委員の取締役が変わり、新たな代表取締役には柿沼さんが提案した武内博文氏が就任。さらに柿沼さん自身も、同社の社外取締役に就くことになった。

柿沼さんは筆頭株主とはいえ、約11%の議決権しか持たない。また関東在住で弁護士を本業とする兼業投資家。その柿沼さんが、名古屋市に本社を置くラクオリア創薬の経営体制の刷新に動く一大事に挑んだのはなぜか。

そこには、個人株主ないし個人投資家の置かれた状況を少しでも変えたいという思いがあったという。柿沼さんに聞いた。

―― 「株主提案」を行った理由を教えて下さい。

柿沼佑一さん(以下、柿沼): 私はラクオリア創薬に2017年から投資を始め、保有比率を高めてきました。これまでも私は個人投資家として、そーせいグループ<4565>など創薬基盤を持つ企業に資産を多く配分してきた経緯があります。

その大きな理由として、私の体があまり丈夫ではないことがあります。学生時代や数年前に大病を患いました。こうしたこともあって、優秀な薬を生み出す企業、とりわけ日本発の創薬企業が世界に羽ばたいてほしいという願望がありました。

もちろん株式投資ですから、リターンを考えずに投資はしていません。一方で、お金が儲かればいいという割り切った考え方もできませんでした。

私は時価総額が小さい会社の中から投資候補を選んできましたが、それは小さい会社が大きく育つ過程に投資家として関わりたいのと、時価総額が小さい段階で投資した方が大きなリターンを狙いやすいという2つの理由がありました。

そんな期待を持ってラクオリアの筆頭株主になるまで投資してきたのですが、株主としてもどかしく感じるようなことが出てきたので、株主提案をする決意を固めました。

■柿沼さんの保有比率の推移

西暦 公表 義務発生 保有割合
2017年 2017年6月30日 有報 3.75%
2017年12月30日 有報 4.93%
2018年 2018年6月30日 有報 5.41%
2018年12月30日 有報 5.99%
2019年 2019年6月30日 有報 5.91%
2019年9月12日 2019年9月12日 6.54%
2019年12月30日 有報 6.69%
2020年 2020年6月30日 有報 6.75%
2020年9月2日 2020年9月1日 7.65%
2020年9月25日 2020年9月18日 9.13%
2020年12月2日 2020年11月26日 10.28%
2020年12月28日 2020年12月25日 11.38%
出所:有価証券報告書、大量保有報告書、変更報告書

―― というと?

柿沼: ラクオリアには優秀な人材が揃い、有望な薬を生み出す潜在的な力を兼ね備えている会社として私は評価しています。一方で、経営については、「もっとこうすればよくなるのに」という気持ちが日増しに強くなっていきました。特に気になっていたのは、スピード感です。

ご存じの通り医薬品開発はスピードが非常に重要になっています。それは、今まさに我々が新型コロナウイルスのワクチン開発で目の当たりにしていますよね。

米ファイザー〈PFE〉や米モルデナ〈MRNA〉、英アストラゼネカ〈AZN〉といった海外企業のワクチンは既に製造され接種が始まっている一方で、国産ワクチンはというと昨年から複数の開発が行われてきましたが、未だ製造承認が下りる段階には至っていません。

日本人としては、国産ワクチンに大いに期待しています。しかし、ビジネスライクに見れば、今年中に製品化できなければ、収益的には厳しくなる可能性があります。

ラクオリアも経営のスピードを上げないと、将来を担う新薬の開発が滞ってしまう恐れがあります。ですから株主の権利である取締役の選任・解任を行う権利を行使する行動に出たのです。

―― 不満があれば、保有株を手放すという選択もありますが、それは念頭になかった。

柿沼: 今回、私が行動を起こしたのには、個人株主が置かれた状況を少しでも改善に向かうことにつなげたい気持ちがあるからです。

個人株主は会社の経営状況を知り、疑問に思ったことを質問する機会が、非常に限られた状況に置かれています。機関投資家や証券アナリスト限りの会社説明会などが端的な例です。

―― メディア向けの説明会が開かれない例もあります。

柿沼: 個人株主向けの説明会などが開催されない場合、会社に対してどうして今はこういう状態にあるのか、こうすればいいのではないかと考えたとしても、それを伝える手段を個人株主は持ちえません。

ということは、アクションを起こすにしても機関投資家に働きかけるくらいしか手段がないのです。しかし、そうした行動に出るのもハードルが高いので、結局、彼らに期待するぐらいのことしかできません。

ラクオリア創薬の概要

米ファイザーが閉鎖した中央研究所(愛知県武豊町)の研究者らが2008年2月に設立した名古屋市に本社を置く創薬企業。疼痛及び消化器領域を主な対象とし、研究開発拠点を名古屋大学の中に置くなど国内外の大学と共同研究を展開する。現在世界5カ国9社と13件のライセンス契約・共同研究を展開し、ペット向けでは欧米で2つの薬品が、ヒト向けでは韓国で1件の薬品が販売済み。今21年12月期に営業黒字転換の計画だが、2008年12月期から営業赤字が続いてきたことなどで、今年3月末に東京証券取引所の上場廃止基準に係る猶予期間入り銘柄になっている。

―― 2014年に制定されたスチュワードシップ・コード(機関投資家の行動指針)は、機関投資家に責任ある行動をとることを求めました。

柿沼: 同指針が制定されたことで変化がもたらされた面はあるでしょう。しかし、ラクオリアのような創薬ベンチャーなどは後でも触れますが個人株主の比率が高く、こうした株主構成の企業の個人株主は機関投資家の行動に期待することすらできません。

となれば、個人株主に残された手段は、「諦めて売るしかない」ということになりますが、はたしてそれでよいのでしょうか。

会社と問題意識を共有しながら、会社の将来が少しでも良い方向に進むためにこうしたらいいと考えている個人株主も多くいます。そういう個人株主が株主の権利を行使することで経営を変えることもできると示したかったのです。

―― 株主提案の投票結果を見ると、柿沼さんに共感する株主が大多数だったことになります。

柿沼: 私のブログやツイッターなどを通して、私の思いを共にする個人株主が多くいるのだなと実感していました。だからこそ、行動に出られました。

私の本業は弁護士で、クライアントの不満や要求、要望を汲み取り、それを目に見える形で解消、解決するのが弁護士の職務なのです。

―― 言ってみれば得意中の得意の仕事ですが、それなりの勝算はあったのでしょうか。

柿沼: 私と意見を同じくする個人株主が少なからず存在するとは感じていましたが、だからといって今回のような高い賛成割合を得られることは想定していませんでした。

勝つにしてもぎりぎり、もしかしたら数十や数百の僅差で決着する場合も想定していました。それもあって、私は総会が開催される1カ月ほど前の2月24日に、「株主総会検査役」の選任を名古屋地方裁判所に申し立てをしました。

株主総会の招集手続きや決議方法を調査する役割を担う検査役を選任することで、出席株主の資格や株式数、委任状や議決権行使書の内容そして対象株式数などで、疑義が生じるようなことが避けられるからです。同検査役は私の申し立て通り、3月19日に選任されました。

―― 「勝利するにしても薄氷の差もあり得る」との想定と、大きく異なる結果になったのはなぜでしょうか。

柿沼: 全体の85%近くを占めるラクオリアの個人株主に、私の思いを届けることに集中しました。

ラクオリアの個人株主の数は1万4000人近くで、このうち2万株以上を持つ個人株主は1000人程度です。この方たちはもちろん、多数の株式を保有していない約1万3000人の個人株主に、私の思いを届けるためにできる事はなんでも取り組みました。

1000人の個人株主には、事務所のスタッフの手を借りて、直接葉書を送りました。ブログやツイッターはもちろん、つてのあるメディアにも連絡するなどして思いを伝える機会をつくる努力をしてきました。

また株主提案の文書もできるだけわかりやすい言葉で表現しました。

■ラクオリア株主の所有者別構成比

【タイトル】

出所:同社有価証券報告書、2020年12月31日時点。

注:外国法人等には個人を含む。金融関係は金融機関と金融商品取引業者の合計

――提案理由の中に、「業績の下方修正の可能性がないかと確認したにもかかわらず、権利確定日の取引終了後に2度目の下方修正を発表した」という主旨の記述などがありました。

柿沼: 弁護士ですから固い表現を使うのはそれこそ得意なのですが(笑)、今回は感情に訴えることを意識したのです。

こうした行動を通じて、様々な思いを持ちながらラクオリアに投資している個人投資家の存在を確認できたことは、今回の大きな収穫です。

■『株探』プレミアムで確認できるラクオリアの業績修正履歴

【タイトル】

―― どういうことでしょうか。

柿沼: 個人投資家や個人株主とひと括りで表現してしまいますが、電話やメールなどを通じて連絡を取った方には大学教授や研究者、会社員、主婦、定年退職後と様々な年齢、職業そして性別の方がいらっしゃいました。

個人投資家というと、どうしても株が上がってリターンを狙っているだけの人のように捉えられがちですが、決してそれだけを求めているわけではないのです。

例えば、私のように病弱なことから創薬企業に頑張ってほしいという思いというか願いから保有している人や、日本の創薬技術が世界に羽ばたくことを期待して投資している方など、様々な動機を持ちながら投資している実態がわかったのです。

そうした思いを形にするには、株主提案を勝ち抜かなくてはなりません。ですから、私の思いをわかりやすく伝えるだけにとどまらず、株主総会での議案の投票方法についても注意点を伝えることは忘れませんでした。

―― 具体的には。

柿沼: 今回、私に賛同を示す記入方法が、議案によって異なるものだったのです。ある議案から議案は印をチェックしないことが賛同となり、ある議案から議案はチェックを入れることが賛同になっていたので、そうした点を踏まえて、投票してもらえるように注意を喚起しました。

―― 先月の株主総会で提案された取締役の選任・解任の理由についてうかがいます。まず新たに代表取締役に就任された武内博文さんを選任したのはなぜですか。

※当該情報は、一般情報の提供を目的としたものであり、有価証券その他の金融商品に関する助言または推奨を行うものではありません。

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