究極の温暖化対策「CCS」関連株を狙え、気候変動防ぐ先端技術を探る <株探トップ特集>

特集
2021年5月15日 19時30分

―温室効果ガスの30年度46%削減で注目、CO2を回収し地中埋め込みへ―

菅義偉首相は4月22日に開かれた地球温暖化対策推進本部の会合で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする目標に向け、30年度の排出量を13年度に比べて46%削減する新たな目標を表明した。これまでの目標を7割以上引き上げたもので、達成は容易ではない。 脱炭素社会を実現するためには再生可能エネルギーの導入や電気自動車(EV)の普及、水素技術の開発などが欠かせないが、それらに加えて関心が高まっているのが二酸化炭素(CO2)を回収して埋める「CCS 」だ。

●高いCO2貯留ポテンシャル

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:「CO2の回収・貯留」)とは、火力発電所や工場などで発生するCO2を大気放散前に回収して、枯渇した油ガス田や地中深くにある石炭層、帯水層など貯留に適した地層に封じ込め、長期間にわたって安定的に貯留することで大気中へのCO2放出を抑制する技術のこと。石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の資料によると、20年時点で米国や欧州、豪州を中心に世界で26のCCS施設が稼働しており、累計4000万トン/年のCO2圧入を実施している。ただ、世界全体の排出量が315億トンであることを考えれば排出炭素を一掃するには程遠い。

一方、国内では経済産業省や新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、日本CCS調査(東京都千代田区)が中心となって北海道・苫小牧で行った大規模CCS実証試験では、16年からCO2を貯留する作業を開始し、19年には目標としていたCO2の30万トン封じ込めを達成。今後はCCSの実用化に向けた取り組みを進め、30年までの商用化を視野にCCSを導入することを検討しているという。日本の沿岸域には約1500億~2400億トンのCO2貯留ポテンシャルがあるとされ、地球温暖化への対応や脱炭素化が求められるなか、CCSはCO2削減に必要な革新的技術として期待されている。

●社会実装に向け取り組み続々

三菱重工業 <7011> は1月にカナダのリーハイセメントとセメントプラント向けのCCSシステムについて案件形成調査を行うことで合意したほか、4月には米ネクスト・ディケイドとLNG液化プラントの排ガスからのCO2回収システムについて基本計画パッケージの提供を行うことで合意した。また、今月6日には日本IBM(東京都中央区)とCO2の回収量や流通量を可視化するプラットフォームの構築で協力すると発表。これはCO2を回収して貯留や転換利用する「CCUS」の普及を見据えた取り組みで、三菱重は実社会(フィジカル世界)におけるインフラ構築、日本IBMはサイバー世界のデジタルネットワークを担うとしている。

三井物産 <8031> は3月、CCS事業を手掛ける英ストレッガ・ジオテクノロジー(SG社)に15.4%出資すると発表した。SG社は子会社を通じて、英政府が掲げるCO2排出量削減と50年までのカーボンニュートラル 達成に向けて、英国及び周辺諸国から排出されるCO2の回収・輸送・貯留を行うプロジェクトを推進中で、三井物はSG社の事業基盤強化を支援するという。

東芝 <6502> グループのシグマパワー有明は昨年10月から、三川発電所(福岡県大牟田市)でCO2を分離回収する大規模な実証設備の運転を開始している。これは同社を含めINPEX <1605> や日揮ホールディングス <1963> 、千代田化工建設 <6366> [東証2]、東京大学など18法人で委託を受けている環境省の「環境配慮型CCS実証事業」の中で行われているもので、同省が掲げる30年の本格的なCCUS社会実装に向けて技術開発を進めている。

また、東洋エンジニアリング <6330> もCCSの重要性に早くから着目している企業の一つ。CCSの実現を目指す日本CCS調査に設立当初から参加しているほか、社内横断組織「CCSチーム」でCO2分離・回収/超臨界CO2ハンドリング/石油増進回収といった分野における経験をCCSに活用する検討や、最新技術の調査・整備、システム検討・設計、経済性評価などの活動を通じて、最大の排出源である発電所CCSの早期実現に取り組んでいる。

なお、日本CCS調査には、三菱ガス化学 <4182> 、出光興産 <5019> 、日本製鉄 <5401> 、三菱マテリアル <5711> 、伊藤忠商事 <8001> 、東京電力ホールディングス <9501> 、東京ガス <9531> なども出資している。

昨年11月に二酸化炭素地中貯留技術研究組合(京都府木津川市)に加入したJパワー <9513> も見逃せない。同組合はCCSの実用化を目指して、国内の貯留層に適した実用化規模(100万トン/年)でのCO2地中貯留技術の開発などを手掛けている。同組合の会員には、石油資源開発 <1662> 、大成建設 <1801> 、ENEOSホールディングス <5020> 子会社のJX石油開発、応用地質 <9755> なども名を連ねており、今後の動向に注目したい。

●カーボンリサイクルにも注目

CCSはCO2の大気中への放出を大量に削減できる技術だが、CO2を多く排出する工業地帯が主に太平洋側の沿岸域にあるのに対し、貯留に適した場所は日本海側に多く位置しているほか、コスト面などにも課題がある。そこで、CO2を炭素資源(カーボン)として捉え、再利用する「カーボンリサイクル」を併用する仕組みづくりが重要となってくる。CO2を資源として有効活用するカーボンリサイクルは、化学、セメント、機械、エンジニアリング、化石燃料、バイオなどさまざまな事業分野で取り組みが可能で、日本に大きな競争力があるとされる。

直近では太平洋セメント <5233> が今月10日、CO2を原料とする完全リサイクル可能なカーボンニュートラルコンクリートの基礎的製造技術を開発したと発表。これはNEDOの研究開発事業「C4S(建設分野の炭酸カルシウム循環システム技術)の研究開発プロジェクト」の共同実施者として開発したもので、同社は主に材料製造のパートであるカーボンニュートラルコンクリートの「硬化プロセスの検討」と「部材製造」に関わる研究開発を担った。

三菱商事 <8058> は1月、コンクリート建材にCO2を注入するカーボンリサイクル技術を持つカナダのカーボンキュア・テクノロジーズと資本・業務提携した。同社は日本を中心としたアジアでカーボンキュアの技術展開を支援し、建設業界のCO2排出削減につなげる構えだ。

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