「インフレ懸念のNY」「調整色強まる東京」、日米株式市場の行方を追う <株探トップ特集>
―40年ぶりの金利反転観測も浮上、中長期的にバリュー株が優位の展開か―
世界の株式市場がインフレ懸念に揺れている。先週発表された米4月消費者物価指数(CPI)は12年半ぶりの上昇となったほか、同卸売物価指数(PPI)も大幅な上げを記録した。この物価上昇を背景に、米長期金利も上げており、米連邦準備理事会(FRB)による「テーパリング(量的緩和縮小)」に向けた思惑もくすぶる。こうしたなか、NYダウは値の荒い展開となり、日経平均株価も軟調地合いが続いている。日米株式市場の行方を追った。
●米インフレ懸念で6月FOMCなどに関心
先週末14日のNYダウは360ドル68セント高の3万4382ドル13セントと大幅続伸。米長期金利が低下したことが好感され、上昇に転じた。しかし、週明け17日の日経平均株価は、朝方こそ上昇したものの上値では売りに押され結局259円安の反落となった。市場からは、「日経平均株価の2万8000円から上の水準では売りが出てくる」とみる声が少なくない。
市場の焦点は、米国でのインフレ懸念の台頭だ。12日に発表された米4月CPIは前年同月比4.2%上昇と市場予想を大きく上回った。これを受け、米10年債利回りは一時1.7%前後まで上昇。高PER株が多い米ナスダック市場に上場するハイテク株は、下値を探る展開となった。FRBは、金利の上昇は一時的との見方を堅持し、2023年末までゼロ金利政策を続ける姿勢を崩していない。ただ、マーケットからは「年内にもテーパリングは開始されるのではないか」との観測が急速に台頭している。
市場からは、8月のジャクソンホール会議でFRBはテーパリングの開始を示唆するとの声が出ているほか、6月15~16日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)でのコメントを注視する見方が強まっている。
●秋口以降にテーパリングの示唆があるか
外為オンラインの佐藤正和シニアアナリストは、「9月のFOMC以降にもFRBからテーパリングに向けた示唆があるのではないか。早ければ、債券購入額の縮小などは年内にも開始される可能性がある」とみている。ただ、インフレは一時的とのFRBのスタンスを支持する声も市場には依然として少なくない。「米労働市場では賃金は簡単に上がらない」「個人消費も年後半以降はスローダウンする」との見方が背景にあるからだ。
インフレ観測の見方は対立しているものの、今月後半から来月のFOMCに向けての米経済指標への関心は従来に増して関心を集めることになりそうだ。特に、5月は21日の製造業購買担当者景気指数(PMI)や28日の4月個人消費支出(PCE)デフレーターなどが注目されるほか、6月は1日の5月ISM製造業景況感指数、4日の5月雇用統計、10日の5月CPIなどが関心を集める展開となりそうだ。
●1980年代初頭からの金利低下局面は曲がり角を迎えたか
インフレ警戒派からは「過去40年間続いた金利低下傾向は歴史的な底入れをした可能性」を指摘する声も出ている。1980年代の初頭から続いた金利低下局面は、大きな曲がり角を迎えたとの見方だ。これは、「金融政策偏重の潮流から財政中心の体制への回帰」や「金利引き下げ競争はマイナス金利にまで行きつき限界を迎えたこと」などが要因として指摘されている。そんななか、NYダウが高値波乱状態を迎えるとともに、日経平均株価も調整局面に入っている。市場関係者からは、「株式時価総額とGDP(国内総生産)の比率を示すバフェット指数では、100%を超えたら割高と言われるなか、米国市場は200%を超えたとされる。日本市場は、そんな水準までは買い上げられていないだけに、本格的な調整に入るなら米国株の方が日本株より厳しい下げとなることもあり得る」とみる声も出ている。
●バリュー株を本格見直しの契機にも
一方、日本株に関してSBI証券の鈴木英之投資情報部長は「足もとの相場では半導体などグロース株は売られているが、バリュー株などは底堅い。トヨタ自動車 <7203> は堅調な値動きを続けており、日本経済に大きな問題が発生したとも思えない。日経平均株価は13日に2月高値から10%安となる2万7385円まで下落したことで、目先的には安値をつけたのかもしれない」とみている。
この日の相場も日経平均株価は1%近い下落だが、TOPIXは0.2%程度の下落にとどまった。東京エレクトロン <8035> やアドバンテスト <6857> など半導体株を中心に軟調相場にあるが、内需系のバリュー株にはアサヒグループホールディングス <2502> やアシックス <7936> など新高値に買われる銘柄も出ている。インフレ懸念の行方は今後時間をかけて見定めることになりそうだが、金利上昇は高PERのハイテク株には逆風となるだけに、中長期ではバリュー株を本格的に見直す局面に入りつつあるようだ。
株探ニュース