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700万円の負担も水の泡に!? 生命保険の解約や保険金の請求できない事態をどう防ぐ~親が認知症になる前に知りたいシリーズ-その3(最終回)

特集
2021年6月3日 10時00分

清水香の「それって常識? 人生100年マネーの作り方-第29回

清水香(Kaori Shimizu)
FP&社会福祉士事務所OfficeShimizu代表
清水香1968年東京生まれ。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランナー(FP)業務を開始。2001年に独立後、翌年に生活設計塾クルー取締役に就任。2019年よりOfficeShimizu代表。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、テレビ出演も多数。 財務省の地震保険制度に関する委員を歴任、現在「地震保険制度等研究会」委員。日本災害復興学会会員。

前回記事「無料サービスもあり! 『親の預金口座』の凍結対策はこれ」を読む

「85歳まで入れます」「89歳でも入れる生命保険」―。

超高齢マーケットに向けたこんな新聞広告やテレビCMも、昨今珍しくなくなりました。いうまでもなく、年を取るほど余命は短くなり、病気やケガが増えて入通院も増えます。保険金や給付金が受け取る機会が増すとなれば、

「年を取ったからこそ、やっぱり保険でしょう」

と感じる人は多いのかもしれません。

ですが、家族への経済的責任を果たし、社会保障給付が手厚くなる高齢者は、実は保険の必要性は薄れるものです。

【タイトル】

一方で、死亡率や入院確率が高くなるのですから、高齢者が加入すると保険料はいうまでもなく高くなります。そして、もしものときまで保険料を払い続けられなければ、そもそも保険金を受け取ることはできません

収入の限られた年金暮らしの高齢者こそ、保険の加入には、より慎重である必要があります。ところが60代以上の人は、世帯当たり年30万円ほどの生命保険料を負担しています。

「老後2000万円問題」で、年金だけでは生活費に不足が生じるといわれる一方で、必要性の薄れた支出に多額のお金がつぎ込まれているのも現実なのです。

不要な支出だけにとどまらない恐れも

このように高齢になっても生命保険の加入を続けることは、不要な支出をしてしまっている可能性があります。しかし、問題はこれだけにとどまりません。

本人の認知能力が低下すると、保険に加入していたことを忘れたり、保険金を請求することが困難になったりする恐れがあるのです。

家族であっても、本人の代わりに手続きをすることは原則できません。保険金の請求ができなければ、老後の暮らしを支えようと加入した保険が、まったくその役割を果たせなくなってしまいます。

そこで今回は、高齢になってから保険を放っておくと、どんなことが起きる可能性があるのか、そして今打てる手は何かについてお伝えします。

しっかり確認して、元気なうちに対応しておきましょう。

まず大事なのは「自分で請求できる」のか

我が国の高齢化は顕著で、高齢化率(=65歳以上の人の総人口に占める割合)は、2017年時点ですでに3割弱。2065年には4割近くに達すると予測されます。

生命保険の契約者にも、高齢化が進行しています。生命保険協会によれば、新契約件数に占める60歳以上の比率は上昇傾向にあり、2017年時点ですでに2割にのぼっています。

医療・介護・貯蓄・年金などの商品を中心に高齢者の加入件数が増えていることから、高齢者の保険金請求等の手続きも、今後増えていくものと見込まれています。

高齢化に伴う課題が生じるなかでも、こうした現実を踏まえて適切に保障を提供し、かつ保険金等の確実な支払いという基本的な機能をまっとうすることが、生命保険業界には求められます。

そこで同協会は、定期的に消費者行政・団体との「生命保険意見交換会」を開催、意見や要望を集約しています。

■高齢者に関して寄せられた生命保険に関する意見

認知症の父の保険を解約したいが、契約者本人でないと
解約できないといわれた
保険金受取人が認知症。成年後見人の選定をするのにも
煩雑で時間がかかる。もっと簡便な方法はないか
独身・高齢の叔母の保険が満期だが、意思確認もできない状態。
成年後見制度を利用し手続きするよう言われた。
そこまで行わなくてはならないのか
生命保険は長い契約。若い時は理解していても、その内容が
高齢者になると、わからなくなるなどの問題も出てきている
高度障害保険金請求で本人に意思能力なく指定代理人は未設定。
相続人全員の同意が必要だが、一人が行方不明
出所:生命保険協会「超高齢社会における生命保険サービスについて~高齢者対応の向上~ (2013年6月)」より抜粋

こうした意見等を踏まえて課題を整理、かつ生保各社の高齢者への取り組みについて記した「超高齢社会における生命保険サービスについて~高齢者対応の向上」にその一端がまとめられています。2013年と少し前の資料ですが、高齢者と保険に関して、すでに発生している問題や、今後の課題が可視化されています。

「入って安心」と言われる生命保険ですが、本来は「もらって安心」を得るはずのものです。しかしそこには「請求手続き」というハードルが確固として存在します。かつそれは高齢化が進むなか、決して低くないということを、ここで知ることができるでしょう。

本人が認知症になると、解約も保険金請求もできなくなる

生命保険と一口に言っても、その保険金は家族が受け取るものと本人が受け取るものに分かれます。

本人の死亡に伴い支払われる生命保険金は、本人でなく家族など受取人が請求をして受け取ります。よって、保険に加入していることを本人が受取人に知らせておきさえすれば、請求時に問題が生じることはないでしょう。

一方、医療保険の入院給付金や、生命保険の高度障害保険金を請求する権利があるのは、被保険者本人です。ところが認知症、あるいは病気やケガで昏睡状態になった状況になると、本人が手続きできないので、保険金を受け取ることは困難になります。

前段の資料に寄せられた意見や要望には、認知症になり本人が保険金を請求できず、家族が代理で手続きをすることもできず、かといって解約もできず身動きが取れなくなる深刻な事例が複数見受けられます。

こうした状態になったあとに保険金請求や契約変更の手続きを行うには、成年後見人を立てるほかありません。

ですが、前々回の記事「『困った! 認知症の親の預金が引き出せない』、にどう備える」、にどう備える」で取り上げた通り、成年後見人を立てるためには家庭裁判所に申し立てが必要で、手間や時間、費用もかかります。

しかもひとたび後見を申し立てると、保険金請求が済んでも取り下げることはできず、本人が死亡するまで後見が続くことになります。

成年後見人に専門職が選任されれば、月2万円がめやすとなる報酬の支払いも必要になります。資料にある「そこまでしなくてはならないのか」というのも、実情に照らせばもっともな意見でしょう。

元気なうちに「指定代理請求人」の指定を

そこで事前に打てる手として「指定代理請求人」の指定があります。

これは、認知症や昏睡状態にあるなど特別の事情によって被保険者本人が保険金請求できないとき、本人によってあらかじめ指定された代理人が、代わって請求できる仕組みです。

次ページ 指定代理請求人ができること、できないこと

 

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