経済正常化で人手不足再び、「人材派遣関連株」が躍る夏相場開幕へ <株探トップ特集>

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2021年7月1日 19時30分

―コロナ禍で大打撃の労働市場は底打ちから上向きへ、派遣大手への引き合い増加―

新型コロナウイルスの感染拡大で大きな打撃を受けた人材派遣業界が回復に向かい始めた。それに伴い人材派遣関連株も上昇しており、6月30日までの直近3ヵ月間の株価は日経平均株価が1.3%下落したのに対して、人材派遣関連の代表格であるパソナグループ <2168> は15.7%上昇、パーソルホールディングス <2181> は1.4%高となっている。

足もとでは感染再拡大の兆しが見えつつあるものの、一方で東京都における百貨店の全館営業再開などで、経済正常化に向けた動きは止まることはない。また、ワクチン接種の広がりに伴って人の流れが回復すれば、更に拍車がかかる可能性が高い。既に人手不足が深刻な企業もあり、人材派遣関連には引き続き注目が必要だろう。

●有効求人倍率は底打ち

2020年の労働市場は08年秋のリーマン・ショックを受けた09年以来の悪化となった。雇用情勢を表す有効求人倍率(季節調整値)は19年3月に1.63倍をつけ、その後も1.6倍台が続いたものの、新型コロナの感染拡大を受けて20年9月には1.04倍とほぼ均衡圏に低下した。特に厳しいとされたのは、オリンピックやインバウンドを当て込んで新規開業が相次いだ飲食店やホテルで、大量採用した人員を削減しなければならない状況に陥った。

今年1月には有効求人倍率は1.10倍となり、底打ちからやや上向いたかにみえたものの、2月1.09倍、3月1.10倍と一進一退が続く。5月は1.09倍となったが、3回目の緊急事態宣言発出を考慮すると、回復に向かっているといえよう。

●建設、製造業の求人数が増加に転じる

また、有効求人倍率では見えにくいものの、既に求人が増加している業種もある。特に顕著なのが建設業で、昨年春先こそ工事がストップした影響で新規求人数は前年比で減少したものの、夏以降は底堅い動きで、今年に入っては2ケタ増が続き、5月は前年同月比7.8%増と1ケタの伸びにとどまったが6ヵ月連続で前年を上回った。もともと建設業は労働者不足が問題視されていたこともあり回復が早かった。

一方で求人数の減少が続いているのは飲食店で、5月は同4.6%増とやや上向いたが、4月まではマイナスが続いた。また、同じように苦戦していた製造業は、今年2月まで前年割れが続いたものの、3月に同8.5%増、4月同32.8%増、5月同30.3%増と大幅な増加が続く。半導体不足による自動車生産への影響などは懸念されるものの、逆に半導体の製造は増えるため、製造業の人材ニーズは増加傾向が鮮明になりそうだ。

●人材派遣大手への引き合い強まる

感染の再拡大には引き続き注意が必要なものの、ワクチン接種が進めば人の流れが回復し、今後は外食やレジャー、旅行などでも人材需要の増加が見込まれる。日本人材派遣協会(東京都港区)によると、派遣社員の実稼働者総数(四半期平均)は、20年4-6月期に13年4-6月期以来の前年同期比マイナスとなって以降、前年割れが続いているものの、21年1-3月期は94.9%と前年同期比で9割以上の稼働者数を維持しており、前期平均より5712人増加した。経済正常化に伴い再び人手不足になる可能性は十分にある。

そうした状況下では、人材派遣会社へのニーズも上昇が見込まれるが、まずは急な求人に対応できる大手に対する引き合いが強まるとみられている。上場人材派遣会社の商機は拡大しそうだ。

●UTグループ、アウトソシンなどに注目

UTグループ <2146> の21年3月期は、春先の顧客工場の一時的な稼働停止などの影響を受けて営業減益を余儀なくされたが、22年3月期は採用関連費用の大幅な増加を織り込み営業利益80億円(前期比11.7%増)と2ケタ増益を見込む。世界的な半導体の供給不足により、最終製品の生産が一時的に滞る可能性はあるものの、一方で、主要顧客である大手製造業では生産計画に対応するための人材がひっ迫しており、これが業績を牽引する。

アウトソーシング <2427> は、第1四半期(1-3月)の連結営業利益が52億600万円(前年同期比2.1倍)となったが、1人あたり売上高が大きい国内製造派遣や国内・海外の技術派遣事業、欧州の政府・公共関連事業で、コロナ禍からのリスタート時に大きなアドバンテージを獲得したことが寄与した。特に国内の技術系や製造系アウトソーシングは期初計画に対して順調に推移しており、21年12月期通期予想の営業利益251億円(前期比75.1%増)は上振れの可能性がある。

ワールドホールディングス <2429> の第1四半期(1-3月)連結決算は営業利益が16億8200万円(前年同期比23.8%増)だったが、人材・教育ビジネスのセグメント利益が前年同期比32.1%増と伸長したことが牽引した。なかでも主力のファクトリー事業で、5G・半導体関連の好調継続に加えて、自動車関連が回復したことが寄与。コロナ禍でも雇用の維持を最優先に育成体制を継続したことで現場力が向上したことも貢献した。会社側によると、第1四半期営業利益は期初計画を6割程度上回っており、21年12月期通期予想の営業利益64億6500万円は上振れ期待が高まる。

このほか、エスプール <2471> の第1四半期(20年12月-21年2月)連結決算は、営業利益が3億8700万円(前年同期比0.1%増)で、障害者雇用支援サービスにおける農園4施設の開設準備に伴う先行費用で伸び率は鈍いが、コールセンターへの人材派遣など人材ソリューション事業は計画どおりに伸長。2日に発表が予定されている上期決算への関心も高い。また、メイテック <9744> の22年3月期は上期予想のみ発表しており、連結営業利益52億円(前年同期比6.6%増)を見込む。前期に新入社員の配属遅延で低下した稼働率が改善する見通しだ。

●求人情報企業にも注目

ディップ <2379> は、緊急事態宣言などを受けてアルバイトの求人情報「バイトル」などが苦戦しており、21年2月期は特に飲食領域を中心に顧客企業からの求人広告出稿が減少した。ただ、足もとで飲食以外の開拓が進んでいることや、専門職の総合求人サイト「バイトルPRO」で専門職領域の拡充を図っている点に注目。22年2月期は営業利益77億~118億円(前期比5.3~61.4%増)を見込む。

エン・ジャパン <4849> の21年3月期は連結営業利益が前の期比で3割弱の減益となったが、下期以降業績は改善傾向にある。国内求人サイト主力のエン転職は、ターゲットが若手の人材だが、景気の回復局面ではこうした若手の営業職などのニーズが増加する傾向があり、下期に向けて売り上げ拡大を狙う企業からの採用増加が期待できる。また、3月に企業の求人用ホームページ作成や求人票を無料化するサービス「engage」を通じて集めた求人情報をまとめたサイト「エンゲージ」を開設しており、新たな送客エンジンとして、「engage」の有料シフトにも期待が持てる。

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