高成長期待の次世代半導体メモリー「MRAM」、ここから狙える注目銘柄8選 <株探トップ特集>

特集
2021年8月4日 19時30分

―日本勢が技術開発で先行、半導体産業復権へ産官学が三位一体で注力―

5G」「ビッグデータ」「AI」「IoT」「自動運転」「ロボティクス」「スマートシティ」「デジタルトランスフォーメーション(DX)」などのホットワードが近年、多数生まれ株式市場において注目されている。しかし、これらデジタル社会の実現を支える共通基盤であり、安全保障にも直結する重要な戦略技術が「半導体」だ。そんななか、株式市場では次世代半導体の「磁気記録式メモリー(MRAM)」が熱い視線を集めている。

●シェア低下の半導体分野で日本勢が技術開発で先行

半導体世界市場はさまざまな技術革新に伴って大幅に拡大している。それにもかかわらず、過去30年間で日本の存在感は低下しているのが現状だ。経済産業省が6月に開示した「半導体戦略」によれば、1988年における日本のシェアは50.3%、米国が36.8%、アジアが3.3%だったものが、2019年のシェアでは日本が10.0%、米国が50.7%、アジアが25.2%と著しいシェア低下の状況に陥っている。

半導体は「死活的に重要な戦略技術」であり、先端半導体を国内で開発・製造できるよう、海外の先端ファウンドリーの誘致を通じた日本企業との共同開発・生産や、メモリー・センサー・パワーなどを含めた半導体の供給力を高めるための半導体工場の刷新などについて、他国に匹敵する大胆な支援措置が日本においても必要だと経産省は半導体戦略の中でまとめている。一方、こうした危機感のある状況のなかで、明るい話題も存在する。それは、現時点で日本勢が技術開発において先行しており、今後の実用化期待が高い「MRAM」と呼ばれる磁気記録式メモリーだ。

●「電源を落としても情報保持」と「低消費電力」を実現

まず、MRAMが一体どういった位置づけの存在なのかをおおまかに説明しておきたい。そもそも、これまでの長い期間において、半導体の性能向上のキーワードは「微細化」に集約されていたといっても過言ではない。しかし、微細化による進化は既に限界を迎えつつあり、「微細化」に代わる技術で性能向上に立ち向かう時期が到来しているのだ。MRAMはこうした課題を打破する存在として、期待を集めている。

MRAMの特性について、簡単なところに絞っておさえておくと、「電源を切っても情報を保持することが可能」「消費電力の低減」の2点と言える。よりイメージがしやすいように既存のパソコンを例に考えてみよう。パソコンでは、ハードディスク装置(HDD)に保存され、ワークメモリーのDRAMに情報が読み出されたり、ワークメモリーからストレージに情報が記録されたりしている。言うまでもなく、電源を切れば、保存していないデータは失われてしまう。しかし、MRAMの場合は、データなどを保持したまま電源を切れるのだ。また、起動に時間がかかるなどの課題に対しても、ワークメモリーがMRAMになれば、瞬時にパソコンを作動させることが可能になる。DRAMと比べて待機時の消費電力を大幅に低減できる点も魅力だ。消費電力の低減はすなわち機器の電池寿命を延ばすことにつながるほか、地球環境に対しても非常に意義のあるポイントとなる。こうした特性からMRAMは電源を切ってもデータを保持する「究極の不揮発性ワークメモリー」とも呼ばれているのだ。

7月21日には、産業技術総合研究所の新原理コンピューティング研究センター不揮発メモリチームが、原子層レベルで制御されたタンタルを用いることで、MRAMの磁気安定性を飛躍的に改善する技術を開発したと発表。足もとでも産官学の三位一体で研究開発が活発に行われている。今回は、日本の半導体産業復権を担う可能性のあるMRAM関連の銘柄について、特選8銘柄を紹介する。

●ソニーGや東芝、ルネサス、トリケミカルなどに注目

ソニーグループ <6758> ~子会社のソニーセミコンダクタソリューションズと、ソニーストレージメディアソリューションズから独立したNextorage(川崎市川崎区)において、MRAMを大容量化したSTT-MRAM(スピン注入磁化反転型磁気抵抗メモリー)の開発を進めており、昨年10月に「IoT5Gソリューション展」で披露。なお、ソニーは東北大学半導体テクノロジー共創体に参画している。

東京エレクトロン <8035> ~東北大学半導体テクノロジー共創体に参画。18年5月には東北大学と共同で、STT-MRAMの高性能化と歩留まり率(作製したデバイスの全数に対して、良好な特性を示すデバイス数の割合)の向上の両立に世界で初めて成功している。

アドバンテスト <6857> ~東北大学半導体テクノロジー共創体に参画。18年に同社のメモリ・テスト・システムによる128Mb密度STT-MRAM の高速動作実証実験に成功している。大容量STT-MRAMの高速動作のポテンシャルのほか、量産化に不可欠な高速メモリー特性評価技術の有効性を実証している。

東芝 <6502> ~東芝のNANDフラッシュメモリー事業が分社化されて設立された持ち分法適用会社キオクシアでは、メモリー事業の製品ポートフォリオを広げ、新規メモリーの技術を開発中であり、各種の高速不揮発性メモリーの技術開発などを行っている。STT-MRAM技術では、16年に学会発表時点で世界最大容量を達成している。パテント・インテグレーションによると同社のMRAM・スピンメモリー技術の特許出願件数は300件を超えているようである。

キヤノン <7751> ~グループで真空薄膜製造装置や真空コンポーネント製品を展開するキヤノンアネルバでは、MRAM用多層膜を成膜する量産向けスパッタリング装置を手掛けている。STT-MRAMに採用される面内磁化型MTJと垂直磁化型MTJ両方の成膜に対応可能の装置である。

TDK <6762> ~07年からスピン注入磁化反転法を適用した次世代大容量MRAMの研究開発をIBM<IBM>と共同で開始している。磁気トンネル接合(MTJ)テクノロジーをハードディスクドライブの記録ヘッドに適用。

ルネサスエレクトロニクス <6723> ~垂直磁気トンネル接合STT(スピン転送トルク)と呼ばれる新しい独自技術を利用したMRAMを提供。長いデータ保持と高速性を備えたクラス最高の不揮発性メモリーを実現。

トリケミカル研究所 <4369> ~半導体の材料となるエッチングガスや成膜材料、有機金属材料、特殊試薬などを手掛けている。先端半導体向け材料など海外を中心とした新規材料の需要増に即応できる体制を持つ。韓国のSKマテリアルズとの現地合弁会社は順調。

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