【植木靖男の相場展望】 ─信用買い残の減少待ちか
「信用買い残の減少待ちか」
●再確認したいテーパリングの中身
日経平均株価は7月中旬から8月上旬での中段の保ち合いを下に放れてきた。これで20年3月から本年2月まで騰げに騰げた上昇相場が終焉したことが確定的となった。
本年1月からの買い玉が統計的にはすべて損になったのである。
確かに市場環境からいえば苦しい状況が続く。いま3つの変数が顕在化している。1つはコロナワクチンの接種率の上昇だ。市場では欧米の例にならって1回目の接種率が60%になればノーマスク、つまりコロナ禍での経済正常化になるとみていたが、変異株の感染拡大で70%以上に変わったとの見方である。線引きはともかく接種率の上昇は株価にとってプラス材料だ。一方、ここへきて感染者数の爆発的な増加が続いている。これは先行きの景気に影響を与えよう。株価にはマイナス材料である。
いまはこのプラス、マイナス材料のせめぎ合いだが、印象では感染者の増加の方がスピードで勝っているようだ。
となると、3つめの変数である米国株。米国市場はいまだに崩れていない。ただ、この先さらに史上最高値の更新を続けられるのかどうか。世界の株価はもとより日本株にも大きな影響をもたらすだけに注視したい。目下、テーパリング(量的金融緩和の段階的縮小)への警戒感があるが、再確認しておきたいのはその中身だ。「テーパリング=金融引き締め」ではない。いまの月額1200億ドルの債券購入をどのくらい減らすかであり、テーパリング後でも余剰資金は積み上がっていくのである。
さて、需給面で触れなければならないのは、信用買い残の動向である。20年3月の大暴落では僅か2カ月で30%も信用買い残が減少した。それだけにその後、株価は急反発している。しかし、今回はたった6%しか減少していない。つまり、遅々として信用買い残の整理は進んでいないのだ。先行きのためにも、どうしても買い残の急減が待たれるところだ。
●第一三共を軸に医薬品株に注目
では、当面の株価はどう動くのか。米国株については、やはり8月26~28日のジャクソンホールでのFRB議長の発言、テーパリングの具体論に注目が集まろう。日本株にとって米国株動向が最大のカギとなる。ジャクソンホールを経て、米国市場はより厳しい局面を迎えるのか。あるいはホッとして一段高となるのか。
いずれにしても、東京市場は中段の保ち合いを下に切った以上、もう一段の下げは十分に考えられるところだ。値幅よりも日柄に注目したい。年末から年始にかけて目標を定めるのであれば、ここで焦る必要はないだろう。
さて、物色の方向であるが、7月以降活躍した海運、鉄鋼、自動車などの主力どころは、概ね高値をつけて3日続落しているところをみると、休養に入ったとみられる。ここからは下手に近づかないことだ。
代わって主導権を握ったのが医薬品株だ。牽引役の第一三共 <4568> にはまだ乱れはみられない。どこまで仲間を引っ張るか。テルモ <4543> 、タカラバイオ <4974> 、ライオン <4912> 、メドピア <6095> などに注目したい。1つの上昇相場が終焉した後は、医薬品株が台頭するのは市場の習性でもある。おそらく先行き景気に不安があっても、“薬(くすり)九層倍”ではないが、医薬品企業は常に高収益を保つ傾向があるからだろう。
このほか、小型株ではLink-U <4446> 、ライフコーポレーション <8194> 、FRONTEO <2158> [東証M]、浜松ホトニクス <6965> などから出世株が出るのかどうか。また、往年の仕手株、平和不動産 <8803> が動意含みだ。
2021年8月20日 記
株探ニュース