“岸田総裁”誕生で脚光、動き出した「岸田関連」本命・穴株総ざらい <株探トップ特集>
―総選挙控え成長戦略に注目、高市氏の処遇や内閣人事も今後の焦点へ―
自由民主党の総裁選挙が9月29日に行われ、決選投票の末、岸田文雄氏が新たな総裁となることが決定した。
衆議院解散と総裁選に関する思惑から、8月下旬以降上昇志向を強めた株式市場は、3日午前に菅義偉首相が総裁選に出馬しないと表明すると、首相交代に伴う経済対策への期待感から更にピッチを強める展開となった。日経平均株価は9月14日に年初来高値3万795円に上昇し、その後も3万円を挟んだ動きが続いた。
この間、新総裁に対する期待感も相当程度、織り込まれたとの見方も強く、総裁選当日の29日は米長期金利の上昇を背景に28日の米国株式が大幅下落したこともあり、日経平均株価は640円近い大幅安となり、翌30日も冴えない動きとなった。ただ、今後具体化する岸田政権の発足や、10月21日の任期満了に伴う総選挙を控えており、今後も政策絡みの動きがマーケットの最大の焦点となりそうだ。
●決選投票で257票を獲得し新総裁に選出
今回の自民党総裁選は、安倍晋三前総理大臣の辞任に伴う2020年9月の選挙とは異なり、岸田派を除く多くの派閥で支持する候補者の一本化を見送る動きが相次ぐ、異例の総裁選といわれていた。前回の総裁選では実施されなかった党員投票が3年ぶりに行われる「フルスペック」の総裁選で、国会議員1人1票の「国会議員票」382票と、全国の党員・党友による投票で配分が決まる「党員票」382票の合わせて764票を争い、1回目の投票で岸田氏256票、河野太郎氏255票、高市早苗氏188票、野田聖子氏63票(議員票は棄権・白票が2)を獲得。どの候補も過半数に届かなかったことから、岸田氏と河野氏の上位2人による決選投票(議員票382と都道府県連票47の計429票)が行われ、その結果、岸田氏が257票(議員票249・都道府県連票8)、河野氏が170票(議員票131・都道府県連票39)を獲得し新総裁に選ばれた。
今後は10月4日に臨時国会が召集され、新首相を選出する首班指名選挙が行われる。ここでは自民党総裁となった岸田氏が新総理に選出されるのはほぼ確実視されており、「岸田政権」が発足することになる。
●外務大臣の在職期間は戦後2位
新総裁となった岸田氏は、1982年に早稲田大学法学部を卒業後、日本長期信用銀行に入行。5年間勤めた後、父・衆議院議員岸田文武氏の秘書を経て93年に旧広島1区から出馬し初当選した。2001年に第1次小泉内閣で文部科学副大臣に任命された後、07年の第1次安倍改造内閣で内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、規制改革、国民生活、再チャレンジ、科学技術政策)に任命され初入閣。その後、内閣府特命担当大臣(沖縄及び北方対策、規制改革、国民生活、科学技術政策)、消費者行政推進担当・宇宙開発担当大臣、外務大臣、防衛大臣(外務大臣と兼務)などを歴任。特に外務大臣の在職期間は戦後2位の長さであり、外交通として知られている。また、自動車工業界や中小企業零細対策に詳しいともいわれている。
●原発再稼働やコロナ対策などの経済対策を掲げる
岸田新総裁の誕生に対しては、株式市場からは「ほぼ予想通りの結果となった」との声が聞かれるが、基本的にポジティブにとらえる向きが多いようだ。
今回の総裁選で、岸田氏が掲げた経済対策は主に5つで、(1)市場原理を重視する「新自由主義経済」からの転換と「成長と分配の好循環」を通じた格差縮小(2)「医療難民ゼロ」「電子的ワクチン接種証明の活用」などの新型コロナ対策(3)防災・減災・国土強靱化投資の拡充(4)地方におけるデジタルインフラの整備などデジタル田園都市国家構想(5)原発再稼働などを含むエネルギー政策とされる。また、中身については明確にされていないものの、数十兆円規模の経済対策、補正予算が必要と主張している。
●「医療難民ゼロ」「GoTo再開」などに注目
総裁選が近年まれに見る盛り上がりをみせたことで、既に期待感を一部先取りして関連銘柄への物色が進んでいるが、11月に行われると目される総選挙に向けて、政策への関心が高まることが予想され、岸田総裁関連には改めて注目が必要だ。
「医療難民ゼロ」に対する思惑から、医療機器商社で病院の設備及び医療機器の調達をワンストップで手掛けるレオクラン <7681> [東証2]は「岸田関連」として個人投資家の人気を集めたが、「電子的ワクチン接種証明の活用」では「GoToトラベル」の活用が改めて話題になるとみられ、JR東日本 <9020> 、JR西日本 <9021> 、JR東海 <9022> をはじめとする鉄道各社や日本航空 <9201> 、ANAホールディングス <9202> などの航空会社に注目。藤田観光 <9722> などのホテル各社や、エイチ・アイ・エス <9603> 、KNT-CTホールディングス <9726> などの旅行会社、アドベンチャー <6030> [東証M]、エアトリ <6191> など旅行予約サイトも関心が高く、京都や鎌倉などで着物レンタル店を展開する和心 <9271> [東証M]も観光客増の思惑で急騰した経緯がある。
同様に「GoToイート」の再開も話題になるとみられ、ぐるなび <2440> 、カカクコム <2371> 、Retty <7356> [東証M]などのグルメサイト各社も思惑を呼びそうだ。
●デジタル化、脱炭素は継続の見通し
国土強靱化では大成建設 <1801> 、大林組 <1802> などの大手ゼネコンのほか、ライト工業 <1926> 、日特建設 <1929> などの特殊土木会社も注目される。
デジタル田園都市では、自治体向けデジタルトランスフォーメーション(DX)支援に強みを持つITbookホールディングス <1447> [東証M]や5G関連の一角であるアンリツ <6754> 、ネットワンシステムズ <7518> などが改めて関心を呼びそう。また、前述の数十兆円規模の経済対策はコロナ対策が中心となり、持続化給付金の再支給なども検討するとしていることから、中小企業向け助成金診断システムを手掛けるライトアップ <6580> [東証M]も要注目だ。
原発再稼働では、総裁選の政策論争で注目が集まったことから、東京電力ホールディングス <9501> 、中部電力 <9502> 、関西電力 <9503> など電力各社が既に上昇している。一方、再生可能エネルギー関連には一服感も目立つが、菅政権から続く「脱炭素」政策は引き継がれることから、イーレックス <9517> 、レノバ <9519> なども引き続き注目したい。
●高市氏の重用にも注目
自民党総裁選で岸田新総裁が誕生したことで、今後の焦点となるのは、10月21日に任期満了となる衆議院選挙だろう。現時点では「10月26日公示、11月7日投開票」または「11月2日公示、11月14日投開票」が有力視されている。
自民党への風当たりは強いものの、総裁選で各候補が政策論争を繰り広げたことで自民党支持率が上昇していることや、新内閣発足後の内閣支持率は大幅上昇する傾向が強いこと、一方で野党が支持を集めているわけではないことから、今回の総選挙での政権交代の確率は低いとみられている。「岸田首相」誕生となれば、野党が規模を競うように積極財政を掲げていることもあり、総選挙後に補正予算が議論されることが予想される。経済対策の中身が具体的になるにつれ、上記以外の銘柄が人気化する可能性も高い。
このほか、今回の総裁選において議員票で114票を獲得した高市氏の健闘が目立ったことから、岸田政権で重用される可能性があり、高市氏が政策として掲げた核融合炉や量子コンピューターに関連した銘柄が再注目される可能性がある。また、高市氏以外の内閣人事も市場の関心が高く要注目だろう。
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