原油高は脱石油の代償、エネルギーの奪い合いが始まったのか? <コモディティ特集>

特集
2021年10月6日 13時30分

石油輸出国機構(OPEC)プラスは4日の会合で日量40万バレルの増産合意を維持した。原油高が強まっていることから増産ペースの拡大を主張する産油国があったが、追加増産は合意に至らなかった。ニューヨーク市場でウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は1バレル=80ドル付近まで上昇し、2014年11月以来の高値を更新している。

会合前、アブドルジャバル・イラク石油相は「1バレル=100ドルの相場は維持不能で、OPECは安定的な市場を望んでいる」と発言しており、どちらかといえば追加増産を支持していたのではないか。ただ、OPECプラスは来年にかけて段階的な増産を続け、減産目標を解消することを目指しているため、足元の追加増産に否定的な産油国のほうが多かったようだ。OPECプラスは増産をためらっているわけではない。

●原油高の原因は供給不足

原油価格が上昇している背景は供給不足(需要超過)である。依然として新型コロナウイルスが流行しているものの、欧州や米国などでは経済活動が正常化し石油需要が回復しているため、需給バランスは需要超過気味に推移している。世界的な石油在庫の指標である経済協力開発機構(OECD)加盟国の商業在庫は減少傾向だ。

OPECプラスが十分に増産しないなら、他の産油国が生産量を拡大すれば需要超過気味のバランスは動かせるが、確実にバランスを動かすことのできる産油国は米国しか存在しない。しかし、 脱炭素社会へ向けて米国の石油会社は増産のための追加投資に後ろ向きである。世界的に石油会社は生き残りの道を模索しているところであり、増産を検討している場合ではない。安定的な発電手段はともかく、電力と比較して、石油など化石燃料は時代遅れであり、クリーンではない。

欧州で天然ガス価格が高騰している背景も供給不足である。原油の新たな採掘が積極的に行われていない以上、天然ガスの供給も制限される。乏しくなっていく供給を奪い合う時代にすでに入ったのではないか。電力不足に悩む中国がエネルギーの確保を表明したことも、需給ひっ迫を後押しするだろう。中国にとっても地球温暖化対策目標の達成は重要だが、経済活動を台無しにする停電が発生するのでは本末転倒である。

●脱炭素社会へ向かう過程での移行コスト

現在のエネルギー高は世界が脱石油へ向かうための代償である。 再生可能エネルギーへの投資が増え、新規の石油投資を敬遠する動きが広がっている以上、燃料高は受け入れざるをえない。新型コロナの流行を抑制するためにきつい副作用に耐え、行動を制限する世界と似通っている。辛抱強く耐え忍んだ先に、再生可能エネルギーで満たされた明るい未来がきっとある。ジョージ・オーウェルの小説「1984」のようだとしても、全体として足並みを揃えることこそが、目標の達成につながるはずだ。理想のためなら、ある程度の規制は仕方がない。

地球温暖化を回避し、理想的な未来を手に入れるには化石燃料から離脱する必要がある。バルキンドOPEC事務局長が指摘するようなトランジション・プレミアムを消費者が負担しなければならない。トランジション・プレミアムとは、脱炭素社会へ向かう過程での移行コストであり、経済の痛みである。さらなる原油高が経済活動を台無しにする可能性はあるとしても、我慢することが未来のための美徳である。原油高を受け入れよう。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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