植草一秀の「金融変動水先案内」 -高値波乱相場への対応-

市況
2021年10月23日 8時30分

第69回 高値波乱相場への対応

●急反騰と急反落

会員制レポート『金利・為替・株価特報』では本年4月以降、日本株式市場の「高値波乱相場」への移行を予測してきました。日経平均株価は2月から8月にかけて右肩下がりのボックス相場を示しました。菅内閣(当時)がコロナ対応に失敗したことを反映しての相場推移でした。日本の新型コロナウイルスの新規陽性者数は8月20日にピークを記録しました。これと平仄(ひょうそく)を合わせて日経平均株価は8月20日に年初来安値を記録しました。9月3日に菅首相が辞意を表明したときには、すでに新規陽性者数の減少が始動していました。私は8月23日付のブログ記事にコロナ陽性者数のピークアウトの可能性を記述しています。

9月3日に菅首相が辞意を表明すると、株価上昇に弾みがつきました。世界の株価変動のなかで日本株だけが独歩安の状況を示していたのですが、この独歩安が解消に向かったのです。日経平均株価は9月14日に3万0795円まで上昇し、2月16日の3万0714円を上回りました。31年ぶりの高値を記録したのです。レポートでは2015年、2018年と同様の株価反発の局面があるとの見通しを提示していました。コロナのピークを見定めて株価が猛烈な勢いで反騰した局面でした。

しかし、その後の日経平均株価は急反落に見舞われました。9月29日の自民党総裁選で岸田文雄氏が新総裁に選出されたのですが、その直後から株価が急落。「往って来い」の展開になってしまったのです。

●高値圏内での乱高下

岸田氏は総裁選の過程で新自由主義の見直しを公言して、「新しい資本主義」を提言しました。そのなかで金持ち優遇の主因になっている金融所得課税の見直し方針を示しました。株式市場ではこの政策提言が株価下落の要因になったと指摘されていましたが、真偽は定かでありません。中国不動産大手の恒大集団(エバーグランデ)を巡る危機が拡大して市場心理が悪化したこと、米国金融政策の方向転換の可能性が強まったことなどが重なっており、要因を特定することは困難です。

10月6日に日経平均株価は2万7293円まで下落。8月からの急騰値幅の91%がわずか3週間で消滅してしまいました。ところが、10月4日に岸田内閣が発足して以降は、日経平均株価が再度急騰し、10月20日には2万9489円まで値を戻したのです。しかし、その後は再び急反落。文字通りのジェットコースター相場が展開されています。

このような局面で重要になるのは、的確な基本観を持つことです。私が提示した見通しは、暴落にはならないが高値圏内で株価が乱高下するというものでした。いわゆる「高値波乱相場」が示現するというものです。

株価が下落する要因と株価を押し上げる要因が同時併存していることが、このような相場変動をもたらすのです。株価を下落させる要因はFRBの政策転換=過剰流動性の縮小、新型コロナ、エバーグランデ経営危機、政局変動です。他方、株価を支える要因が景気拡大の持続と過剰流動性の存続です。

●株価急反発のメカニズム

2020年3月のコロナショックによる株価急落後、米国を筆頭に未曾有の財政金融政策が発動されました。GDP比で13~14%規模の財政支出追加は史上空前の規模と表現することができます。同時にコロナ倒産を回避するための信用創造が無制限、無尽蔵の規模で実行されました。リーマン危機と比較して今回のコロナ不況では企業倒産が著しく抑制されましたが、その最大の背景は資金繰り融資が広範に提供されたことです。

この施策の結果として、バブル期以来の過剰流動性が金融市場に供給されたのです。2020年3月以降の資産価格大暴騰の主因が、この過剰流動性の供給にあったことは間違いありません。『金利・為替・株価特報』では2020年秋に「過剰流動性相場の示現」を予測しています。

しかし、コロナショックから時間が経過し、世界経済の順調な回復が確認されるなかで、米国金融政策の方向転換が日増しに濃厚になり始めています。同時に米国の現実のインフレ率がFRB目標の前年比2%を大幅に超える4%超に達したことも確認されています。マネーストックの伸び率はバブル期以来の高水準を示していましたが、この数値に劇的な変化が観察され始めています。

それでも、過剰流動性が一気に消滅するわけではなく、株価が深押しすると、この過剰流動性の力で株価は一気に反騰するのです。株価変動が何に規定されているのか、株価変動を引き起こすマネーの水脈がどの程度の水圧を有しているのかを把握することで、相場変動の大きな枠組みをある程度予測することが可能になってきます。

●理路整然とした相場変動論理

このようなジェットコースター相場ですから、対応を誤ると二重、三重の損失に直面してしまいます。高値波乱相場への対応の基本は「逆張り」です。「逆張り」で的確に対応するにはテクニカルなサポートが必要不可欠になります。チャート分析の基本ツールであるストキャスティクスやRSIなどの指標をフル活用して「逆張り」のタイミングを測ることが大切になります。

世の中には「チャートに頼るな」などの人の目を惹くキャッチコピーが氾濫していますが、相場変動のタイミングを測るにはチャート分析のツールが必要不可欠です。人の目による交通量測定よりAIを用いた測定の方が精度が高いのと同じです。

10月1日に日銀短観が発表されましたが、大企業製造業では先行きの業況悪化見通しが示されました。日本経済は2020年5月に大底を記録して景気回復過程に移行しましたが、その景気が再び調整局面に移行する分岐点に差しかかっています。景気後退を回避するには財政政策の対応が必要不可欠になります。日本はGDP比13%の財政支出追加を決めましたが、実はその半分が執行されていないのです。これも日本経済再停滞の原因です。

このタイミングで財務省が財政政策活用阻止の主張を始動させたことに警戒を払う必要があります。バブル崩壊後の日本経済の低迷が深刻化、長期化した主因が、財務省の近視眼的な政策主張にあったことを思い起こす必要があります。

米国の金融政策変化を判断するための重要イベントとして11月2-3日のFOMCと5日の10月雇用統計発表があります。中国エバーグランデの経営破綻リスクは残存しています。景気拡大の持続と水準としての過剰流動性が存続するために、押し目からの株価反発力は健在で、相場変動が荒々しくなりますが、そのなかに貫かれる理路整然とした法則性を冷静に見定めることが投資パフォーマンス向上のために欠かせません。

(2021年10月22日 記/次回は11月13日配信予定)

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