「人類最大の発明」で、7年で3倍を12年で9倍にパワーアップ
いくぜ、アメ株! 二刀流の極め技 Yasuさんの場合-第3回
登場する銘柄
アマゾン・ドット・コム<AMZN>、テスラ<TSLA>、ジョンソン・エンド・ジョンソン<JNJ>、バークシャー・ハサウェイB<BRK.B>、ルルレモン・アスレティカ<LULU>、バンガード・トータル・ストック・マーケットETF<VTI>、エネルギー・セレクト・セクターSPDRファンド<XLE>、村田製作所<6981>、アリアケジャパン<2815>、三菱地所物流リート投資法人<3481> |
大企業でIT(情報技術)系の技術職で働きながら、日米の株式投資を30年以上続けてきた。渡米経験で米・ハイテク株に目覚め、紆余曲折を経て長期投資する手法を確立。含み益を増やし2014年にFIRE(早期退職)達成。
今は専業投資家として配当金などで暮らす。足元の運用資産は300万ドル弱(約3億4000万円)。米国株の保有銘柄数は30。米国株以外に、投資信託や日経225のオプション取引などを手掛ける。
性格は倹約家、楽観的。上左の画像は品川神社の銭洗い。金運のパワースポットの一つとして毎年参拝している。
第1回「大化け前のGAFAMを掴んで、アメ株資産300万ドルの道」を読む
第2回「日本にいながら次世代GAFAを発掘する情報収集術」を読む
Yasuさん(ハンドルネーム)のアメ株資産は2001~07年の7年間で、3.3倍に増えている。具体的には391万円から1286万円だ。追加の元本投入もあるので、本来なら内部収益率(IRR)で投資の効果を測るのがふさわしい。とはいえ、資産を拡大させたことはたしかだ。
参考までに2000年末から07年に米ダウ工業株30種平均、S&P500種株価指数、ナスダック総合株価指数の騰落を見るとほぼ横ばいで、ドル円レートも同様だ。とすると、この間のYasuさんの運用成績は、追加元本はあるとはいえ、市場平均を上回る内容といってもよかった。
それでもYasuさんは自身の取引に満足していなかった。その理由を象徴するのが、アマゾン・ドット・コム<AMZN>の取引。2001年にアマゾン株を17ドルで購入したものの、少し値上がりすると保有していた200株をすべて手放してしまったのだ。
07年末時点で同社株は92ドルと、購入価格の5.4倍に拡大していた。足元のアマゾン株は3560ドルほどと、購入時の約210倍に超大化けしている。
投資に「タラレバ」は禁物だが、仮に01年から売らずに持ち続けていれば、足元の評価額は1ドル=113円換算で8000万円相当になっている。「今でも思い出すと、悔しくなる」と本人は振り返る。
■『株探米国株』で確認できるアマゾンの月足チャート(2000年1月~)
注:出来高・売買代金の棒グラフの色は当該株価が前期間の株価に比べプラスの時は「赤」、マイナスは「青」、
同値は「グレー」。以下同
アマゾン株以外もその後の大化け株をすぐに手放すことを繰り返して後悔していた当時のYasuさんは、08年頃から投資スタイルを変え始める。それが吉と出て、07年時点で1286万円のアメ株資産が、12年後の19年には約9倍の1億1300万円に化けている。
同様にこの12年の間に各指数の騰落状況をみると、ダウ平均は2.2倍、ナスダック総合は3.4倍に拡大している。指数も大きく伸びたが、Yasuさんは投資戦略の変更によって、指数をアウトパフォームする状況に拍車がかかった格好だ。
なお07年と19年時点の12年間で比較したのは、20年に日本株資産の大半をアメ株に移し、それによって資産が膨らんだ面もあるためだ。
ではYasuさんが08年頃から変更した投資戦略のポイントとは、どんなものか?
意識したのは複利効果の最大化
それは、長期投資で複利効果を最大限に発揮すること。20世紀を代表する物理学者のアルベルト・アインシュタインが「人類最大の発明」と評した複利。投資の教科書でも複利効果の重要性は言及されているので、特に驚きはないかもしれない。
しかし、Yasuさんが意図する複利効果は、よりこだわりがある。それは、最近、米テスラ<TSLA>創業者のイーロン・マスク氏が行った同社株の取引で話題になったことにも関係する。
08年頃からYasuさんは高成長が持続しそうなハイテク株を5年いや10年スパンで保有することを意識した。通常、長期取引は保有期間が1年以上のことを指すので、5年や10年というのは超長期の投資戦略になる。なぜ超長期なのかといえば、複利効果がより発揮されるから。
ただYasuさんがこだわる複利効果とは、一般的なイメージにあるリターンの再投資とは、やや異なる面がある。リターンの再投資とは、キャピタルゲインやインカムゲインを消費に回さず、引き続き投資に回すことを指すことだ。
だがYasuさんにとっての複利効果は、課税の回避。より厳密には株式譲渡益課税を負担しないこと。短期間で利益確定すれば、そのたびに課税される。また利確の頻度が多くなれば、取引手数料の負担も積み増すことになる。
株式譲渡益課税を支払っても、損益通算制度で節税できる場合もある。が、そもそも損失を出さないようにするのが投資の本来の姿だ。それを踏まえれば、たとえ損益通算で節税できても、それで複利効果を発揮したことにはつながらない。
含み益で資産が大きく膨らんだ最も顕著な例が、イーロン・マスク氏の個人資産だ。同氏は経営者としてテスラを急成長させ、その額は35兆円にもなる。この状況に、含み益に課税されないのは貧富の格差拡大を招く一因と、同氏に対しても批判の矛先が向けられた。
マスク氏は、自社株を軽々と手放すことはしない創業者兼経営者で、一般の投資家と同列に扱えない立場だ。それを承知の上で今回の「含み益騒動」から投資の教訓を見出すとすれば、次のようになる。
長期保有で課税されずに含み益を膨らませていけば、批判を受けるほど資産を拡大できる可能性がある――。
手探りで長期投資スタイルを確立
こうしたYasuさんの長期投資戦略は、2つの情報源が元になっている。
2007年に手にとったのは、荒井拓也氏の著書『決定版 1000ドルから本気でやるアメリカ株式投資―長期資産形成! いま、原点からの戦略』(NTT出版)だ。
同書では、長期投資をする上で、グーグルやアップルのような競争優位性が高くて業績が安定している銘柄を選ぶことを推奨している。初回で紹介した銘柄選びの技は、ここから着想を得た部分もある。
そして約3年後、Yasuさんの長期スタイルを進化させる情報源となったのが、前回にも触れた米・投資情報サイト「The Motley Fool(モトリーフール)」だ。有料サービスを活用し、長期投資に対するマインドなどを学んだ。
当初は同サイトのオーナーが自分でもグロース銘柄に長期投資をしていて、その内容を会員に共有していたという。Yasuさんは有料会員として「最低20銘柄を5~10年は持っていて下さい」「余程の事がない限り売らない」などとアドバイスを受けた。
だが一口に「長期投資」といっても、言うは易く行うは難し。5年、10年スパンで株を売らずに持ち続けるには、時にはメンタルの強さ、忍耐力が求められる。
そうした中で、Yasuさんが超長期投資の戦略を実行できた原点は、1990年代の渡米経験にある。その当時、目にしたものは、ITにまつわる研究開発そして事業化意欲の高さや活況な光景に衝撃を受けたためだ。
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