小麦価格上昇で注目される日清粉G<東条麻衣子の株式注意情報>

市況
2022年3月2日 20時00分

前回の記事から筆者の全体相場の見立ては変わっていない。原油価格が高騰している今、株式市場に短期の上げ下げはあれど、基調としては下落トレンドにあり、上値の重い展開が続いている。今回は米国の小麦価格の上昇に着目して、注目される個別銘柄について書こうと思う。

本コラムの執筆時点(3月2日現在)で、米国小麦先物の価格は1ブッシェル=10ドルを超えて推移している。

この上昇の勢いを見て思い出されるのは、2010~11年にかけて発生した民主化運動「アラブの春」ではないだろうか。「アラブの春」の予兆は2008年までの小麦価格の高騰に表れていたとの見方がある。リーマン・ショックなどの余波で失業率が高まっていた北アフリカの貧困層を食料価格の高騰が直撃し、民主化デモの引き金となったとするものである。

その間の日経平均株価は、小麦価格の上昇と反比例するかの如く、2007年7月から2009年2月まで約61.8%下げている。

当時、全体相場が弱含む中、2007年7月から2008年2月まで横ばい推移し、その後7カ月連続で月足陽線を形成したのが日清製粉グループ本社 <2002> だ。

日清粉Gはその後、2014年にはウクライナ・クリミア情勢の緊迫化(ロシアによるクリミア半島併合)を背景に、小麦の国際市況高騰が思惑視されて連日、高値更新を続けたことがある。

■日本の輸入小麦価格

日本は小麦の国内需要の約9割を海外からの輸入に頼っているが、輸入小麦の大部分は国が買い付けており、小麦価格は国が買い付けした価格の平均で決まる。それを製粉会社に売り渡す仕組みになっている。

売り渡し価格は直近の買い付け価格に基づき半年ごとに見直される。そのタイミングとなる今回は3月中に農林水産省から見直しの結果が発表され、4月1日から価格が改定される。

日本の小麦輸入量のおよそ5割を占める米国の小麦価格は直近半年間で上昇しており、今回も小麦価格の引き上げが発表される可能性が高い(前回の2021年10月は同年4月に比べて19%引き上げられ、13年ぶりの大幅値上げだった)。

■小麦備蓄と在庫評価

日本の製粉会社は国家貿易制度に従い、2.3カ月分の小麦を備蓄している。半年に1度の小麦価格改定で、価格が引き上げられると、備蓄分の在庫評価が高まり、業績にプラスに寄与する。つまり、もし今回の価格改定で引き上げとなれば、4-6月期の決算にプラスに寄与することになる。

2008年にかけての小麦価格上昇の際に、日清粉Gの株価は、同年3月の小麦価格改定発表から次の価格改定の時期まで上昇を続けている。

つまり、業績へのプラスの寄与が確認されてから、その小麦価格での取引が続いている間、日清粉Gの株価は上昇し続けた形だ。

ともに小麦の主要生産国であるロシアによるウクライナ侵攻、銀行間国際決済ネットワークである「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からのロシアの一部銀行の排除など、欧米を巻き込んで状況は混迷を深めており、事態が一気に好転することがない限り、小麦価格が急落するとは考えにくい。

現在の日清粉Gの株価は、ボックス相場の底値圏を横ばいで推移しているように見える。小麦価格高騰による需要減が懸念されていることもあろうが、過去の事例を踏まえると価格改定を機に株価は動き出す可能性があるのではないだろうか。

個人的には今の水準であれば、リスクの取れる範囲で少しずつ拾い、中長期目線でホールドしてみてもよいのではないかと考えている。(2022年3月2日 記)

◆東条麻衣子

株式注意情報.jpを主宰。投資家に対し、株式投資に関する注意すべき情報や懸念材料を発信します。

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