ロシア・リスクの高い30銘柄、低い30銘柄をランキング
大川智宏の「日本株・数字で徹底診断!」 第84回
智剣・Oskarグループ CEO兼主席ストラテジスト
2005年に野村総合研究所へ入社後、JPモルガン・アセットマネジメントにてトレーダー、クレディ・スイス証券にてクオンツ・アナリスト、UBS証券にて日本株ストラテジストを経て、16年に独立系リサーチ会社の智剣・Oskarグループを設立し現在に至る。専門は計量分析に基づいた株式市場の予測、投資戦略の立案、ファンドの設計など。日経CNBCのコメンテーターなどを務めている。
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ロシアのウクライナ軍事侵攻で、株式市場は大荒れになっています。経験則からは、地政学リスクの高まりは株式市場の買い場と言われますが、今回のケースは落としどころが見えにくく、紛争が長期化する恐れがあります。
NATO(北大西洋条約機構)はロシアの主張を認めるわけにはいかない一方、NATOがロシアに軍事攻撃に出て第3次世界大戦になるような事態は絶対に避けなくてはなりません。
投資家は今後もウクライナ、ロシアを中心とした地政学リスクによる市場の混乱は、継続の可能性が高い前提で備えておく必要があります。
具体的には、ロシアの主要株価指数そして予想収益の変化との相関が高い銘柄、低い銘柄を判別して、相関が高い銘柄に対しては慎重な姿勢を維持することになります。
その抽出作業に入る前に、この機会に予備知識としてロシアの株式市場や主要な株式指数の概要についておさらいします。
全時価総額の4分の3が資源関連
ロシアの株式市場は、イメージ通りに燃料や資源を扱う企業がその大半を占めます。
ロシアの株式市場に上場している銘柄について、セクターごとに時価総額の割合を算出すると、原油・ガス・石炭などの燃料を産出・提供する企業が52%、金属やレアメタルなどを扱う企業が23%と、いわゆる資源関連の銘柄だけで市場全体の75%に達するという、相当に偏った資源大国であるといえます。
今回の侵攻に伴う制裁措置がロシア経済に与える影響は、資源高を発端とする世界のインフレの進行やグローバルに展開する海外の資源関連の銘柄にとって、無視できない大きなインパクトを与えうると考えるべきでしょう。。
■ロシア株市場の業種ごとの時価総額割合
原油・ガス・石炭 | 52.20% | 不動産 | 1.50% |
金属・鉱業 | 23.00% | 小売 | 0.90% |
金融 | 11.70% | 航空・国防 | 0.60% |
化学・工業原料 | 4.30% | 運輸 | 0.50% |
電力 | 2.80% | 食料品 | 0.30% |
通信 | 2.00% | 旅行・レジャー | 0.20% |
続いて、ロシアの株式指数についてです。代表的なのは、
MOEXロシア指数
RTS指数
MSCIロシア指数
――の3種類が存在してきました。
最初に挙げたMOEXロシア指数(以下MOEX)は、時価総額加重平均型の株価指数で、長年株式市場に携わっている方からすると、2017年に取引所の変更で名称が変わる前のMICEX指数の方が馴染み深いかもしれません。構成銘柄数は、概ね40銘柄程度です。
続くRTS指数(以下RTS)は、こちらも時価総額加重平均型で、構成銘柄もMOEXと同じです。両者の違いは、指数の算出通貨がMOEXは現地通貨のルーブル、RTSはドルであることです。
この通貨の違いから、RTSは主に海外投資家用、MOEXは国内投資家用という位置づけになっています。今回はこのMOEXとRTSを、株価の連動性を計測する要素として使用します。
最後のMSCIロシア指数は、国際的にも最も汎用性の高い指数ですが株価連動性の計測対象にしないのは、米MSCIがウクライナ侵攻にまつわる制裁の一環から同指数の算出を2月24日に凍結したからです。
MSCIは3月10日からロシア地域市場としての指数を新たに算出する予定ですが、それまでの指数との継続性に疑問符が付きます。ただし、銘柄のアナリストのコンセンサス予想の指数集計値を取得可能であるため、今回は旧来のMSCIロシア指数を業績見通しの連動性を算出する目的で用いました。
ロシアの偏った業種の局所的な作用が問題に
まず株価の連動性の対象とするMOEXとRTSの推移を確認しましょう。
下のグラフのように、通貨の強弱によって最終的なパフォーマンスには大きな開きが出てくるものの、各局面における騰落自体はほぼ一致しており、構成銘柄数や算出方法が実際に同一であることが分かります。
TOPIX(東証株価指数)との比較では、2020年以降のコロナ禍とグローバル過剰流動性という世界共通のリスクと押し上げ要因が強まっていた期間以外は多くの局面であまり連動性はありません。
日本株市場全体への影響というよりは、前述のように偏った業種の見通しの変化による局所的な作用が問題になる可能性があり、個別銘柄レベルでの銘柄の判別の重要性が高いと考えられます。
■ロシアの株式指数およびTOPIXの推移(10年前=1)
出所:データストリーム
株価指数と相関性の高い10銘柄と低い10銘柄は
それでは、株価指数との連動性を検証していきましょう。
具体的には、東証1部上場銘柄について、MOEXおよびRTSと、個々の銘柄の過去10年間の月次の株価変化率の相関係数をそれぞれ計算します。そして、両者の相関係数を平均することで、株価指数との連動性の上位、下位を数字として定義します。
連動性が高い10銘柄は、次ページの通りになります。
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