明日の株式相場に向けて=世界株・反騰ビッグウェーブの真相
きょう(10日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比972円高の2万5690円と急反騰。満を持して5日ぶりに大きく切り返したが、実際何を好感して投資資金が流入したかというと明確な材料はなく、「グローバルベースで買い方の仕掛けが入ったというよりない」(中堅証券ストラテジスト)という。東京市場はあすがメジャーSQ算出日にあたり、2万4000円のプットや2万5000円及び2万5500円のコールなどが積み上がるなかで思惑が錯綜、極めてボラタイルな値動きとなった。
日経平均の上げ幅は一時1000円を超える場面があった。これは、コロナショック安からの戻り初動局面にあった2020年6月以来のこととなる。今回もその時同様、世界同時株安からの反騰ビッグウェーブに乗った形となり、労せずして直近4営業日の下げの半値戻しラインを突破した。日経平均の上げ足の強さにも驚かされたが、前日の欧州株市場はその上を行っていた。ドイツのDAXは8%近い上昇をみせており、このパーセンテージを日経平均に当てはめると、ざっくり2000円高という計算だ。前日の欧州時間から、理屈ではなく「株は需給」を地で行く展開となっている。需給に焦点を当てれば、これまでの苛烈を極めた「コモディティ買い・株式売り」のアンワインド(巻き戻し)ということがいえる。
ウクライナ情勢は依然として不透明だ。近く両国の外相会談が予定されているが、ロシアと停戦をしようにも両国主張に隔たりがあり過ぎる。特にロシアは一歩も譲歩しない構えで、核兵器使用の可能性すらチラつかせながら西側諸国の動きを封じ、ウクライナを強引に傘下に収めようとする姿勢を貫いている。ただし、前日の欧州株高は反騰に向けたトリガーがなかったわけではない。まず、ウクライナのゼレンスキー大統領がNATOへの早期加盟を断念すると妥協の考えを示唆したことで、和平実現に向けた一筋の光明となった。また、UAEの呼びかけを背景とした増産思惑で原油先物価格が急落、これが企業業績に対する過度な不安心理を和らげたとの見方が強い。原油のみならず、コモディティ価格全般が下落している。更にブルームバーグが報じたEUが大規模な共同債の発行を計画しているという話。これらが複合的にかみ合わさり、買い方が一気に巻き返し、売り方の強烈な踏み(狼狽的な買い戻し)を誘う形となった。
東京市場でいえば、あすのメジャーSQを前に売り方の思惑を完全に外した格好だ。しかし、ここで勝負がついたということでもなさそうだ。つまり、底が入ったという解釈は時期尚早といえる。ウクライナがNATOの早期加盟を断念する意向を示したとしても、ロシアは逆に攻勢を強める可能性がある。また、原油価格は1日だけの値動きとしては暴落といってよいが、年初は1バレル=70ドル台であったことを考えれば、騰勢がとりあえず一服したに過ぎない。また、EUの共同債発行については、現在のハイパーインフレの兆候をみせる経済環境をECBが是認するということにもなるため、そう簡単には実現しそうにない。この件に関しては、日本時間今晩にECB理事会の結果発表とラガルドECB総裁の記者会見が予定されており、共同債についての思惑に一定程度の答えが出ると思われる。
来週は15~16日の日程でFOMCが行われ、16日にはパウエルFRB議長の会見が予定される。株式市場を犠牲にしてでも足もとのインフレ抑制に舵を切るというのが今のFRBのスタンスであり、市場関係者によると「量的引き締め(QT)の前倒し、もしくは引き締めピッチを上げることに言及する可能性がある」(ネット証券アナリスト)という。もし、その動きが現実に示唆された場合には、マーケットの波乱要因となる。
また、16日はロシアのソブリン債の利払い開始日に当たり、4月初旬にかけて元本返済も含め日本円にして数千億円規模(実際はドル建て)に及ぶとみられている。ロシアのデフォルト懸念が高まるなか、FOMCと合わせて16日を株式市場にとってのXデーとする声も聞かれる。もっとも、そういう話がマーケットにまことしやかに流れているのをみると、売り方の焦りも感じられるところで、実際は相場が逆方向に動くことも多い。
あすのスケジュールでは、1月の家計調査、1~3月期法人企業景気予測調査など。また、東証2部にセレコーポレーション<5078>が新規上場する。なお、あすは3月の株価指数先物・オプション3月物のSQ算出日にあたる。海外では、3月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査)が発表される。(銀)