明日の株式相場に向けて=「嵐の前の静寂」
きょう(15日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比38円高の2万5346円と続伸。上げ幅は小さいが、これはファーストリテイリング<9983>の下げが影響している。おしなべて買いが優勢で、東証1部全体の8割の銘柄が上昇した。しかし、それでも無気力に中空を漂うような趣きで、覇気の感じられない相場だった。個別銘柄では三井ハイテック<6966>が好決算を評価され1本値でストップ高を演じ、これは強烈な輝きを放ったが、その他にはあまり見せ場がなかった。
きょうは地味にプラス圏で引けたが、これは“嵐の前の静けさ”かもしれない。ウクライナ情勢は依然として不透明で、停戦への動きに対して期待が膨らんだかと思えば、すぐに萎んで消える。その繰り返しだ。前日を振り返ると、欧州時間では停戦に向けた期待から、ポルトガルなどを除いてほぼ全面高に近い様相となったが、米国株市場ではその強調モードが続いたのは取引時間の前半まで。NYダウは一時450ドルあまり高い水準に買われたが、そこから急速に値を消し、大引けは上げ分をほぼ帳消しにする形となって前日比横ばいで引けた。ナスダック総合株価指数については、結局2%強の下落となった。
これを受けて東京市場の動きが注目されたが、日経平均は意外にも頑強な値動きで、朝方は安く始まったものの、下値では押し目買いが厚くすぐにプラス圏に浮上。その後は前日終値を跨いでの往来となったが、後場は終始プラス圏で推移した。原油高騰に歯止めがかかったことは株式市場にポジティブだが、これは日本固有の材料ではない。頑強な株価推移を支えたのは急速に進む円安の方で、指数構成銘柄には輸出系が多く追い風として意識された。
何の逡巡もみせずにスルリと1ドル=118円台に入ったがこれは何と5年2カ月ぶりというから驚く。公式に当てはめればリスクオフの円高のはずだが、今回は米長期金利の先高思惑が強過ぎてセオリー破りとなった。しかしながら、この円安は俗にいう“悪い円安”に含まれる。エネルギー価格や穀物市況が高騰するなか、円が弱くなると輸入コストを増幅させるため、国内でスタグフレーション圧力が強まるからだ。
しかし、足もとではトヨタ自動車<7203>や日産自動車<7201>など自動車株が円安メリット株として素直に買われ、内需株もまん延防止等重点措置の解除が21日にも一斉解除の方向となったことで、レジャーや旅行関連、電鉄株など買い優勢に傾く銘柄が多くなった。円安を悪役視するような雰囲気はきょうの相場を見る限りは感じられなかった。ヘッジファンドによる空売りが結構な残高に積まれていることで、あすのFOMCの結果発表とパウエルFRB議長の記者会見を前にして、むしろ売り方の手仕舞いが効いている。
ただし、相場のトレンドが変わるわけではない。押し目には買い向かうが、本能的に上値に買い付いても報われないという思惑が、今のマーケットには澱(おり)のように沈殿している。きょうは日経平均やTOPIXが強調展開を示しているにもかかわらず重苦しいムードだったが、その原因はアジア株市場に目を向ければ納得できる。
前日に5%安に売り込まれた香港ハンセン指数はきょうも一時6%を超える下げとなり、2016年2月以来約6年ぶりの安値圏で下値模索を続けている。直近1カ月の下げは既に25%を超えた。上海株市場も香港株を追うように典型的な崩れ足となっている。更に台湾株市場の下げもきつい。中国では新型コロナウイルスの感染拡大を受け都市封鎖の動きを広げているが、直近では世界の工場である深センのロックダウンが台湾市場を含め売り材料となっている。また、ロシアと中国の関係にもマーケットは神経を尖らせる。仮に中国がロシアに武器の供与など軍事的支援を行った場合、中国も経済制裁の対象にしなければ示しがつかない。しかし、その場合は西側諸国の経済も計り知れないダメージを受けることになる。袋小路に入ってしまった状態。ロシアが戦術核を使うという可能性も合わせると、今はまだ中長期スタンスで資金を寝かせておけない相場であることは分かる。
あすのスケジュールでは、2月の貿易統計、1月の鉱工業生産確報値など。海外では、2月の中国70都市の新築住宅価格動向、2月の米輸出入物価指数、2月の米小売売上高、1月の米企業在庫、3月のNAHB米住宅市場指数など。このほか、FOMCの結果発表と、パウエルFRB議長の記者会見に対するマーケットの注目度が高い。(銀)