コロナ禍で急成長、巨大製薬産業のニーズ捉える「CDMO」関連に脚光 <株探トップ特集>

特集
2022年5月19日 19時30分

―グローバル市場は順調に拡大、異業種からの参入も相次ぎ攻勢かける日本企業―

この日の東京株式市場は、前日の米国株式市場でNYダウが今年最大の下げ幅を記録し年初来安値を更新したことを受けて、朝方から売りが先行する展開となった。米国株の下落はターゲット<TGT>やウォルマート<WMT>など小売り大手の決算悪化から、インフレによる消費抑制懸念が高まったことが要因で、これを受けて東京市場でもリスク回避の動きが強まった。

日本でもインフレによる消費の抑制懸念などへの警戒感は強く、株式市場の先行きにも不透明感があるが、こうしたなかで注目したいのは景気動向に左右されにくいヘルスケアなどに関する分野だ。特に新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、製薬産業ではCDMO(医薬品受託開発製造企業)をはじめとする水平分業の重要度が増している点に注目したい。

これまでも 創薬の複雑化・長期化が進むなか、治験や量産を外部企業に委託する水平分業化が進んでいたが、コロナ禍により新型コロナウイルス向けのワクチンや治療薬の受託案件が急増。その供給能力確保のために更に外部委託を利用するケースが増えている。コロナ禍が仮に収束したとしても、こうした外部委託の流れは止まらないとみられ、関連企業のビジネスチャンスは拡大しそうだ。

●リスク分散のために進む水平分業

製薬産業では、以前は一つの製薬会社が創薬から臨床での治験、更には大量製造に向けたプロセス技術の開発、量産まで自社で行うことが多かった。当然その間に巨額すぎる投資が必要となり、失敗すれば企業が一発で破綻するほどのリスクを抱えかねない状況になっていた。

そこで欧米企業を中心に、治験や量産を外部企業に委託する水平分業化により、リスクを分散する動きが進展。これが革新的な創薬の開発やグローバルな競争力の強化につながった。日本企業はこうした動きにやや出遅れていたが、近年では水平分業が進みつつある。ただ、革新的な創薬開発を行うためには、これを更に進める必要がある。

●「医薬品産業ビジョン2021」で水平分業の活用が求められる

厚生労働省は21年9月に「医薬品産業ビジョン2021」を発表した。ビジョンの策定は8年ぶりで、今後5年から10年を視野に入れ、世界有数の創薬先進国として、革新的創薬により健康寿命の延伸に寄与することや、医薬品の品質確保や安定供給を通じて、国民が良質な医療を受けられる社会を次世代に引き継いでいくことを目指すとしている。

このなか、特に求められているものの一つに、エコシステム実現によるアカデミア・ベンチャーからのシーズの導出などによる革新的創薬がある。そのためには、水平分業やアカデミア・ベンチャーも含めたネットワーク構築をグローバルに進め、企業や国籍、業態の枠を超えて、エコシステムの構築を進めていくことが必要であると述べており、水平分業の活用が期待されている。

●製薬会社のニーズに対応し成長するCDMO業界

創薬に求められる水平分業といえば、有名なものにCMO(医薬品受託製造企業)がある。医薬品の開発には莫大な資金が必要なほか、開発の複雑化・長期化が進んでいる。創薬や臨床開発など医薬品の研究開発に集中させたい製薬会社のニーズに対応する形でCMOビジネスは世界的に急速に広がっていった。

更にCMOの普及が進むとともに、近年では開発(Development)に相当する製剤研究や治験薬製造も外部へ委託し、製薬会社は競争力の源泉となる創薬に資源を集中する動きも強まっている。そこで急成長しているのがCDMOだ。

●市場拡大にらみ異業種からの参入も相次ぐ

製薬産業は巨大な産業であり創薬もグローバル展開がスタンダードだが、CDMOも先行する米国やスイス、更に韓国などの企業が全世界製造能力の過半を占めている。ただ、市場成長率が年平均7%前後と成長が見込まれている分野だけに、日本でも異業種から参入する企業も相次いでおり、市場は活性化している。

20年9月には、住友ファーマ <4506> [東証P]が住友化学 <4005> [東証P]と合弁会社「S-RACMO」を設立し、CDMO事業に参入した。塩野義製薬 <4507> [東証P]、生化学工業 <4548> [東証P]など新薬メーカーもM&Aなどを活用しCDMO事業を本格化させている。

●世界有数のCDMOに成長した富士フイルム

5月11日に22年3月期決算を発表した富士フイルムホールディングス <4901> [東証P]の連結営業利益は2297億200万円(前の期比38.8%増)と大幅増益となったが、特徴的だったのはヘルスケアが売上高・営業利益ともに最大のセグメントに成長したことだ。21年3月に日立製作所 <6501> [東証P]の画像診断関連事業を承継し富士フイルムヘルスケアとして新たに連結化した効果も大きいが、バイオCDMO事業の売上高が同32.7%増となったことも寄与した。

同社は、11年に米メルク<MRK>からCMO2社を買収し、CDMO事業の中核会社であるフジフイルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ(FDB)を設立。その後もM&Aなどにより事業規模を拡大させており、現在では世界有数のバイオCDMOに数えられている。21年6月には欧米拠点に約900億円の大型設備投資を行うことも発表しており、同事業の25年3月期の売上高を21年3月期比2倍の2000億円を目指す。

AGC <5201> [東証P]はCDMOとして25年以上の実績を持つ、日本を主要拠点とする数少ないグローバルCDMOで、日米欧3極で合成医農薬CDMO及びバイオ医薬品CDMOを重点的に展開している。特に16年にドイツのバイオミーバ社買収以降、積極的な設備投資やM&Aにより事業基盤を拡大しており、今後も22~25年に計2000億円以上を投資する予定で、25年売上目標2000億円の1年前倒しを目指している。20年にはイタリアのモルメド社買収で遺伝子・細胞治療薬分野にも進出しており、今後は同分野の強化を図る見通しだ。

JSR <4185> [東証P]は、15年にシミックホールディングス <2309> [東証P]などと共同で米KBIバイオファーマ社を買収して以降、バイオ医薬品CDMO事業を本格化させており、17年にスイスのセレクシス社を買収したことで、事業拡大に拍車が掛かっている。20年以降、欧州と米国でそれぞれ能力増強の大型投資を実施しており、25年3月期まで年平均20~25%以上の成長を見込む。同事業が中核を占めるライフサイエンス事業の売上高は23年3月期に前期比58.6%増の1150億円に拡大する見通しだ。

味の素 <2802> [東証P]は13年に米アルテア・テクノロジーズ社を買収して以降、CDMO事業を本格的にスタートさせ、現在では味の素バイオファーマサービスとして強力に事業を推進している。同事業では、味の素グループの持つオリゴ核酸などに関する差別化可能な基盤技術をベースとした新規事業により成長加速を見込んでおり、31年3月期には同事業の売上高を21年3月期実績の2倍強に引き上げる方針だ。

シミックホールディングスは05年に韓国の医薬品製造会社の子会社化を通じてCDMO事業を開始。現在では国内4拠点、海外2拠点で製造受託体制を整備している。足もとでは注射剤などの需要が増えていることから、足利注射剤棟生産の確実な実施と収益貢献に取り組むことで、同事業売上高は21年9月期の212億円から25年9月期には280億円へ拡大を見込む。

このほか、20年に日立化成(現昭和電工マテリアルズ)を買収しCDMOの本格展開を開始した昭和電工 <4004> [東証P]や、再生医療等製品などのCDMO事業を展開するタカラバイオ <4974> [東証P]、スタートアップに出資し核酸医薬のCDMO事業に参入した三井化学 <4183> [東証P]にも注目。更に医薬品ではないものの、大手医療機器メーカーの手術用機器やウェアラブル・生体センサーのCDMOを手掛けるNISSHA <7915> [東証P]なども注目したい。

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