エネルギー危機到来、「原発再稼働のシナリオ」で爆騰テーマに乗る株 <株探トップ特集>

特集
2022年7月2日 19時30分

―東電HDは思惑錯綜のなか需給相場へ突入、鉄(くろがね)の城・三菱重も復活の狼煙上げる―

あっという間の梅雨明けとともに真夏の太陽が降り注ぎ、記録的な暑さが訪れている。この猛暑は世界的な現象であり、株式市場でも強力な株価刺激材料として投資資金の行き先に大きな影響を与えている。そのなか、気温の急上昇に伴い喫緊のテーマとして急浮上しているのが、ライフラインである電力の確保や新エネルギー活用などに向けた思惑である。株式市場でも、電力株やその周辺銘柄に熱視線が注がれている。

●脱炭素戦略で再び脚光を浴びる原発

6月下旬、政府から電力需給逼迫注意報が発令されるなか、東京電力ホールディングス <9501> [東証P]を筆頭に電力株が軒並み動意づいた。そして、その後も電力各社の株価はほぼ足並みを揃えて上値を指向する動きをみせた。需要と供給のバランスから電力のスポット価格は上昇傾向を鮮明とし、これが電力会社の収益にプラスに働くとのロジックが株価を刺激しているのだ。一方、原油価格の高騰なども当然ながら電気料金の上昇圧力につながっていく。ウクライナ有事でクローズアップされたエネルギー問題だが、日々刻々と我々の日常生活にも影響を及ぼしており、こうした現実をバックグラウンドに脱炭素への取り組みも一段と強化される方向へといざなわれている。

脱炭素の実現に向け骨子となるのは、火力発電への依存度を減らすこと、そしてクリーンエネルギーをいかに活用していくかということだ。自公連立政権が昨年10月に閣議決定した第6次エネルギー基本計画では、発電に際して石油・石炭・LNG火力への依存度を2030年度までに半分近くに減らし、それを太陽光や洋上風力などの再生可能エネルギー及び原子力発電 の増加で補う目標が明示されている。30年度の原発比率については20~22%という目標数値が示されている。

●27基すべて稼働でも届かない目標値

この第6次計画の目標を実現するうえで必要な原発の数は、「現在電力会社が原子力規制委員会に申請している27基全部とそれにプラスアルファの稼働が必要となる」(中堅証券アナリスト)とみられている。福島原発事故から既に11年以上の歳月を経ているが、現在再稼働に漕ぎつけているのはわずか10基に過ぎない。残りは設置変更許可が7基、10基が新規制基準審査中だ。なお、未申請は9基で廃炉は24基ある。

再稼働している10基の内訳をみていくと、関西電力 <9503> [東証P]が最も多く、大飯原発3号機・4号機、高浜原発3号機・4号機、美浜原発3号機の計5基となっている。次に九州電力 <9508> [東証P]が玄海原発3号機・4号機、川内原発1号機・2号機の計4基を再稼働させ、残りの1基は四国電力 <9507> [東証P]の伊方原発3号機である。ただ6月末現在では、再稼働原発のうち6基が停止中となっている。

一方、最近の動きで注目されたのが、中国電力 <9504> [東証P]の島根原発2号機の再稼働について島根県の丸山達也知事が同意したことだ。再稼働は最短でも来年春以降になる見通しだが、これは電力不足解消と脱炭素への取り組みという2つの視点から、原発再稼働に前向きな岸田政権の政策方針に沿った動きともいえる。

●サハリン2の衝撃はエネルギー危機の序章

夏場の電力需給逼迫と原発再稼働を巡る思惑が錯綜するなか、東京株式市場では電力株が動意含みとなっていたが、ここにきてもう一つ政治的に重大な環境の変化が生じている。

ウクライナ侵攻で西側諸国との体力勝負の様相となっているロシアだが、プーチン大統領は日本に対しても牙を剥いた。6月30日、日本企業が出資するロシア極東の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2 」について、運営会社の資産をロシアが新たに設立する会社に移すことを定めた大統領令に署名した。市場では「これは、いわゆる国家による接収を意図していると思われ、無理な条件を提示して、日本企業(総合商社など)がそれをのむことができなければ、運営から除外される可能性がある。今後欧米だけではなく、エネルギーコストの増大によるリセッションが日本でも強く懸念される状況に陥るのではないか」(準大手証券アナリスト)という指摘が出ている。

今回の“サハリン・ショック”は国産資源がほとんどない日本にとって、近い将来のエネルギー危機を想起させるといっても過言ではない。こうしたエネルギー安全保障の観点から日本経済におけるリスクシナリオが一気に浮上してきたことは、政治的にも大きな潮目を迎えている可能性がある。原発再稼働に向けた議論は今後、岸田政権内で一段と加速する公算が大きい。

●電力株人気の中軸を担う東電HD

電力セクターはここ10年でみてもこれほど脚光を浴びる局面はなかったといえる。そのなか、何といっても物色人気の中心に位置するのは、世界最大級の柏崎刈羽原発を有する東電HDである。同社株には原発再稼働に向けたシナリオを織り込みながら投資資金が激しく流れ込んでいる。

もっとも、東京電力福島第一原子力発電所事故を巡る賠償責任問題について、最高裁は6月17日、同社を規制する立場だった国の責任を認めず、賠償責任はすべて東京電力にあるという判決を下している。こうした事情から、東電HDは通常の民間企業に描かれる利益成長シナリオからは逸脱しているとの認識が広がり、同社株を空売りする動きが活発化した。直近の日証金では貸株残が急増しており、6月末現在の貸借倍率は0.24倍となっている。つまり、同社株の上昇は妥当ではないという判断から売りが仕掛けられているのだ。

しかし、この“売り人気”が逆に需給面から株高を後押しする増幅装置となるのが相場の相場たるゆえんだ。損失回避のための強制的な買い戻しを誘発するという、いわゆる踏み上げ相場の素地を開花させ、時価総額で1兆円近い東電HDは、ここにきて巨大仕手株の様相すら見せ始めている。

●原発関連はインベスト・イン・キシダ

岸田首相は5月初旬に英国の金融街シティーで講演を行ったが、その際に日本語スピーチであったにもかかわらず、あえて「インベスト・イン・キシダ」というワンフレーズを織り込んだ。まさにトップセールスで欧米マネーの日本株への投資を呼びかけたわけだが、これは同時に首相の金看板である「新しい資本主義」でリストアップされている国策が、東京市場における有力投資テーマであるという意思も前面に押し出されている。

いうまでもなく岸田首相は原発再稼働に向けて前向きな姿勢を明示しており、これが東電HDを筆頭とする電力セクターや原発周辺をビジネス領域にしている銘柄の株価見直しにつながっていく公算が大きい。

●三菱重は防衛とエネルギー安保で存在感

関連銘柄としては、防衛 関連の旗艦銘柄でもある三菱重工業 <7011> [東証P]は原発関連でも中核に位置しており外せない銘柄だ。同社は原子力では国内の加圧水型原子炉(PWR)の発電プラントにおいて、ほぼすべての設計・制作・建設を請け負っている。

またPWR以外にも、今年2月には沸騰水型原子炉(BWR)である東北電力 <9506> [東証P]の女川原子力発電所2号機向け安全施設を受注したことも発表している。このほか、同社は水素発電分野へも経営資源を投下し積極展開を図っており、その実力は世界からも認められている。6月14日には同社が米国ユタ州で取り組んでいる水素発電事業に米エネルギー省から5億ドル超の融資保証を受けたことを発表している。

●東京エネシス、太平電などに活躍余地

中小型株では、電力関連の設備工事を手掛け、原発のメンテナンスでも高い実績を持っている東京エネシス <1945> [東証P]。同社は東電関連の受注比率が高く、来年にかけ柏崎刈羽原発の再稼働に向けた動きが顕在化すれば、株価的にも再評価される可能性が高い。高配当利回りで0.5倍前後のPBRは指標面でも水準訂正余地を内包している。

また、助川電気工業 <7711> [東証S]は熱制御技術に強く、原子力関連機器でも実力は折り紙付きだ。エネルギー関連事業部門で核融合関連製品を手掛けていることも人気素地を高めている。業績も好調で22年9月期は営業利益段階で前期比6割超の伸びを見込む。

発電所主体にプラント 工事を手掛ける太平電業 <1968> [東証P]は、運転・保守・定期検査まで発電所運営業務をワンストップで請け負う強みを持っており、原発設備工事でも高い実績を誇る。23年3月期は減益見通しながら、これは株価には織り込み済み。PER・PBRともに割安で、年間100円配当と株主還元にも積極的だ。

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