明日の株式相場に向けて=「イングランド・ショック」の時限爆弾
実質10月相場入りとなった29日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比248円高の2万6422円と反発。朝高後に伸び悩む場面はあったが、後場に入ると先物主導で買い直され、2万6000円台半ばまで水準を戻して着地した。
グローバル規模で高進するインフレへの懸念と景気後退への警戒感が同じ時間軸で投資マインドを揺さぶっている。世界を俯瞰すれば“あちら立てればこちら立たぬ”の状態にあることは明らかで、景気や株式市場に配慮しながらインフレを食い止めることは至難の業であることが分かる。インフレ抑制を第一に掲げるというのがFRBやECBなど中央銀行のグローバルスタンダードであり、であればインフレ退治のために経済のハードランディングや株価下落はやむなしというのが、もはや動かし難いコンセンサスとなっている。しかし、人間はそれほど強くない。政策の中枢を担うのも人間であるから、苦境に直面すればどうしても易きに流れてしまう。英国中銀であるイングランド銀行の泥縄的な政策発動は、その弱い部分を浮き彫りにしたともいえる。
前日の米国株市場では、米長期金利の急低下を受けてハイテク株などを中心に買い戻される展開となり、NYダウが7営業日ぶりに548ドル高と急反騰に転じたほか、ナスダック総合株価指数のほうも222ポイント高と大幅続伸、上昇率はダウを上回り2%に達した。前々日は米10年債利回りの4%超えがエポックメイキングな出来事として市場関係者の話題となったが、この日は3.7%台前半まで急速に水準を切り下げ、これが慈雨となった格好だ。しかし、金利低下はFRBの政策に絡む思惑ではなく、発信地は英国の中央銀行であるイングランド銀行であった。
英国ではトラス政権によって減税を柱とする大規模な経済対策が打ち出され、その結果外国為替市場ではポンドが急落、国債や株式も大きく値を下げるトリプル安に見舞われ逆境に立たされていた。イングランド銀行はこれまで利上げにタカ派的な姿勢を貫いてきたのだが、こうした状況下でにわかに態度を豹変させ、緊急で国債を買い入れるオペレーションに舵を切った。実質無制限で10月14日まで残存期間が20年を超える国債を購入する措置を発表、また10月上旬に予定していた国債の売却開始時期を10月末まで延期することも併せて明示した。このアナウンスは債券市場に強力なインパクトを与え、英10年債利回りは4.5%から一気に4.0%近傍まで急低下した。前日に米長期金利が3.7%台まで切り下がったのは、この英国で起きた債券買いの動きが伝播したものだ。
しかし、反騰のタイミングを渇望していた米国株市場にとって長期金利の急低下は願ってもない手掛かり材料であったことは間違いない。満を持して空売り筋のショートカバーを誘発する形となった。こうなれば、リスクオフの歯車は自動的に逆方向に回転を始める。東京市場もそれに乗った。日経平均は今月14日に800円近い急落に見舞われて以降、前日までの9営業日で差し引き2400円以上も下落していたこともあり、それだけリバウンド余地は大きい。きょうは配当権利落ちに伴い日経平均には223円の下押し圧力が生じていたのだが、それを飲み込んでなお250円弱の反発をみせた。
ただし、今回のイングランド銀行の緊急オペは、やむにやまれぬ対症療法で時間稼ぎ的な意味合いが強い。市場関係者によると「FRB関係者からはかなり不評だったようだ。イングランド銀行が政策矛盾を承知で泥縄的な緩和に動いたことは、投機筋の“次の売り仕掛け”をよりドラスチックなものにさせる」(ネット証券アナリスト)という声が聞かれた。英国ではトラス首相が蒔いた種をベイリー総裁が刈り取るような構図だが、根本的には何も変わらない。モラトリアム明けの動きに世界の株式市場は身構えざるを得なくなった。
あすのスケジュールでは、8月の失業率、8月有効求人倍率、8月の鉱工業生産速報値がいずれも朝方取引開始前に発表される。午後取引時間中には8月の自動車輸出実績、8月の住宅着工統計、9月の消費動向調査などが予定されている。また、東証グロース市場にグッピーズ<5127>が新規上場する。海外では、9月の中国製造業購買担当者景気指数(PMI)、9月の中国非製造業PMI、9月の独失業率、8月のユーロ圏失業率のほか、8月の米個人所得・消費支出(PCE)に市場の関心が高い。このほか9月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・確報値)など。また、インド中銀の政策金利発表も行われる。(銀)