明日の株式相場に向けて=欧州に出現したリーマンの亡霊
名実ともに下期相場入りとなった週明け3日の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比278円高の2万6215円と反発。前週末にフシ目の2万6000円台を割り込み約3カ月ぶりの安値に沈んだが、日経平均株価は前週1週間で1200円以上も下げ、売り方にすれば突っ込み警戒感からいったん手仕舞いしたい衝動に駆られやすいタイミングでもあった。きょうはそうした売り方の思惑を映したような地合いで、朝方の下げが一巡した後は、自然発生的なショートカバーの動きが日経平均に浮揚力を与えた。
前週末の欧米株市場を振り返ると、欧州株市場はほぼ全面高に買われる展開となり、米国株市場もこのリスクオンの流れを引き継いでくれさえすれば、週明けの東京市場も満を持して反騰局面を迎える公算が大きくなる。いわゆる世界的なリスクオフの巻き戻し局面に移行する可能性が高まるわけだ。しかし、米株市場では取引前半に高い場面はあったもののその後は軟化し、NYダウは結局500ドルあまり下げて安値圏で着地した。ナスダック総合株価指数やS&P500指数など主要株3指数は揃って年初来安値を更新した。
高進するインフレに対応した中銀による金融引き締め強化の動き、そして同時進行するデマンドサイドの需要減退に伴う景気失速リスク。スタグフレーションの兆しを強烈に印象づけるこの2つのネガティブ材料を株式市場は今後どう織り込んでいくのか。例えば、経済のハードランディングを覚悟した株価水準というのは一体どの辺りなのか。これが分かればもちろん苦労はしないが、NYダウで2万9000ドル割れは、ややオーバーシュート気味に売り込まれている可能性もある。
こうしたタイミングでにわかに湧き出てきたのが、クレディ・スイスの財務不安観測だ。欧州はロシアからのガスパイプライン休止に伴うエネルギー価格の上昇に直面し、同じインフレ局面でも米国と比べ遥かに苦しい経済環境に陥っている。市場関係者によると「水面下で不良債権もかなりのスピードで増加しているはずで大手金融機関も当然影響は受ける。そうしたなか、同社のCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の保証料率が急上昇していることが報じられたとしても不思議はないのだが、意外にマーケットは冷静だった。売り方が意図的に流したネガティブ材料という感じも受ける」(ネット証券マーケットアナリスト)という。
米国ではプットオプションが再び高水準に積み上がっている。こういう時に相場は反転し、短期的な踏み上げ相場に移行するケースが今年に入ってから何回も繰り返されてきた。NYダウ2万9000ドル割れの水準は売り方の側に立っても怖い。そうしたなかでの金融不安の煽り。この真偽はどうなのか。相場は相場に聞けというが、もしクレディ・スイス破綻の可能性に現実味があれば、これほど相場は落ち着いていられない、というのが市場関係者の指摘である。
原油価格をはじめとするコモディティ価格や海運市況の動向、半導体市況の崩れ方など“コロナマネー”収縮後の経済的な現象がリーマン・ショックの記憶を呼び覚ますのに十分な類似性があることは確かだが、今回のクレディ・スイスの経営不安説は、ちょっと時期尚早で売り方の焦りという感じがしないでもない。
ただ、株式市場は基本的に向かい風が強い。「中央銀行には逆らうな」の格言通りFRBが金融引き締めの手を緩めない限りは中長期上昇トレンドへの復帰は見込めないということは理解しておく必要がある。11月のFOMCで0.75%の利上げ、更に12月に0.5%引き上げるという線はかなりの部分相場は織り込んだ。問題は来年2月の利上げで打ち止めとなるのかどうか。そして投資マネーの潮目の変化は、粛々と進める量的引き締め(QT)を休止するタイミングがカギを握っていることは間違いなさそうだ。
あすのスケジュールでは、9月の都区部消費者物価指数(CPI)、9月のマネタリーベースのほか10年物国債の入札が予定されている。海外では豪中銀の政策金利発表、8月の米製造業受注など。また、メスター・クリーブランド連銀総裁の講演のほかウィリアムズ・ニューヨーク連銀総裁やローガン・ダラス連銀総裁などFRB高官の発言の機会が相次ぐことでマーケットの視線を集めそうだ。なお、中国、香港市場は休場となる。(銀)