明日の株式相場に向けて=「陰の極」からのリバウンドを読む
きょう(13日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比159円安の2万6237円と4日続落した。前日の米国株市場では強弱観対立といえばまだ聞こえはいいが、売りも買いも手が出せない様子見ムード一色というのが実情であった。東京市場もそれに追随する動きだが、どちらかといえば買い方の萎縮が顕著であり、朝方に前日終値近辺でスタートした日経平均はその後ジリジリと下げ幅を広げる展開を強いられた。着地の仕方も引け際に手仕舞い売りで安値引け、という地合い悪の相場によくみられるパターンだった。
株式市場の外部環境を見渡す限り、少なくとも強気を主張できる要素がほとんどない。何はともあれ、日本時間今晩9時半に開示される9月の米消費者物価指数(CPI)の結果が気になるところ。今のところコアCPIが事前コンセンサスでは前年比6.5%上昇と8月と比べ加速するとの見方が強い。市場関係者によると「これは1982年以来40年ぶりの伸び率として話題となった3月と肩を並べる水準。しかし、足もとで家賃の高騰に加えホテル代など旅行代金の上昇が際立っており、そのコンセンサスから一段と上振れ“3月超え”も十分に考えられる」(国内証券アナリスト)という。
もし今回の予想から上振れた場合、米株市場は更なる下値模索を余儀なくされる公算が大きい。また、目先はこの米CPIに神経が集中しがちだが、ロシアのウクライナ侵攻ではロシア側の戦術核使用の思惑が以前よりも現実味を帯びており、地政学リスクに対する懸念も今の相場にはボディーブローのように効いている。加えて、今はそれほど目立たないが水面下では米中摩擦も先鋭化している。この期に及んでバイデン米政権が中国への半導体輸出規制を更に強化しようとしているのは、悪材料として結構なインパクトがあり、世界の大手半導体メーカーが設備投資増強に相次いで意欲的な計画を発表しているのとは裏腹に、株式市場の側は白けた雰囲気でこれを評価する動きはまばらである。
こうなると、「株価は下がるよりない」と考えてしまうのが人間の思考プロセスとしては当然であり、結果として「ショート(空売り)から入れば儲かる」という結論に行きつきやすい。ところが、これが罠となるのが相場の相場たるゆえんでもある。次の瞬間、攻守所を変えて鮮烈な踏み上げ相場に舞台は切り替わる。このパターンが今年に入り3回も繰り返されてきた。ネット証券のマーケットアナリストは「今の米国株の需給は、過去の踏み上げ相場入り前夜と同じくらいショートが溜まっている」と指摘する。
相場はある意味で人間の欲望を食い物にする生き物である。人間の欲望は時に陶酔状態にも似たユーフォリアを生み出す一方、一瞬にして絶望感の深淵に足を引きずり込む負のオーラを内在させている。合理的とは言えない動きが加速するのは、投資家心理のバイアスがなせる業にほかならない。これは買いではなく空売りの場合も同じ理屈であり、今は純然たる投資家にとっては四面楚歌の状況に違いないが、それだけにショートポジションを取る側がユーフォリアに浸っていて、その反動による4度目のリバウンドが近い感触もある。
リスク回避ムードの只中にあって、株式需給以外に買いを肯定する論拠は見つけにくいが、「需給はすべての材料に優先する」という金言を信じるのであれば、変化に向けた萌芽は見えないこともない。例えばきょうは、地合い悪の中でも強さを発揮してきたインバウンド関連に値を崩すものが目立つ一方、これまで嫌と言うほど売り叩かれてきた東京エレクトロン<8035>を筆頭とする半導体 関連株が切り返した。これはもちろん潮の流れが変わったことを意味する戻りではないが、目先アンワインドの兆しが垣間見える。半導体関連が一斉に戻り足に転じるのは、同じ時間軸で米国株がリバウンドに転じる時だが、CPI通過で直接アク抜けとはならなくても、地合いの変化は早晩訪れるとみたい。これが否定されるとすれば、それはロシアに絡む突発的な有事など別の選択肢を引いてしまった時だ。
あすはオプションSQ算出日にあたる。このほかのスケジュールでは、9月のマネーストックが朝方取引開始前に日銀から開示され、午前中に3カ月物国庫短期証券の入札も予定されている。海外では、9月の中国消費者物価指数(CPI)、9月の中国卸売物価指数(PPI)、9月の中国貿易統計などにマーケットの関心が高いほか、8月のユーロ圏貿易収支、9月の米小売売上高、9月の米輸出入物価指数、8月の米企業在庫、10月の米消費者態度指数(ミシガン大学調査・速報値)なども注目される。(銀)