明日の株式相場に向けて=「EV関連」新章突入の兆し
きょう(11日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比13円高の3万2203円と6日ぶり小反発。7月最初の商いとなった3日は大幅高でスタートしたものの、その後は前日まで5営業日にわたって“つるべ落とし”の下げとなり合計1500円以上も水準を切り下げていた。きょうは、世界同時株高の流れに乗って日経平均も自律反発するのは既定路線であったが、一筋縄ではいかなかった。
足もとで進む円高が株式市場に思わぬ向かい風となっている。6月末時点で1ドル=145円近辺だったドル・円相場があっという間に140円台まで円高方向に振れている。これは俗にいう「リスクオフの円高」ではない。その証拠に前日は欧州株市場で主要国の株価がほぼ全面高、米国株市場でもNYダウが200ドルあまりの上昇で切り返し、きょうはアジア株市場も全面高。そうしたなかで、日経平均は一時下げに転じる場面があった。終盤買い戻されプラス圏に再浮上したが、値下がり銘柄数が1000を超え、TOPIXはマイナス圏での着地となった。何のことはない、日本株は世界のなかで“独歩安”を演じたような格好だ。円高進行の背景は日本固有の材料によるもの、即ち日銀に絡む思惑である。
世界的にインフレ圧力を拭い去ることがなかなかできない。今の経済環境で各国中央銀行の金融政策がややタカ派傾斜となるのは仕方ないとして、日本だけは本当に別世界なのかどうか。少なくとも日本だけがメタバース社会というわけではないので、リアル社会のなかで物価高の洗礼は受けざるを得ない。世界で唯一のマイナス金利導入国でイールドカーブ・コントロール(YCC)によって長期金利の上昇も意図的に抑えている状況は、中央銀行の立場として“緊急事態宣言”を発出しているに等しい。植田日銀総裁がいかに筋金入りのハト派を装っても、今の日本経済がデフレにどっぷりと浸かった環境ではない以上、金融政策の変更は不可避であり既にカウントダウンに入っている、というのがマーケット側の判断。これが為替市場で投機的な円買いに反映された。
今月はFOMCの後に、ECB理事会、日銀金融政策決定会合の順番で半歩ずつ遅れて開催されるが、FOMCではFRBが0.25%の利上げを決めることが濃厚とみられ、もとよりECBは0.25%利上げが確実視されている。そういう状況下、トリを務める日銀だけ我関せずというわけにもいかなくなる可能性はある。経済・物価情勢の展望リポートも開示するだけに、曖昧な逃げは打てない。「先の日銀短観で国内景気の強さが認識されたが、大規模金融緩和策にメスを入れるのであれば、経済が堅調な今のうちという思惑も働く」(生保系エコノミスト)という指摘がある。債券市場では今週明けに長期金利が一時0.465%と約3カ月ぶりの高い水準まで上昇した。現象面からYCCの政策修正に手をつけるタイミングが近いことを市場は読んでいる。
ただし、外国人買いが足もとで鈍化しているとはいえ、いきなり売り姿勢に転じることは考えにくい。“バフェット効果”を要約すれば、日本企業は地政学的リスクに晒されにくく、バリューとクオリティー両面で再評価できるということ。これが海外投資家の間に共通認識として広まった結果が怒涛の買いにつながった。日銀の超緩和姿勢に傾倒して日本株を買い漁っていたわけではない。
全体相場は小休止の局面だが、主力株がおとなしければ中小型株のテーマ物色にむしろ弾みがつく。そうしたなか、自動車周辺株人気から派生する形で電気自動車(EV)関連株に流れが向かいつつある。米テスラ<TSLA>のEV販売台数が飛躍的に伸びているが、国内では盟主のトヨタ自動車<7203>が2026年までに新たに10モデルのEVを投入し、年150万台の販売を基準とする旨を公表している。トヨタの「ギガキャスト」構想でリョービ<5851>にスポットライトが当たったが、同じ観点でアーレスティ<5852>もマークしたい。また、EV用電池向け試験装置を手掛けるIMV<7760>や、新たに開発したEV用充電器で大口受注獲得が見込まれるモリテック スチール<5986>にも着目したい。
あすのスケジュールでは、朝方取引開始前に6月の企業物価指数が日銀から、5月の機械受注が内閣府からそれぞれ開示される。海外ではニュージーランド中銀、カナダ中銀の金融政策決定会合のほか、6月の米消費者物価指数(CPI)に対する市場の注目度が高い。このほか、米地区連銀経済報告(ベージュブック)も予定されている。(銀)
最終更新日:2023年07月11日 17時09分