明日の株式相場に向けて=錯綜する売り方と買い方の思惑の先
きょう(5日)の東京株式市場は、日経平均株価が前営業日比548円高の3万1075円と大幅反発。先物主導とはいえ派手な戻り足で値上がり銘柄数は1700を超え、プライム市場の94%を占めるという全面高。もっともこれまでの下げパフォーマンスを考えれば、リバウンドに転じた際にはこうした商状になることは想定されたところ。問題は相場のトレンドが変わったか否かということで、現状ではまだ判断がつきにくい。
今週末は9月の米雇用統計発表を控え、東京市場は3連休を控えていることもあって、投資家心理としては積極的な買いを入れにくい状況ではある。ただし、ここは売り方も怖い場面で、買いが入れにくい相場環境は売りポジションも高めにくいというのがよくある話。空売りが積み上がっていれば、そのポジション調整つまり手仕舞い売りならぬ“買い戻し”を誘発し、全体相場が望外の上昇をみせるケースも過去に何度かみられた光景だ。
日経平均は前日までの5営業日続落でこの間に1800円以上も水準を切り下げる急勾配の下げトレンドを強いられたが、リスクオフの潮流はもっと以前から押し寄せていた。3週間前の9月15日に日経平均はザラ場で3万3643円の高値をつけており、そこからほぼ一本調子で下げ続け、前日の安値3万487円まで3100円あまりの崩落となった。この間の踊り場といえば配当権利落ち後の週末9月29日と下期相場入り初日となった10月2日くらいで、あとは問答無用の売りで下値を切り下げた。市場関係者からは、前日朝方時点で海外ヘッジファンドの売り乗せも観測されるなど悲観一色ムードに染まったが、そういうシーンでいったん底が入るというのも過去に見られるパターンである。
前日は東京市場が700円超の急落で、アジア株市場も香港、韓国、台湾など下値模索のオンパレードとなり、欧州株市場も独DAXはわずかにプラスで引けたものの総じて下落を余儀なくされる、という世界株安モード全開だった。この流れを堰き止めたのは米国時間に入ってからで、取引開始前に発表された9月のADP全米雇用リポートがその役割を担った。非農業部門の雇用者数が前月比8万9000人の増加で、事前コンセンサスの16万人を大幅に下回ったことは、土俵際に押し込まれていた買い方にとっては福音にほかならない。これを受けて、一時4.88%まで上昇していた米長期金利が4.7%台まで低下に転じ、株式市場に資金が還流する背景となった。
そして、これに今日の東京市場が続いた形である。例によって朝方は半信半疑でチョロチョロと清水が湧き出るような戻り足だが、徐々に勢いが増し、相場のベクトルの向きが定まると先物主導で一気に流れが強まるのはいつものパターンだ。日経平均は前引けに359円高で着地し、後場寄りもギャップアップして上値追いを加速、約550円の上昇をみせ3万1000円台に駆け上がった。セオリー通り直近開けたマドを埋めに行く動きとなり、(下ヒゲ考慮で)3万1157円を上回ればマド埋め完了となる。結局、マドを埋めるには至らなかったが、ほぼ高値引けでリバウンドとしては十分な結果を残した。
しかし、これで目先底入れとはいえないのが現状だ。先物に振り回される形で相場は上にも下にもボラティリティの高い状況が当面続きそうである。方向指示器となるのは引き続き米長期金利の動向だ。その金利を動かすビッグイベントが明日の日本時間夜9時半に発表される9月の米雇用統計、そして来週12日に開示予定の9月の米消費者物価指数(CPI)ということになる。ADPは株式市場に味方したが、直後の米雇用統計とはあまり連動しない。今回の雇用統計は雇用者数の伸びが鈍化する見通しで、総じて労働需給の緩和を示唆する内容が想定されているが、それだけに上振れした時には長期金利が過剰に反応する可能性もある。「直前の新規失業保険申請件数が減少していたこともあり、ADPとは逆方向に振れる可能性も少なからずある」という生保系エコノミストの指摘もあり、フタを開けてみないことには分からない。ここは焦らず静観する勇気も必要であろう。
明日のスケジュールでは、8月の家計調査、8月の毎月勤労統計、9月上中旬の貿易統計のほか3カ月物国庫短期証券の入札も予定。午後取引時間中には8月の景気動向指数(速報値)、消費活動指数が発表される。海外ではインド中銀が政策金利を発表するほか、9月の米雇用統計にマーケットの関心が高い。また、8月の米消費者信用残高も開示される。このほか、ウォーラーFRB理事の講演も予定され、その発言内容に耳目が集まる。(銀)
最終更新日:2023年10月05日 17時01分