黒船マネーが日本に襲来!「資産運用特区」関連株は今が仕込み場 <株探トップ特集>

特集
2023年10月7日 19時30分

―2000兆円超の家計金融資産に外資系が食指、外国金融人材増加で関連サービスも成長へ―

岸田政権が掲げる「資産運用立国」の政策プランに注目が集まっている。国内の大手金融グループの運用力を強化するための支援策に加え、海外の資産運用会社の国内誘致を視野に、外国人金融人材の働き方や生活に配慮した「資産運用特区」の創設に向けた準備が今後、加速する見通しだ。株式市場において特区創設はどの銘柄に恩恵をもたらすことになるのか、掘り下げていく。

●競争力強化へ年内に政策プラン

岸田文雄首相は9月21日(日本時間22日未明)、国連総会の出席のために訪問したニューヨークで、米国の経済人らを前に講演し、 資産運用立国に向けた政策の一環として、資産運用特区を創設すると表明した。英語のみで行政対応が完結できるための規制改革を進めるとともに、来日する外国人に対してビジネスや生活環境の整備を進める構想を明らかにした。

これまでも国内では東京都による「国際金融都市・東京」構想など、海外の金融機関に日本市場への参入を働きかける取り組みが進められてきたが、今回は政府の「新しい資本主義実現会議」が昨年11月に決定した「資産所得倍増プラン」が土台となっている。今年6月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)では、2000兆円の家計金融資産を開放することで持続的な成長につなげる資産運用立国の実現に向け、同プランを実行する方針が示され、更に資産運用会社の運用力の強化などを目的とする政策プランを年内に立案することが明記された。

当然ながら、資産運用会社や年金基金などの運用パフォーマンスの向上は、家計の金融資産所得の増加に直結する。資産運用業界への新規参入を後押ししつつ、プレーヤー間の競争を促し、個々の企業の運用能力を高めることができれば、投資資金のリターン拡大を伴って、金融市場に更なるマネーを呼び込むことが可能になる。

●銀行・証券セクターだけではない収益拡大シナリオ

こうした資産運用業界への支援策は、中期的な観点では野村ホールディングス <8604> [東証P]や大和証券グループ本社 <8601> [東証P]などの証券各社や、三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> [東証P]、三井住友フィナンシャルグループ <8316> [東証P]、みずほフィナンシャルグループ <8411> [東証P]といった金融機関の収益力を高めると期待されている。資産運用ビジネスの拡大とともに、新たに日本市場に参入する海外の金融機関が増え、その運用資金が東京市場に流入すれば、日本取引所グループ <8697> [東証P]の収益に大きく貢献することになるだろう。

もっとも、国策の恩恵を享受するのは銀行・証券セクターばかりではなさそうだ。資産運用業界の競争促進策の一つとして検討されているのが資産運用特区だが、その候補として、政府は東京都や大阪府、福岡県と札幌市の4自治体を軸に検討していると報じられている。いずれも訪日外国人に人気の高い都市ではあるものの、実際にその土地で生活するとなれば、東京都であっても、生活面でのさまざまな困難を克服する必要に迫られることとなる。

特区創設を機に、外国人材にとって魅力的なビジネス環境の整備に向けて既存のオフィスの建て替えなどを促す再開発構想が今後、浮上する可能性もあるだろう。海外のIT機器の導入支援を得意とする企業にも、受注の拡大の思惑が広がりそうだ。こうした観点をもとに、資産運用特区の関連銘柄をピックアップしていく。

●「東証の大家」の平和不やITシステム関連に注目

平和不動産 <8803> [東証P]は、東証と大阪取引所、名証、福証が入居するビルの賃貸収入を収益源とし、主要都市でオフィスビル・商業施設事業を展開する。兜町の再開発を推進し、都の国際金融都市構想にも深く関与してきた。特区創設にあわせて、大阪・北浜を含め各都市でオフィス地区の再開発構想が浮上した場合、平和不は大きな役割を担うこととなる公算が大きい。

オフィスの新設という側面では、金融機関向けのシステム構築を展開するシンプレクス・ホールディングス <4373> [東証P]をマークしたい。メガバンクや大手証券など国内の主要金融機関との取引を通じて安定的な成長を果たしており、24年3月期の売上高と利益は再上場後の過去最高を更新する見通し。今年1月にはSBIホールディングス <8473> [東証P]と傘下のSBI証券との資本・業務提携を発表した。そのSBIは欧州大手資産運用会社の英マン・グループとの合弁会社設立を7月に、米KKR<KKR>との日本での資産運用会社の設立を9月に公表するなど、海外金融機関との協業を加速している。SBIの「攻めの姿勢」による需要拡大の思惑にとどまらず、海外運用機関が日本オフィスを新設・増強する流れが本格化すれば、事業にプラス効果をもたらしそうだ。

JTP <2488> [東証S]は外資系IT企業の製品の保守・点検業務を手掛けている。システムの導入から運用までを、バイリンガルでかつワンストップで対応する強みを持つ同社は、27年3月期に売上高92億~100億円(23年3月期73億8100万円)、営業利益7億1000万~10億円(同4億6400万円)に伸ばす目標を掲げている。特区創設による特需が発生した際には、中期計画の上振れに寄与することとなりそうだ。

エックスネット <4762> [東証S]は生損保や投信会社、信託銀行など機関投資家を中心に約180社の顧客に対し、資産運用管理専門のシステム提供と業務サポートを展開。株式の流動性は高くはないが、海外運用会社との取引拡大により事業を成長させられるか注視されそうだ。NTTデータグループ <9613> [東証P]が過半を出資する親子上場銘柄としても押さえておきたい。

●広報・PR関連や人材サービスにも追い風か

海外の資産運用会社であっても、顧客の投資資金のリターンの拡大を追求する責任を負うことには変わりがない。企業価値の向上策を巡り投資先との意見の相違が埋まらない場合、株主総会において企業側が提案した議案に反対を余儀なくされ、その理由について、日本のメディアに情報発信をする必要に迫られるケースも出てくる。日本での事業を拡大するうえでは、日本語によるPR戦略の立案も欠かせない視点となるだろう。

プラップジャパン <2449> [東証S]は、外資系企業の日本での広報・PRの支援で確固たるポジショニングを確立する。世界的な資産運用会社やヘッジファンドの広報業務での実績を持ち合わせており、日本に進出する外資企業の増加は、同社の業績に直結してプラス効果をもたらしそうだ。

同業のベクトル <6058> [東証P]もアジア最大級のPR会社として、海外では香港やシンガポールなどで業務を展開する。アジア系の資産運用会社が日本に進出する際には、国内でのPR案件の増加に寄与することが見込まれる。

海外の運用会社が日本拠点を設立する動きが相次げば、高度人材の獲得競争が一段と激しくなるだろう。ハウテレビジョン <7064> [東証G]は、グローバル企業への就職を目指す中途採用プラットフォーム「Liiga」を展開。登録会員のうち金融プロフェッショナルは全体の15%を占める。新卒者向けプラットフォーム「外資就活ドットコム」では、外資系投資銀行の内定を目指すトップクラスの人材が登録する。24年1月期の単体業績予想は、経常利益が前期比12.5%増の4億4500万円と最高益を計画。マーケティング施策が奏功し、取引社数と会員数は順調に拡大している。

●外国人への生活サポートも需要拡大へ

生活サポート面では、リログループ <8876> [東証P]に注目したい。同社は借り上げ社宅の管理や日本企業に勤める会社員の海外赴任支援事業とともに、外国籍社員の受け入れ支援サービスを展開。ビザや短期宿泊先、住居の手配のほか、携帯電話の契約などあらゆる支援をワンストップで英語により提供する。現状で2400億円弱の時価総額を45年3月期に10兆円とする野心的なビジョンを掲げる同社にとって、海外からのハイレベル人材の増加は成長加速の重要なドライバーとなるだろう。

子どもの教育面ではAoba-BBT <2464> [東証P]が、オンライン経営大学院「ビジネス・ブレークスルー大学大学院」とともに、インターナショナルスクール事業を展開する。生徒数は1500人弱と、2013年の新規参入時のおよそ6倍の規模にまで増加。金融プロフェッショナル人材の来日に伴って、特区で生活する外国人児童・生徒が増加すれば、同事業の更なる成長に寄与しそうだ。外国人ITエンジニア紹介のビズメイツ <9345> [東証G]は、ビジネス向けのオンライン日本語会話プログラム「Zipan」を提供。外国人による日本語学習の需要拡大による恩恵が期待できる。

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