世界が驚愕、実用段階へ開発加速の量子コンピューター関連株に刮目 <株探トップ特集>

特集
2024年12月16日 19時30分

―生成AI普及で計算量は爆発的に増大へ、グーグル新型チップ誕生で注目度も上昇中―

生成AIの普及を支える社会インフラとして、日本国内ではデータセンターが建造ラッシュの様相を呈している。自動運転を含め社会のデジタル化の更なる進展が見込まれるなか、超高速での演算が可能なスーパーコンピューターに加えて、 量子コンピューターの開発競争も激化しており、その実用化が大きく期待されている。直近では米アルファベット<GOOG>傘下のグーグルが開発した量子チップにより、従来のスーパーコンピューターで「10の25乗」年かかっていた計算を5分未満で実行することに成功したと発表。驚くべき成果は株式市場において、関連銘柄への注目度を一段と高める要因となっている。

●「計算エラー」削減で計算速度が飛躍的に加速

量子コンピューターは、従来のコンピューターでの情報量の単位であるビットに相当する「量子ビット」が増加すればするほど、計算エラーが発生するという技術的課題が存在する。グーグルの新型チップ「Willow」を活用すると、計算エラーを大幅に削減できるようになる。これにより、量子ビットを増やすことが可能になり、グーグルは驚異的な超高速計算を実現できるようにした。

量子コンピューターのなかでも「量子アニーリング方式」と呼ばれるタイプは、最適な組み合わせを選ぶといった特定の用途において実用化されている。これとは異なり、「量子ゲート方式」は汎用性の高さから将来の量子コンピューターの主流となると考えられている。計算エラー対策をした量子コンピューターが普及する未来では、AI技術は一段と進化し、人間の知能を大きく上回る能力を持つASI(人工超知能)の時代に移行することとなりそうだ。

汎用型の量子コンピューターでは現在、超電導方式やシリコン方式、イオントラップ方式などさまざまな方式によるハードウェアの開発が進んでいる。超電導方式ではIBM<IBM>やグーグルのほか、アマゾン・ドット・コム<AMZN>、リゲッティ・コンピューティング<RGTI>などが開発を進めている。日本の大手企業では、NEC <6701> [東証P]が超電導方式で科学技術振興機構(JST)の研究開発事業に参画。富士通 <6702> [東証P]は理化学研究所とともに64量子ビットの超電導式の量子コンピューターを開発。NTT <9432> [東証P]は量子ビット制御ソフトウェアを提供する。

大規模化に有利とされるシリコン方式では日立製作所 <6501> [東証P]が2023年6月、量子ビットの間でのエラーの影響を抑制できる研究成果を発表した。インテル<INTC>が開発する量子コンピューターもシリコン方式をベースとする。

プラス電荷のイオンを真空に閉じ込め、安定した状態で量子的操作を加えるイオントラップ方式は、高精度の計算を得意とする。海外では米ハネウェル・インターナショナル<HON>傘下のクオンティニュアムやイオンQ<IONQ>などが実用化を目指しており、日本ではQubitcore(横浜市西区)が研究開発を進めている。マイクロソフト<MSFT>は、トポロジカル量子ビットによる実機開発を展開している。

●筆頭格のFスターズに加えサプライヤーにも熱視線

株式市場で量子コンピューター関連株の筆頭格と位置付けられるのが、フィックスターズ <3687> [東証P]である。高速ソフトウェアの開発を手掛ける同社は、組み合わせ最適化問題の解決に向けて最適なハードウェアを選択できる量子コンピューティングのクラウドサービスを展開。11月8日には理研の研究チームやNTTなどとともに、室温で大規模計算が可能な光方式の量子コンピューターの開発に成功したと発表した。

ハードウェアの開発を支える部品やソフトウェア、関連機器や材料を手掛ける企業群からも目を離すことはできないだろう。超電導とシリコンの両方式では、極低温環境の構築が必要となる。量子コンピューター向け冷凍機は、フィンランド企業のブルーフォース社が大きな存在感を持つ。日本国内においても有力な要素技術を持つ企業が存在し、活躍が期待されている。

日本航空電子工業 <6807> [東証P]は量子コンピューター向けの非磁性同軸コネクターを開発。エヌエフホールディングス <6864> [東証S]は低雑音信号処理システムを製品群に持ち、量子デバイスの研究活動を後押ししている。多摩川ホールディングス <6838> [東証S]は量子コンピューターが解読できない量子暗号鍵を活用したインターネット網に対応する通信機器やシステムの研究開発を推進。今年6月には一般社団法人の量子ICTフォーラムへの入会を発表し、国際的なインフラ構築の取り組みに参画する姿勢を示した。

オキサイド <6521> [東証G]は、買収したイスラエル企業とともに、量子暗号通信分野で活用が期待される量子もつれ光源モジュール製品を開発している。浜松ホトニクス <6965> [東証P]は今年5月、420億円を投じて、計測用ファイバーレーザーで世界トップクラスとされるデンマーク企業のNKTフォトニクスの買収を完了。半導体検査用光源での事業拡大を図る方針を示した。光方式の量子コンピューター向け受発光・光学部品などキーデバイスの供給で相乗効果を生み出していく。レーザー用光学関連部品で国内最大手のシグマ光機 <7713> [東証S]は量子光学関連ではナノレベルでの位置制御が可能な装置やビームスプリッターを手掛ける。

ソフトウェア領域では、テラスカイ <3915> [東証P]傘下のQuemixが、量子コンピューターの性能を最大化するためのアルゴリズム開発を展開し、企業との共同研究も進める。11月18日には、QuemixとSCSK <9719> [東証P]の資本・業務提携を発表。量子コンピューターの社会実装に向けた研究開発の加速と、材料計算市場での事業拡大を狙う。グリッド <5582> [東証G]は22年11月にトヨタ自動車 <7203> [東証P]と量子機械学習の研究分野での協業を発表。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)による24年度「量子・古典ハイブリッド技術のサイバー・フィジカル開発事業」の採択事業者として、研究開発を加速させている。

●サービス領域でも新たな動きが続々

Fusic <5256> [東証G]はFスターズのクラウドサービスに関するパートナー契約を同社と締結。クラウドサービスが提供する量子アニーリングマシンによる数理最適化ソルバーを活用し、直近では「とらふぐ亭」を展開する東京一番フーズ <3067> [東証S]に対しシフト自動生成システムを開発するなど、案件の積み上げに動いている。インテリジェント ウェイブ <4847> [東証P]は、量子ソフトウェアを開発できるシミュレーター「Atos QLM」を製品群に持つ。

HPCシステムズ <6597> [東証G]は量子コンピューターを用いたソフトウェア開発を手掛けるスタートアップのQunaSys(東京都文京区)と資本・業務提携をし、量子化学計算を行うクラウドサービスも展開。今年10月31日、名城大学の研究グループとともに、定性・定量分析が困難なシス型カロテノイドについて量子化学計算により超精密に分析する技術を開発したと発表している。

BlueMeme <4069> [東証G]は22年4月に、京都大学と量子コンピューターを用いたゲノム解析に関する共同研究を開始。翌23年4月には、九州大学と量子AIを活用した大規模言語モデル(LLM)の構築に向け共同研究を始めるなど、産学連携を通じて将来的な事業拡大の基盤固めを図っている。

このほか、量子コンピューターの関連機器を子会社において取り扱うYKT <2693> [東証S]、大阪大学の研究チームとともに量子計算と古典計算の協調処理を高速化する技術を開発したセック <3741> [東証P]なども関連銘柄とされている。18日に新規上場するキオクシアホールディングス <285A> [東証P]は極低温環境で安定動作するフラッシュメモリを開発。今年5月には同環境用トランジスタモデルの開発の推進などを目的とした京都工芸繊維大学との協定締結を発表している。

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