原油価格は20年前と同水準、OPECプラスが増産を急ぐ理由とは? <コモディティ特集>
●物価上昇と切り離されている原油価格、企業はコスト高に困窮
ニューヨーク市場のウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物は年初から低迷が続いており、今年の平均価格は今のところ1バレル=67.50ドル付近で推移している。3月以降の月間の平均価格は1バレル=60ドル台で重く、年間の平均価格を押し下げる傾向にある。年間平均で1バレル=60ドル台の原油価格は2006年とほぼ同水準だ。
この20年間、世界金融危機の引き金となったリーマンショックもあれば、原油相場が1バレル=-37.63ドルまで下げたコロナショックや、ウクライナ戦争、最近では米国によるイラン核施設攻撃など、様々な要因で原油相場は上下してきたものの、WTI先物やブレント原油など相場の指標となる原油価格の推移に長期トレンドはない。2008年には1バレル=150ドルの節目に接近した一方、コロナショック当時には需要が消滅し、売り手が買い手に原油の引き取り価格を支払うというマイナス価格が発生する超異例の事態となるなど、その時々の変動はかなり荒いが、原油価格は淡々と上昇する世界の物価とは切り離されている。
世界銀行によると、2005年以降の世界の物価上昇率は、年間+1.4%から+8.9%で推移しており、この20年間で均すと+3.9%である。今年のインフレ見通しは+2.9%と想定されている。長期間にわたって原油価格は足踏みを続けている一方で、世界の物価は着々と上昇を続けている。地球上の資源は有限で欠乏していくことから、世界経済は物価上昇から逃れることはできない。
産油国や世界的な石油企業も、物価上昇と日々向き合っている。原油相場に良い時も悪い時もあり、産油国が原油高による恩恵に預かる時があるにしても、相場に価格が支配されている以上、コスト高に耐え忍ぶ必要がある期間も多い。原油相場が上昇傾向を描かなければ、設備投資コストを安定的に回収するのは難しいといえる。原油相場が低迷しているなら、なおさらだ。英石油大手BPの経営悪化が示すように、石油企業の困窮は広がっている可能性が高い。老朽化した石油関連施設でやりくりする産油国も多いのではないか。
●OPECプラスによる生産量の拡大は供給の不安定化リスクを想起
石油輸出国機構(OPEC)プラスはこれまでに幾度となく設備投資の不足と、これに伴うリスクを指摘してきた。設備投資が不十分であるならば増産が難しいだけでなく、生産量を維持できない。設備の老朽化による生産障害の発生リスクも増加する。米エネルギーサービス会社ベーカー・ヒューズが発表する米石油掘削リグの稼働数は425基まで減少し、2021年9月以来の低水準となるなど、世界最大の産油国である米国でも減産の兆候は明らかである。米ダラス連銀が発表する四半期エネルギー調査で、石油・ガス関連企業の設備投資指数は4-6月期に-3まで低下しており、傾向としては下向きである。
日本の米相場と同様に、消費者にとって石油価格は安ければ安いほどありがたい。電気自動車などが普及しているにしても、ガソリンや軽油は経済活動に不可欠であり、ちょっとした値上がりでも家計や企業業績を圧迫する。ただ、原油価格の低迷が続いているなかで、十分な設備投資を怠ってきた代償を支払わなければならない局面が近づいているのではないか。OPECプラスの主要8ヵ国は日量220万バレル規模の協調減産の解消を4月から開始しており、8月の増産幅は日量54万8000バレルと前倒しで増産するなど、価格安定の番人であるOPECプラスが生産量の拡大を急いでいることは供給の不安定化リスクを想起させる。長年にわたって減産で相場を支えてきたOPECプラスの意図は、価格下振れの抑制である一方、増産に走る理由はその逆である可能性が高い。主要産油国が増産を急務と捉えているならば、供給過剰ではなく、供給不足を考慮に入れるべきだろう。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
株探ニュース