原油高の次は覇権国の終わりの始まりか <コモディティ特集>
●ホルムズ海峡を巡って泥沼化する戦況
米国とイスラエルが始めたイラン戦争は泥沼化の様相となっている。トランプ米大統領が3月31日に2~3週間以内に戦争を終結させると発言をしたが、先行きは不透明だ。
当初、トランプ米大統領はイランにウラン濃縮の完全な停止や濃縮ウランをイラン国内から撤去すること、ミサイル開発の制限、武装組織ヒズボラなど代理組織への支援停止、あるいは新たなイラン最高指導者の選任に関与することなどを要求していたが、今のところ何一つ達成されていない。自由だったホルムズ海峡が実質的に封鎖されただけである。
イランはタンカーから通行料を徴収したうえで航行を正常化する見通しだ。パキスタンやタイ、マレーシアは個別にイランと交渉し、航行が認められたと発表した。イランはタンカー一隻あたり200万ドルの通行料をイラン・リアル建てあるいは人民元建てで支払うこと、ホルムズ海峡を通過する石油の人民元建て取引を要求しているようだが、イラン政府から公式な発表はまだない。ただ、米軍が開放しなくともホルムズ海峡の通行が回復するなら、米国の軍事作戦の目標がさらに不明確となる。
リアルクリアポリティクス(RCP)の調査によると、トランプ米大統領の支持率は41.0%まで低下し、2期目が始まってからの最低水準を更新した。一方、不支持率は56.8%まで上昇し、最高水準を更新している。米国が検討する地上作戦はホルムズ海峡の開放が目的のようだが、地上部隊による戦闘が始まると多くの米兵が戦死することは避けられず、トランプ米大統領に対する批判はさらに強まるだろう。なお、イスラエルのチャンネル12によると、イスラエル兵がイランで地上戦に参加することはないようだ。
●ホルムズ海峡を開放できなければ米国が敗者に
イランが武器として利用しているホルムズ海峡の封鎖は米金融市場にとって脅威だ。ホルムズ海峡封鎖による原油高は、インフレ・景気見通しを通じて金融市場を不安定化させている。主要な米株価指数は最高値水準から離れる傾向にあるうえ、米長期債利回りは危険水域である4.50%付近に迫りつつある。イラン戦争が続くならインフレ高進や米連邦準備制度理事会(FRB)による金融引き締めは避けられそうになく、米株式市場や米国債市場を更に圧迫するだろう。また、金融市場の混乱に備えた現金需要の増加を受けて、今月前半にかけてドル相場は強含みで推移したものの、ドル買いは一巡したようだ。逃避的なドル買いがさらに続く可能性はあるとしても、そのドルがどこに向かうのか不明である。なお、ホルムズ海峡を通過するエネルギーがドル建てではなく、人民元建てで取引されるようになると、ドルを支えてきたペトロダラーシステムは崩壊する可能性がある。
著名投資家のレイ・ダリオ氏が指摘するように、イランがホルムズ海峡を支配するようなら米国が敗者となるだろう。敗者からは人々や資金の流れが自然に離れていくのが常で、米株式市場や米国債市場で売りが強まる可能性が高い。マージンコール(追証)に備えたドル需要が一巡すれば、ドル離れも鮮明となるのではないか。基軸通貨であるドルや、際限なく拡大してきた米国債市場が弱体化する未来が近づいているなら、現在のオイルショックとは比較にならない衝撃を警戒しなければならない。トランプ米大統領がこの現実を少しでも直視しているなら、ホルムズ海峡をイランの支配下におくことを認めることはかなり困難だろう。米兵の死傷者が膨れ上がり、自身の支持率がどこまでも下がろうとも、覇権国の維持を目指してトランプ米大統領は地上作戦を始めるのではないか。イラン戦争で勝利し、ホルムズ海峡の封鎖を解除すること以外に選択肢がないためである。
一方、イランは攻撃に耐えつつ、ホルムズ海峡の支配権を確立してしまえば戦争に勝利する可能性がある。軍事的に急いで何かを成し遂げる必要はない。世界的にエネルギーの欠乏が広がっているうえ、プラスチックなど石油化学製品の欠乏は社会生活に大きな打撃を与え始めていることから、イランとタンカーの通過について交渉する国は増える可能性がある。ほぼすべての産業で必需品が欠乏するため、渇きに抗える国はおそらく存在しない。通行料を科されようとも、渇きの反動でエネルギーの欠乏が改善していくようなら、米国が始めた戦争の意味合いはさらに薄れる。そうなれば、タンカーの上空、あるいはホルムズ海峡の沿岸で軍事行動を繰り広げる国は敵視されそうだ。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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