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安田秀樹【「Switch 2」値上げであえて"謝罪"を選んだ任天堂の真価】

特集
2026年5月15日 10時00分

●投資資金がさらなる投資を生むAI半導体セクター

今月は筆者がウォッチする各社の、2026年3月期決算序盤戦の模様から話を進めていきたい。まずは多くの投資家が興味を持つだろう半導体関連である。アドバンテスト <6857> 、東京エレクトロン <8035> はともに、前四半期(25年10-12月期)から大きな成長を遂げ、好決算を記録した。中でも注目したいのは、東京エレクトロンである。同社の27年3月期業績予想は上期分のみの開示だったが、筆者の印象では、下期はさらに伸びる勢いを感じる。

背景にあるのは、AI(人工知能)の学習と実装に伴う大規模なデータセンター向け投資だ。機械学習には膨大な演算量が必要であり、簡略化すれば「演算能力×時間」でその成果は決まると言える。ゆえに、より早く圧倒的な演算能力を確保した側が、競争において優位な立場を得ることができる。

そのために各社が他社に先んじて演算能力を優先的に確保しようと動いている。市場に供給されるエヌビディア<NVDA>製のAI半導体やメモリーには生産キャパシティに上限があるため、これらを確保することは、競合相手の成長を抑えるうえで極めて有効な戦略となるのだ。実際、オープンAIは将来必要になるDRAMをすでに確保したと報道されている。

将来的にAI企業がこの膨大な投資に見合う収益を実現できるかは未知数だ。だが現在は、AIが生み出す「成果」が「リスク」よりも強調されているため、投資資金が集まりやすく、その資金がさらなる投資需要を生む循環にある。加えて政府がAIデータセンターへの補助金を拠出するとの報道もあり、AI関連の設備投資の活況は当面続くだろう。

つまり、半導体需要がますますAI分野に集中する構図となっているのだ。そうなるとAI以外の分野が"割を食う"ことになる。その詳細については次項で述べたい。

●電子部品業界はAIサーバー需要が急増も、AI以外の製品低迷が影響

村田製作所 <6981> とTDK <6762> の26年3月期決算はともに会社予想を上回って着地し、今期(27年3月期)も増収増益の計画を掲げている。そして、この好調を支えているのがAIデータセンター用サーバーだ。TDKによれば、サーバーの生産台数は前期の約220万台から、今期は260万台へと大幅に増える見通しである。この40万台の増加分がもたらす積層セラミックコンデンサやHDD(ハードディスクドライブ)への需要は膨大であり、両社ともに旺盛な設備投資を計画している。

村田製作所の今期の投資額は2500億円と前期比で微増ではあるが、25年3月期が1805億円であったことを踏まえれば、3期連続で2000億円規模という、同社としては高水準を維持している。一方のTDKは扱う部品の多様化と事業機会の増加により、今期は前期比で700億円以上増額し、3700億円もの投資を計画している。これらを見ても、AI投資増加のインパクトの大きさには驚かされる。つい3年前とは隔世の感がある。

一方で、積層セラミックコンデンサの供給は何とか維持されているものの、半導体関連、特にDRAMやフラッシュメモリーの不足が深刻化している。26年1-3月期ではDRAMへの影響にとどまっていた米国・イスラエルのイラン攻撃だが、その余波は想定を大幅に上回っている。特に石油化学品の大幅な値上がりによるコスト増の規模は、筆者のキャリアにおいても経験したことがないほどのペースで拡大し、しかも長期化する気配を見せている。

一例を挙げると、キヤノン <7751> は26年12月期第1四半期(1-3月期)決算の場で、DRAMの必要量は確保できる見通しだが、調達価格の上昇により500億円のコスト増になると説明している。AI需要の突出は、他のパソコンやローエンド・スマートフォンの生産自体を困難にしている。村田製作所の見通しでも、スマートフォンの生産台数は前年度比3%減、パソコンに至っては10%もの大幅減を見込んでいるという。

AIブームによってコンシューマー向け電子機器は成長の機会を失っており、先程述べたとおり"割を食う"形となっている。これが市場において「AI関連株だけが独歩高となる」相場環境を生み出している要因だろう。今後の投資に際しては、この構造的な前提を押さえておくべきだ。

●値上げ発表直後に売り切れ続出の「Switch 2」をどう見るか

ゲーム関連では、5月8日に決算が発表された任天堂 <7974> について触れたい。26年3月期は売上高が大きく伸びるなど好調であった。だが焦点は27年3月期である。同社は決算と同時に「Switch 2」の値上げを発表した。言うまでもなく、イラン攻撃に伴う情勢不安が、この決断を後押ししたと筆者は考えている。

石油不足がゲーム機の値上げの要因になることはあまりピンと来ないかもしれないが、コントローラーの外装や内部基板は石油由来のものが多い。また輸送コストなど、一般には見えない部分でのコストも大幅に上がっていて、さらに上昇する可能性も秘めている。

決算説明会でも、国際情勢の変化が長期的な影響を及ぼし始めたことから価格改定に踏み切ったと説明された。その結果、今期の「Switch 2」の販売見通しを1650万台と前期比で減少するとしたことに筆者は大変驚かされた。「Switch 2」の値上げの初報に触れた多くの人は「これで『Switch 2』は買われなくなる」と見たはずだ。

しかし、値上げ発表後には興味深い動きがあった。ネガティブな内容がSNSで瞬く間に拡散され、NHKまでもが大きく取り上げたため、値上げ前の現行モデルが発表当日に相当数売れるという現象が起きたのである(筆者が見た範囲では翌日には売り切れているところが多かった)。

値上げの実施は5月25日なので、まだ現行価格で買えるチャンスはあるのだが、フリマサイトではすでに価格が上昇して取引されており、値上げ後の価格に近いものもあるようだ。もし値上げによって需要が消滅するのであれば、現行価格の4万9980円近い取引がほとんどになるはずだが、そうはなっていない。こうした現象から感じるのは、以前から指摘しているように、値上げによる販売減はそれほど大きくなさそうだということである。

そして、任天堂が決算説明会で値上げを"謝罪"したことに、筆者は特に注目したい。国内採算が悪化する中での値上げは、投資家の目線で見れば本来歓迎すべき材料である。しかし、同社はあえて"謝罪"を選んだ。「悪いニュースほど誠実に、かつ大々的に告知すべきである」というのが筆者の持論だが、同社はまさにそれを実践した。ソニーグループ <6758> が「プレイステーション(PS)5」の値上げを目立たない形で発表したのとは、実に対照的な対応である。

この結果、改めて浮き彫りになったのは、「Switch」シリーズの知名度と圧倒的な人気である。20%程度の値上げは確かに大きいが、これだけのユーザーを動かす力があることを考えれば、1650万台という目標を悲観する必要はない。業績見通しの弱さや資本政策に対して、株価は当面ネガティブに反応するかもしれない。しかし、この誠実な姿勢は、長期的な"信用"を生み出し、ピンチをチャンスに変える力になると考えている。

その他、ゲーム関連ではコーエーテクモホールディングス <3635> を取り上げる。26年3月期の売上高は期初予想に届かなかったものの、開発タイトル「ぽこ あ ポケモン」のグローバルヒットや「仁王3」の健闘、そして投資事業の大きな成果により、最終利益は大幅に上振れた。27年3月期は投資成果が落ち着く見通しを示したが、株式市場が活況であるため、さらなる利益上振れの余地は大きい。

●今後の投資判断のポイントは企業の「インフレ耐性」

最後に鉄道セクターである。JR本州3社の決算は総じて好調であったが、27年3月期の見通しは明暗が分かれた。運賃値上げや不動産事業の拡大が寄与するJR東日本 <9020> が増収増益を見込む一方、万博特需の反動を受けるJR西日本 <9021> とJR東海 <9022> は減益の見通しだ。

さらに3社とも、深刻なインフレ圧力に直面している。JR東日本は1月に発生した連続トラブルを受け、コロナ禍で削減していた修繕費を積み増すと発表した。これに加え、人件費や資材価格の上昇により、東京地下鉄(東京メトロ) <9023> も含め、営業費用が大きく膨らんでいる。

JR西日本は今回の中期経営計画期間中に、運賃改定を実施したい意向を表明した。筆者の質問に対し、同社は「値上げを実施した年度が業績のピークとなり、現在のインフレが続けば、その翌期からは鉄道部門は減益になる」との業績予想を示した。

今回の決算からは、任天堂や鉄道会社といった実需企業にインフレの影響が強く表れ始めていることが読み取れる。好業績の半導体・電子部品セクターにしても、調達価格や人件費の上昇という形で、確実にその影響を受けている。

つまり、現在の株式市場は「インフレ耐性のある企業」をより厳格に評価するフェーズに入っている。コスト増に対し、価格転嫁が遅れる企業は評価を落としかねない。この点については、筆者がブルームバーグ(5月6日付)の記事でコメントしたことでもあるが、インフレに対する市場からの評価は冷徹である。東証からの「資本コストを意識した経営」の要請もあり、企業価値を向上させるための「インフレ耐性」が、今後の投資判断における大きな試金石となるだろう。

【著者】

安田秀樹〈やすだ・ひでき〉

東洋リサーチアドバイス シニアアナリスト 

1972年生まれ。96年4月にテクニカル・アナリストのアシスタントとしてエース証券に入社。その後、エース経済研究所に異動し、2001年より電子部品、運輸、ゲーム業界担当アナリストとして、物流や民生機器を含む幅広い分野を担当。22年5月に東洋証券に移籍し、2026年4月からは東洋リサーチアドバイスのアナリストとして活動している。大手証券会社の利害に縛られない、独立系アナリストとしての忖度のないオピニオンで、個人投資家にも人気が高い。現在、人気Vチューバーとの掛け合いによるYouTube動画「ゲーム業界WEBセミナー」を随時、公開中。

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