【米著名投資家③】「ハイテク界の女王」が追い求める破壊的イノベーション キャシー・ウッド(アーク・インベストメント・マネジメント創設者)
<13Fで読み解く米著名投資家の売買戦略>

◆ボラティリティの高さも何のその、ハイテク企業への揺るがぬ信念
「投資の神様」ウォーレン・バフェットが、「企業の本質的な価値」を見抜く達人だとすると、キャシー・ウッドは「未来の変革(イノベーション)」を信じ抜く、預言者と言っていいだろう。コロナ禍以降に集中投資をしたテスラ<TSLA>などのハイテク企業が爆発的な株価上昇を見せ、一躍、“時の人”となった。現在では、彼女が率いるアーク・インベストメント・マネジメント(以下、ARK)の動向は、世界中のグロース投資家が注目する最も重要な指標の一つとなっている。
1955年生まれのウッドは南カリフォルニア大学で、税率と税収の相関を示した「ラッファー曲線」の提唱者として知られる著名経済学者、アーサー・ラッファーに師事して経済学を学んだ後、アライアンス・バーンスタインなど一流資産運用会社でキャリアを積んだ。同社ではCIO(最高投資責任者)にまで上り詰めたというから、当時から投資センスは飛び抜けていたのだろう。そんなウッドが2014年にARKを起業したのは、ある伏線があった。経営陣に対してテクノロジー専門のアクティブ運用ファンドの設立を提案したところ、「リスクが高すぎる」と却下されたのだという。インデックスを重視しがちな従来の資産運用の手法に疑問を抱き、「自らの哲学を貫くためには自分で会社を興すしかない」と感じたウッドは、58歳にして起業をするという決断を下す。
最初は資金集めに苦労し、創業当初の運用資産はわずか数百万ドルに過ぎなかった。しかし2020年にテスラへの集中投資が見事に実を結び、ARKは年間150%という驚異的なリターンを記録。世界中に「ハイテク界の女王、キャシー・ウッド」の名が轟いた。
現在のウッドの投資スタンスは、「破壊的なイノベーション」を目指すという一点に集約される。足もとでは、保有銘柄のボラティリティ(株価変動率)の高さから、彼女が率いるARKのパフォーマンスも上下動を繰り返しているが、それでもその信念には一点の曇りもない。彼女の目には、多くの市場参加者が目先の利益にとらわれるあまり、指数関数的に成長するテクノロジー企業に対して過小評価しているように映っているようだ。
現在のウッドへの評価はウォール街でも真っ二つに割れている。信奉者たちは彼女を「未来を見通す稀代の預言者」と称え、批判者たちは「ハイテク株バブルの扇動者」と断じる。2021年から翌年にかけて、ARKの総運用評価額が約75%下落した局面では、「時代遅れの夢想家」という厳しい声も聞こえた。
しかし、ウッドは過ちとは認めず、むしろ「下落時こそ買い増しの好機だ」と言い続けた。一見、頑固にも見えるが、決して自分の信念を曲げることのない、彼女ならではの「知的誠実さ」と捉えることもできるだろう。
また、ウッドはARKの全保有銘柄と売買動向を無料で公開し、YouTubeなどのメディアを通して積極的に配信している。プロの売買とその思考の背景を誰もが知ることのできる透明性の高さは業界でも異例であり、民主的な投資家として、世界中の投資家から熱い支持を集める所以でもある。
◆テスラのトップは不変も、金融プラットフォームにも重点投資
現時点で、彼女が定義する「世界を変えるイノベーション」は、AI(人工知能)、ロボティクス、次世代エネルギー、ゲノム編集、ブロックチェーンの5分野だ。だが、「破壊的イノベーション」への確信を揺るがさないウッドにとって、2025年は浮き沈みの激しい1年となった。ARKの総運用評価額は、第1四半期の約100億ドルから第3四半期には168億ドルへと急拡大し、これまでの年間最高額を更新した。けん引役はテスラの株価急騰と暗号資産銘柄の復活だ。その後、第4四半期にはやや失速したが、それでも年初比50%増という力強い成長を見せた1年だった。
| 【2025年 1Q】総評価額:99億9061万ドル | ||||
| 順位 | 社名<ティッカー> | 評価額 | 保有比率 | 保有株式数(前期比) |
| 1 | テスラ<TSLA> | 8億4453万ドル | 8.5% | 325万株 (→) |
| 2 | ロク<ROKU> | 6億874万ドル | 6.1% | 1005万株 (→) |
| 3 | パランティア・テクノロジーズ<PLTR> | 5億3046万ドル | 5.3% | 628万株 (↓) |
| 4 | ロブロックス<RBLX> | 5億2880万ドル | 5.3% | 907万株 (↓) |
| 5 | コインベース・グローバル<COIN> | 5億2859万ドル | 5.3% | 306万株 (→) |
| 【2025年 2Q】総評価額:136億3917万ドル | ||||
| 順位 | 社名<ティッカー> | 評価額 | 保有比率 | 保有株式数(前期比) |
| 1 | テスラ<TSLA> | 9億7758万ドル | 7.2% | 307万株 (→) |
| 2 | コインベース・グローバル<COIN> | 9億1938万ドル | 6.7% | 262万株 (↓) |
| 3 | ロク<ROKU> | 7億4355万ドル | 5.5% | 846万株 (↓) |
| 4 | ロビンフッド・マーケッツ<HOOD> | 7億2899万ドル | 5.3% | 778万株(↓↓) |
| 5 | ロブロックス<RBLX> | 7億1213万ドル | 5.2% | 676万株(↓↓) |
| 【2025年 3Q】総評価額:167億9981万ドル | ||||
| 順位 | 社名<ティッカー> | 評価額 | 保有比率 | 保有株式数(前期比) |
| 1 | テスラ<TSLA> | 15億9637万ドル | 9.5% | 358万株 (↑) |
| 2 | コインベース・グローバル<COIN> | 8億847万ドル | 4.8% | 239万株 (↓) |
| 3 | ロク<ROKU> | 7億3614万ドル | 4.4% | 735万株 (↓) |
| 4 | パランティア・テクノロジーズ<PLTR> | 7億3608万ドル | 4.4% | 403万株 (→) |
| 5 | ロブロックス<RBLX> | 7億3593万ドル | 4.4% | 531万株 (↓) |
| 【2025年 4Q】総評価額:150億6742万ドル | ||||
| 順位 | 社名<ティッカー> | 評価額 | 保有比率 | 保有株式数(前期比) |
| 1 | テスラ<TSLA> | 13億1235万ドル | 8.7% | 291万株 (↓) |
| 2 | ショッピファイ<SHOP> | 6億4048万ドル | 4.3% | 397万株 (↓) |
| 3 | ロク<ROKU> | 6億3810万ドル | 4.2% | 588万株 (↓) |
| 4 | コインベース・グローバル<COIN> | 5億7483万ドル | 3.8% | 254万株 (↑) |
| 5 | パランティア・テクノロジーズ<PLTR> | 5億7447万ドル | 3.8% | 323万株 (↓) |
※保有株式数の前期比は5%未満の増減は→、5%~50%の増減は↑↓、50%以上の増減は↑↑・↓↓で表現。
テスラは1年を通じて揺るぎないトップの座を保ち続けた。25年第1四半期の約325万株から第3四半期には約358万株へと積み増しが続き、評価額も約8億4000万ドルから約15億9000万ドルへと拡大。第4四半期には保有を291万株に絞ったものの、依然として運用資産の9%を占める最重要ポジションを保つ。電気自動車(EV)の普及加速と自律走行技術の商用化という大きな物語に、ウッドの信念は揺らいでいない。
注目すべきはコインベース・グローバル<COIN>の動向だ。暗号資産銘柄の常として、株価のボラティリティは激しいが、ポートフォリオに占める割合は安定的に保有比率の上位を維持している。また第2四半期に新たにトップ5入りしたロビンフッド・マーケッツ<HOOD>は、個人投資家向け金融プラットフォームの覇権争いに賭けたウッドならではの選択といえる。
ストリーミングサービス大手のロク<ROKU>の保有は一貫して減少傾向を示したが、それでもトップ3の座は維持した。特筆すべきは、第4四半期にショッピファイ<SHOP>が新たにトップ5に加わったことだ。EC(電子商取引)の決済プラットフォームという、新たな破壊的ジャンル企業の発掘だ。「時代の変革者」を発掘するというARKの哲学は、25年も一切ぶれることがなかったと言えよう。
ARKのポートフォリオの特徴は、テスラを筆頭とした「破壊的イノベーション」銘柄への重点投資を継続する一方、値動きの激しいグロース銘柄への投資を主体としているため、相場状況を先取りした機敏な銘柄入れ替えを実行している点にある。
2025年のARKのポートフォリオでは、第1四半期から第2四半期にモデルナ<MRNA>などのヘルスケア企業を完全売却する一方、ロケット・ラブ<RKLB>、クレイトス・ディフェンス&セキュリティ・ソリューションズ<KTOS>、エアロバイロンメント<AVAV>などの宇宙関連銘柄を新規に購入。さらに年間を通してサークル・インターネット・グループ<CRCL>、イートロ・グループ<ETOR>などの暗号資産、フィンテック関連の銘柄への新規資金投入が目立った。「破壊的イノベーション」を生み出す企業を探して、頻繁に資金の移動を行っていることがARKのポートフォリオ動向の特徴なのだ。
◆「AIバブル論」は完全否定、ウッドが描く未来は実現するのか
キャシー・ウッドの投資戦略に従うことは、常に「ジェットコースター」に乗ることを意味する。2025年、ARKが運用する「ARK Innovation ETF(ARKK)」は35%を超えるリターンを記録し、S&P500を大きく上回った。しかし、この輝かしい実績の背後には、凄まじい価格変動があることを忘れてはならない。
2026年後半に向けた最大のリスクは、金利の動向と「AIへの期待値」の乖離だ。ウッドは、テクノロジーによる生産性向上は「デフレ(物価下落)」をもたらし、結果として金利は低下せざるを得ないと主張し続けている。この予測が的中すれば、彼女のポートフォリオはさらなる追い風を受けることになるだろう。しかし、インフレが粘り強く残り、高金利が定着する場合、将来の利益を先取りして買われているARKの銘柄群は、再び厳しい調整を迫られる可能性がある。
また、彼女が否定し続ける「AIバブル」の懸念も無視できない。2026年、AIはもはや物珍しい技術ではなくなり、市場は「夢」ではなく「具体的な収益への寄与」を厳格に求め始めている。ARKが保有する中小型のハイテク企業が、大手テック企業の攻勢を退けて独自のエコシステムを構築できるかどうかが、これからの選別局面の鍵となる。
本連載では、四半期ごとのARKのポートフォリオの変化と、そこに表れるウッドの相場観を紐解いていく。個人投資家にとって、ARKのポートフォリオは、「5年後の世界」を覗き見るためのスコープと言える。彼女の激しい売買に一喜一憂するのではなく、彼女が描く「技術の収束」という大局観を捉え、ウッドが体現する「未来への願望」を、いかに自分の投資戦略に当てはめていくかが重要になるだろう。
株探ニュース