近付く世界金融危機の足音、されど米国株には絶好の買い場か<村松一之・米国株投資の羅針盤>
◆24年ぶりの高金利も米主要株価指数は最高値を更新
2026年の世界経済は、イラン戦争の長期化、原油価格の高騰、インフレの高止まり、各国の利上げサイクル開始、そして世界的な長期金利の上昇という厳しい環境に置かれている。通常であれば、これだけの悪材料が重なれば、世界経済が大きく減速しても不思議ではない。しかし、現状では世界経済は底堅く推移している。
とりわけ、米国経済は好調さが目立つ。ISM製造業、非製造業景況感指数はいずれも50を上回り、米国企業経営者のマインドも比較的良好だ。労働市場では、企業が積極的な採用を控える一方、大規模な解雇も広がらない「No Hire, No Fire(雇わない・解雇しない)」の状況が続いている。非農業部門雇用者数の増加幅は3カ月平均で5万1000人まで低下しているものの、移民の減少や高齢化を踏まえれば、数万人程度の雇用増加が現在の米国経済の新常態なのだろう。
何より強いのが企業業績である。S&P500種株価指数構成企業のEPS(1株当たり純利益)は23年4-6月期を底に回復し、26年4-6月期には前年同期比で約5割の成長を達成した。これから始まる7-9月期の決算発表でも、約3割の増益が期待されている。これほど不透明な経済環境にもかかわらず、米国企業の業績見通しが足もとでも上方修正されてきたことには驚かされる。株式市場でも、10月に入ってS&P500指数、 ナスダック総合指数、ナスダック100などがいずれも史上最高値を更新している。
ただし、この先の環境変化には注意が必要だ。世界的に中央銀行が金融引き締めを進めている。米国は9月に利上げに踏み切り、市場では今後1年間に追加で3回の利上げが織り込まれている。日本と欧州は年初から、それぞれ2回、オーストラリアはすでに4回の利上げを実施した。政策金利の引き上げによって短期金利が上昇する一方、夏場以降は世界的に長期金利の上昇も加速している。米国10年国債利回りは10月に一時5.36%と、2002年以来24年ぶりの高水準に達し、世界の主要国でも4%を超えるケースが目立つ。金利上昇が経済に及ぼす影響にはタイムラグがある。こうした厳しい金融環境に米国経済が耐えられたとしても、新興国やプライベートクレジットなど金融システムの脆弱な分野では、今後何らかのショックが発生する可能性がある。
◆金利高と好調な企業業績、1990年代半ばと現在の共通点
私は、現在の世界経済と金融市場は、1990年代半ばから後半にかけての状況と似てきたのではないかと考えている。90年代の米国経済は、冷戦終結による平和の配当、財政再建とインフレの安定、企業の経営効率化とグローバル化など、複数の好条件に支えられて長期的な景気拡大を実現した。その中でFRB(米連邦準備制度理事会)は94年2月から金融引き締めを開始し、95年2月までにフェデラルファンド(FF)金利を3%から6%へと引き上げた。かなり急速な利上げであり、米国10年国債利回りも一時8%台に達した。それでも米国経済は崩れず、90年代後半にはIT革命による生産性向上と設備投資の拡大によって、むしろ成長が加速していった。
ところが、米国の高金利と95年以降のドル高基調は、新興国の金融システムに大きな圧力を加えた。94年末にはメキシコで通貨危機が発生。97年7月にはタイ・バーツ危機が起こり、インドネシア、韓国などへ波及してアジア通貨危機へと発展した。さらに98年8月にはロシアが債務支払い停止に追い込まれ、翌9月にはロシア危機の影響を受けて、米国の巨大ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)が破綻に陥り、米国金融システム全体への波及が警戒された。
わずか数年間に、これだけの金融危機が連鎖したのである。もちろん、原因が米国の高金利だけだったわけではない。各国には過剰債務、ドル建て借り入れへの依存、固定的な為替制度、不動産投資の過熱など、それぞれ固有の構造問題が存在していた。しかし、米国の高金利とドル高が、それまで隠れていた新興国の脆弱性を表面化させる重要な外部環境となったことは確かだ。金利は経済の根幹であり、低金利の時代には見えにくかった歪みを、高金利があぶり出すのである。
注目すべきなのは、こうした危機が相次いでも、米国経済が高成長を維持したことだ。IMF(国際通貨基金)によると、98年の世界の実質GDP成長率は前年の4.2%から2.5%へと大きく減速した一方、米国は97年の4.4%に続き、98年は4.5%、99年も4.8%と、3年連続で4%を超える成長を実現した。海外の金融危機にもかかわらず、米国内では堅調な個人消費と設備投資が景気を支え、景気後退に陥ることはなかったのである。これは重要だ。
株式市場でも、米国の強さは際立っていた。S&P500指数は95年から99年まで5年連続で上昇し、年間騰落率の単純平均は約26%に達した。アジア通貨危機が発生した97年には約31%、ロシア危機とLTCM危機に揺れた98年にも約27%上昇している。ハイテク株中心のナスダック総合指数はさらに好調で、95年から99年の5年間に約5.4倍となった。世界各地で金融危機が相次ぐ一方、米国株は歴史的な上昇相場を形成したのである。
◆「不均衡な中での米国一強」が生まれた1990年代後半
もちろん、この上昇は最終的にドットコムバブルへと発展した。したがって、米国株が強かったことと、その株価が常に適正だったことは区別しなければならない。それでも、1990年代後半の経験は、世界経済の悪化と米国株の上昇が必ずしも矛盾しないことを示している。
さらに重要なのが、98年のFRBの対応だ。ロシア危機とLTCMの破綻によって金融市場が混乱すると、FRBは9月から11月にかけて3回、合計0.75%の予防的な利下げを実施した。当時、米国経済は好調だったが、海外の金融危機や市場の混乱が国内経済へ波及することを防ぐため、金融緩和に踏み切ったのである。この対応は、現在のウォーシュ議長率いるFRBにとっても参考になるだろう。
米国長期金利にも大きな動きがあった。95年から99年の米国10年国債利回りの平均は約6%であったが、98年には一時は4%台前半まで低下した。海外の金融危機に伴う投資家の安全資産需要と、FRBの金融緩和が米国長期金利の低下を促したのだ。その結果、株式市場の回復を支える要因にもなった。世界の金融不安が米国債への資金流入を促し、金利を低下させることで、好調な企業業績を背景とする米国株を支える。1990年代後半には、こうした「不均衡な中での米国一強」の構図が見られたのである。
そして、現在も同じような構図が生まれつつあるように思える。IMFは2025年頃から、世界経済に潜む金融市場のリスクについて繰り返し警鐘を鳴らしてきた。具体的には、財政赤字の拡大による国債市場への圧力、新興国からの資本流出、ヘッジファンドなどのレバレッジ解消、プライベートクレジット市場の信用問題、AI(人工知能)関連株への投資集中などである。足もとの状況を見ると、こうしたリスクのいくつかはすでに顕在化し始めているように見える。重要なのは、IMFが景気後退の可能性だけでなく、世界経済に蓄積された様々な歪みが金融ショックにつながる危険性を指摘していることだ。
私の問題意識もこれに近い。米国ではAI革命を背景に企業業績が高成長を続け、経済の相対的な強さが際立っている。一方、世界的な高金利環境は、新興国、不動産、低格付け企業、ノンバンク金融機関などに圧力を加えている。今後、こうした脆弱な分野から問題が発生することは十分考えられる。
◆短期的なショックはむしろ絶好の買い場となる可能性も
しかし、それが直ちに米国経済の景気後退や米国株の長期的な弱気相場につながるとは限らない。短期的な市場の混乱は避けられなくても、企業業績が強さを維持し、安全資産への需要によって米国長期金利が低下すれば、米国株にとってはむしろ好ましい金融環境が生まれる可能性がある。その結果、世界的な不安定化の中で、米国への資金集中が一段と強まるかもしれない。まさに1990年代の状況の再現である。
ただし、90年代と現在では重要な違いもある。現在はインフレ圧力が強く、米国の財政赤字や国債発行額も大きい。そのため、金融ショックが起きれば必ず米国金利が低下するとも、FRBが速やかに利下げできるとも限らない。それでも、90年代の教訓は意味を持つ。
米国株式投資を行う上では、高金利が引き起こす歪みを「炭鉱のカナリア」として、しっかりとチェックしていくことが重要だ。その脆弱性が顕在化したとして、それが米国国内の問題なのか、海外の問題なのかを見極め、そのリスクが引き起こすマネーフローの変化に注意する必要があるだろう。ただし、歴史の教訓は米国企業業績が好調を維持する地合いが崩れなければ、短期的なショックはむしろ買い場になるということだ。「世界経済リスク=株価下落」という一般的な視点ではなく、「世界経済リスク=米国一強」という構図も念頭に置いておきたい。
【著者】
村松一之(むらまつ・かずゆき)
和キャピタル取締役運用本部部長/フォーライクス代表
1973年生まれ、慶應義塾大学卒業後、1996年静岡銀行入行。支店勤務を経て、資金証券部に配属。その後、米ニューヨーク支店勤務など主に市場関連業務に従事。2017年8月、和キャピタルに入社、21年3月より現職。テレビ東京「Newsモーニングサテライト」でレギュラーコメンテーターを務めるほか、各メディアで市場分析のプロとしてのオピニオンを展開中。
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