FOMCとアンソロピック上場、それでも狙うはAIツルハシ銘柄<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
◆9月相場は「株価と金利のシーソーゲーム」
足もとの米株式市場は金利感応度が極めて高い状態が続いている。ジャクソンホール会議でウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長が9月利上げの可能性を示唆する発言をした8月28日(現地時間、以下同)、主要3指数はそろって下落。ウォラー理事がインフレ鈍化を条件に金利据え置きを支持するという発言をした9月3日には主要指数は軒並み上昇。先週末の雇用統計で市場予想を上回る堅調さが示されると、再び下落している。少しでも金利の先高観が強まれば株価は下落し、弱まれば株価は上昇する。まさに金利と株価のシーソーゲームといった様相だ。
今後は9月11日の8月米CPI(消費者物価指数)発表を経て、15日から開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)を迎えることになる。「CMEフェドウォッチ」によると、現時点(9月7日)での利上げと金利据え置きの予測はざっくり6対4となっているが、要人の発言や各種指標の結果次第で日々、予測は動いており、どちらに転んでもおかしくはない。いずれにせよ、FOMCを通過するまでは、株式市場が金利動向に左右される局面が続く。言うまでもなく、利上げは全体相場の下押し圧力となる。
だが、その先の相場展開を占うためには、やはり企業業績に視点を移すべきだろう。まず、AI(人工知能)相場の持続性を測るうえでも注目された8月26日のエヌビディア<NVDA>の2027年1月期第2四半期決算を振り返りたい。ひと言で表現すれば、今回の決算では、エヌビディアの"光と影"が映し出されたのではないだろうか。
光の部分は圧倒的な好業績により、同社のAI半導体需要の高さが改めて証明されたことだ。第2四半期の売上高、営業利益はともに市場予想をはるかに上回り、粗利益率も75%と引き続き高い水準を維持。さらに今回は来期、28年1月期の業績予想にもあえて言及し、市場予想の45%増を大きく上回る70%増の売上高となる見込みを示した。
なぜ、この時期に来期の業績予想を発表したのか。アナリストの問いに同社のジェンスン・フアンCEO(最高経営責任者)は、受注状況が明確になっていることを理由として挙げ、さらに顧客の多角化が進んでいることを説明した。それによると、ハイパースケーラー向け以外の顧客、同社のセグメントでは「ACIE」部門(AIクラウド事業者、産業界、企業向けのデータセンター部門)の顧客のシェアがデータセンター売上高の45%を占め、売上高成長率が138%に達しているという。ハイパースケーラー向けの成長率が102%ということなので、その成長率の高さが分かる。同社に対しては、巨額投資を競い合うハイパースケーラーに依存し過ぎているのではないかという懸念もあったが、フアンCEOはその懸念に対し、実績を示しながら、見通しが非常に明るいことを伝えた。この結果を受け、翌日の同社の株価は決算発表後としては久々に上昇している。
一方、影の部分は、DRAM価格高騰による製造原価の上昇、急速に量産化を進める最新AI半導体「ベラ・ルービン」の初期製造コストの増加などにより、今後、粗利益率が低下する見通しを示したことだ。エヌビディア側は、コスト上昇対策として、価格転嫁を進めているとのことだが、75%前後という、これまでのような驚異的な水準の粗利益率を維持することは難しいことを認めている。今後、同社の高水準の利益率に慣れてしまった市場が、こうした利益率の変化をどう受け止めるかが焦点となるだろう。
◆社債金利上昇はデフォルト・リスクではなく、企業の成長性を織り込んだ結果
エヌビディア以外では、8月26日のセールスフォース<CRM>と、9月1日のデル・テクノロジーズ<DELL>の決算発表に市場の関心が集まった。いずれも市場予想を大きく上回る内容で、その後の株価上昇につながっている。セールスフォースに関しては、「SaaSの死」で大きく売り込まれたが、結局、顧客データを抱えている企業は強いということに尽きる。米アンソロピックとの提携拡大も伝えられ、AIをサービスに取り込むことはあっても、そう簡単にAIに代替されるようなことはないということを証明している。
デルは年初来、株価がすでに4倍超となり、マグニフィセント・セブンよりはるかに高いパフォーマンスを上げている。エヌビディアのフアンCEOの説明にもあるとおり、サーバー需要がハイパースケーラー以外の法人向けにも拡大しており、その恩恵をダイレクトに受けている。
両社の好決算を見ても分かるとおり、AIの進化は着実に各企業の業績に寄与し始めている。ウォーシュ議長も、先のジャクソンホール会議では、「AIによる収益性の向上」が着実に進んでいるかを注視していると繰り返し述べた。とはいえ、やはり今後のAI相場を占う意味では、二つの条件をクリアすることが課題となる。一つは言うまでもなく、金利の上昇。そしてもう一つはいわゆるAIバブル論、循環投資と指摘されるエヌビディアのファイナンスなどに代表されるAIの過剰投資への懸念の払拭だ。この二つはいまや、テールリスクとして米国株市場に定着していると言っていい。
循環投資に関しては、エヌビディアがゴールドマン・サックス・グループ<GS>やブラックロック<BLK>などと組んだ5000億ドル規模の資金調達スキーム、いわゆるAIファイナンスが一定の回答になると筆者は考えていた。エヌビディアによるAI関連企業への直接投資の仕組みを、大手金融機関へと広げたことで透明性を高め、同社の信用リスクを低減できると考えたからだ。
だが、市場の反応を見ると、必ずしもそのとおりにはなっていない。一時は米国債より安全とさえ言われていたエヌビディアの5年物CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)は過去最高水準にまで上昇し、市場が同社の投資スキームに対して警戒感を強めていることをうかがわせている。
だが、ここで興味深い指摘がJPモルガン・チェース<JPM>からなされている。通常、企業債券はデフォルト・リスクが高まれば金利が上昇し、低くなれば下落する。しかし現在の状況は、AIによる生産性の劇的な向上によって、金利上昇が促されているというのだ。本来、逆相関と言われる株価と金利だが、社債の発行体である企業の成長が金利に織り込まれ、株価と同様の動きをしているという。債券のインフレと言えるかもしれない。この業界に長年籍を置く筆者でもあまり経験したことのないことだが、ハイパースケーラーたちが次々と金利の高い社債を発行している根拠としては、合点がいく気がする。
◆すでにオラクル並みの売上高、アンソロピック上場が市場にもたらす影響
いずれにしてもこの秋相場は、金利の先高観とAIバブル論が交錯する展開になるだろう。金利動向については、まずはFOMCの結果を待つほかないが、それ以前に世界的なインフレの要因となっているイラン情勢の動向に大きく影響されることは言うまでもない。今月下旬の米中首脳会談を経て、11月の米国中間選挙へ向けて、これまで外交成果が乏しいトランプ政権がどのような動きをするだろうか。中東の緊張が緩和するならば原油価格の下落によって金利の先高観は薄まるが、もし混乱に拍車がかかるようならメモリー半導体価格の上昇、いわゆるチップフレーションも相まって、インフレ圧力が高まり、金利の先高観も増していく。現時点での予測は難しいが、秋相場最大の不透明要素であることは確かだ。
そうした中で、株式市場にとってはこの秋の最大の注目案件、アンソロピックの上場を迎える。当初、9月中の上場も取り沙汰されたが、スケジュールが後ずれし、早ければ10月中の上場が伝えられている。米メディアの報道によると、想定時価総額は2兆ドル、今回のIPO(新規株式公開)で600億ドルの資金を調達するという。これがマーケットにどのような影響を与えるのか。端的に言えば、巨額の資金が再び株式市場から吸収されるということだ。
超大型IPO案件が巨額資金を吸収し、需給に"ゆがみ"をもたらすのではないか。こうした懸念は、6月のスペースX<SPCX>上場時にも指摘されていたことだが、この時は市場全体に及ぼす影響はそれほど大きくなく、懸念されたような事態とはならなかった。だが、同程度、場合によってはそれ以上の規模になるIPOが繰り返される今回はどうだろうか。アンソロピックへの資金流入によって、割を食う銘柄も出てくるかもしれない。
もう一つは、AIバブル論の大きな根拠となっていた循環投資の内実が可視化されるかもしれないということだ。端的に述べれば、現在のAI投資ブームの資金循環のゴールが、アンソロピックや米オープンAIなどのAIモデル開発企業に向けられていることは間違いない。循環投資の構図の中心に位置する企業の資金の流れが、上場による財務資料の公開によって明らかになるのではないか。いま、そうした見方が一部の市場関係者の間で囁かれている。財務の健全性が証明されれば、市場には安心感が広まるだろうが、証明されなければ来年に予定されるオープンAIの上場を含め、改めてAIバブルの議論が蒸し返されることになるだろう。
とはいえ、現時点で伝えられているアンソロピックの業績は、すでに尋常ではないレベルに達している。25年末段階で90億ドルだった売上高は、26年7月時点のランレート(年間換算売上高)で650億ドルに達する見込みだという。この数字は、ハイパースケーラーの一角を占めるオラクル<ORCL>と同水準。大手ハイテク企業が創業以来、50年近くかけて積み上げてきた実績を、上場前の企業が達成してしまったことになる。
そもそも、AIバブル論に代表されるAIに対する様々な疑念は、突き詰めれば「AIは実際に収益を上げることができるのか」という点に集約される。であるとするならば、AI開発のスタートアップ企業がこれほどの驚異的なスピードで成長し、収益を上げていることは、その明快な回答になるのではないか。
◆金利上昇局面では大手金融株に投資妙味、だがAI銘柄にも格好の買い場を提供か
AI投資の拡大と金利の先高観が併存していく秋相場だが、そうした中で資金をどの銘柄に振り向けていくべきなのか。最後にいくつか具体的な銘柄名を挙げておきたい。これはキオクシアホールディングス <285A> の元エンジニアに聞いた話なのだが、AIデータセンターのサーバーに備え付けられるエヌビディアの最先端AI半導体は、計算処理能力が高い分、とにかく電力の消費量も桁外れになるとのことだ。例えば、出荷が始まった最新GPU(画像処理半導体)「ベラ・ルービン」は、電力効率も改善されているが、それ以上に性能が飛躍的に向上しているため、ひと世代前の「ブラックウェル」と比べると電力消費が2倍近くになるという。
つまり、AI半導体が進化すればするほど、電力がボトルネックとなる状況は続いていくのだ。電力関連では、GEベルノバ<GEV>、キャタピラー<CAT>といった発電機メーカーが筆頭格として挙げられるが、それ以外にも日本の投資家の間では知名度がそれほど高くない有力企業がいくつか存在する。世界最大級の電力管理会社、イートン<ETN>や、北米を中心に送電網や発電所などのインフラ建設を手がけるクアンタ・サービシーズ<PWR>、140年に迫る歴史を有する老舗・電設機器メーカー、ハベル<HUBB>などだ。いずれも金利の先高観や原材料費高騰の影響を受けて、足もとでは株価が調整しているが、売上高は順調に拡大しており、当面、その成長が止まることはないだろう。
同様に重要な役割を担うのが冷却機器やシステムを提供する企業だ。AIデータセンターのエネルギー消費量が大きくなればなるほど、大量の熱が放出されるからだ。この分野では、世界最大手のデータセンター向け冷却システム提供企業、バーティブ・ホールディングス<VRT>を挙げたい。さらにAIデータセンター内の通信高速化を図る企業として、光工学分野の世界最大手企業、コヒレント<COHR>、AIサーバー内の高速通信用銅線のクレド・テクノロジー・グループ・ホールディング<CRDO>、高速通信用半導体のアステラ・ラブス<ALAB>なども、AIのボトルネック解消に不可欠な存在として注目している。
ここまで銘柄を挙げていくと、金利の先高観も強まり、AI銘柄以外のセクターへの資金ローテーションが始まっていると言われる中で、なぜ改めて、AI周辺のいわばツルハシ銘柄に着目するのかと思われる方もいるかもしれない。だが、数ある米国企業の中で、金利上昇を乗り越えるような成長力を持っている企業は、AI関連以外には見当たらないというのが正直な感覚だ。
FOMCの結果次第では、AI関連企業に一時的に逆風が吹くかもしれない。米10年債利回りがもし、5%を超えるようなら、ここに挙げたような銘柄も含めて、AI関連銘柄の株価も大きく調整するだろう。その時は一時的に業績好調の大手金融株に資金を投入するのが得策だ。JPモルガン・チェース、ゴールドマン・サックス・グループ、ビザ<V>、マスターカード<MA>といった企業だ。だが同時に、そうした局面になったとしたら、株価が下落したAI関連銘柄は格好の買い場になるのではないか。先のキオクシアの元エンジニアが語っていたことでもあるが、エヌビディアのフアンCEOが描くようなAI社会実現へ向けて各企業に求められる役割は、まだまだ拡大途上。中長期的にこれらの企業の成長余地は大きいと考えるからだ。
【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。
株探ニュース