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決算で再評価が濃厚、4つのソフトウエア銘柄に刮目せよ<小川浩一郎・米国株"上昇のナラティブ">

特集
2026年7月24日 13時00分

◆韓国発、AI・半導体相場の変調が意味するもの

この1カ月、AI(人工知能)・半導体関連企業の株価の乱調が続いている。特に震源と言われている韓国KOSPI市場の変調は顕著で、6月19日に付けた高値、9385ポイントから一時は30%超下落。足もとで株価は反転しているものの、指数の株価変動の約7割をサムスン電子やSKハイニックス<SKHY>の2大メモリー半導体メーカーに連動したレバレッジ型ETF(上場投資信託)が占めていると言われるいびつな状況となっている。

こうした相場変調の中で、今回の決算シーズンの先陣を切って発表されたASMLホールディング<ASML>と台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>の2026年12月期第2四半期(4-6月期)決算。両社とも市場予想を上回る業績だったが、直後の株価の反応は芳しくなかった。この結果を見て、「やはりAI・半導体相場は終わったのか」という悲観的な見方も報じられたが、これは毎度のことで心配をすることはない。なぜなら、両社とも決算前に好材料が株価に織り込まれやすいという特徴を持っているからだ。

ASMLは顧客企業が限られていて、受注動向を推測しやすいし、TSMCは売り上げ動向を毎月発表している。よほどのサプライズがなければ、決算後は材料出尽くしで売られ、しばらくすると株価が復調していく、というサイクルを繰り返している。

さらに各社の株価チャートを比較すると、別の側面が見えてくる。高値から半値まで下落したキオクシアホールディングス <285A> を筆頭に、サムスンやSKハイニックスなど、アジアのメモリー半導体メーカーの株価は一時、50日移動平均線を大きく割り込み、100日線割れも視野に入るまで売られてしまった。だが、唯一の米企業であるマイクロン・テクノロジー<MU>の株価は50日線を下支えに、比較的しっかりとした値動きをしている。

これが何を意味するのか。少々、乱暴な表現になってしまうかもしれないが、要するに多くの米国人投資家にとって、アジア市場は"鉄火場(賭博が行われる場)"に過ぎないということだ。実際、エヌビディア<NVDA>やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ<AMD>など、米国市場に上場する半導体メーカーの株価は、それほど下落はしていない。

株価の形成要因はファンダメンタルズが6割、需給が4割だと言われるが、今回のアジア市場を中心とした下落局面は、4月以降、鉄火場に流入していた短期資金、言い換えれば需給の部分のみが吹き飛んだ、ということなのだ。ファンダメンタルズには何ら不安はない。つまり、中長期で投資をするなら、上昇相場が終わったどころか、格好の買い場となっている可能性が高い。

◆メモリー半導体はコモディティ製品から戦略物資へ

なぜ、そうしたことが言えるのか。それは、メモリー半導体メーカー、特に特定の企業の寡占状態にあるDRAMメーカーに対するマーケットの見方が変化していくと考えるからだ。現在、世界のDRAM大手メーカーは、韓国の2社とマイクロンのみ。この3社がHBM(広帯域メモリー)の生産をほぼ独占、寡占状態を維持しているのだ。

メモリー半導体はこれまで、スマートフォンやパソコンなどの端末の新製品発売のサイクル、いわゆるシリコンサイクルに左右され、好況と不況を繰り返す典型的な「シクリカル・セクター」だと見なされてきた。今年に入って、いくら株価が上昇したと言っても、依然として予想PER(株価収益率)が10倍以下という割安水準にあるのは、この見方を払拭できていないからだ。

ところが、DRAM製造の応用技術で生み出されたHBMは、今ではAI半導体に欠かせない"戦略物資"と目されるようになってきている。コモディティ製品だと見なされてきたメモリー半導体が、そのポジションを大きく変えてきたのだ。そしてこの意味を理解する顧客企業は、需給のひっ迫を受け、メモリー半導体メーカー各社との長期契約を締結するようになってきている。

長期契約が増えれば、当然のことながら将来の業績見通しもよりクリアになる。市況が良い時は売れるが、悪化すれば途端に売れなくなるというメモリー半導体特有のリスクがなくなれば、割安に放置されていたPERが拡大する余地が生まれるはずだ。特に米国企業のマイクロンや、韓国企業であってもガバナンスに問題がないと言われるSKハイニックスは、今が買い場と言っていい。

同じメモリー半導体でも、NANDメーカーは少々、事情が異なるかもしれない。なぜなら、キオクシアやサンディスク<SNDK>などの専業メーカーの業績が急拡大したのは、メモリー大手の3社がHBMに事業リソースを集中させたからだ。つまり、現在の好業績は、"漁夫の利"を得たに過ぎない。しかも大手3社以外にも、台湾や中国などに競合企業が多く、寡占市場とは言えない。あくまでもAI半導体の本命は、メモリー半導体ではHBMなのだ。

唯一のリスクシナリオは、中国メーカーの台頭だ。技術的な面では、世界的な大手メーカーをキャッチアップするまでには至っていないようだが、DRAMメモリーなら長シン存儲技術(CXMT)、NANDメモリーなら長江存儲科技(YMTC)がそれぞれ、徐々に市場シェアを伸ばしている。

かつて、家電などの製造業では、韓国と中国メーカーが、目先の利益を度外視した増産によって他国メーカーのシェアを奪い、結果として製品のコモディティ化が進行した。同様の流れが、メモリー半導体でも進むのではないかという危惧が、米国の投資家の間で囁かれ始めているのだ。

最先端技術が詰め込まれたGPU(画像処理半導体)やCPU(中央演算処理装置)、HBMなどは、容易には真似ができないだろう。だが、それらに比べれば技術的なハードルが低いDRAMやNANDメモリーは、国策支援を受けた中国メーカーと韓国メーカーが本気で開発・販売競争を繰り広げれば、現在のような高い利益率を維持することができなくなる可能性も排除できない。メモリー半導体メーカーにとって、最大の不透明要因と言えなくもない。

◆FRB、中間選挙……、今後の米国市場の展望は?

では次に、年後半の米国株市場を展望してみたい。やはり、避けて通れないのがFRB(米連邦準備制度理事会)の金融政策だ。ウォーシュ新議長による上下両院の議会証言も無事通過、議長自身は物価安定への決意とFRBの独立性維持を口にしている。そうした姿勢を反映してか、現時点では年内の利上げ観測が優勢だが、果たしてそうだろうか。

トランプ米大統領は、今のところウォーシュ氏への発言を抑えているように見えるが、中間選挙を控え、今後はやはり利下げ圧力を強めていくだろう。実際、CPI(米消費者物価指数)やPPI(米生産者物価指数)など、直近の経済指標は仕組まれたように、きれいに下がってきている。

さらに日本人には実感しづらい部分だが、米国ではAIによる生産性革命が凄まじいスピードで進展していて、金融業界やIT業界を中心に大規模なリストラが実施されている。ウォーシュ氏の持論でもある、AIによるインフレ抑制効果が表れるとともに、雇用情勢には不透明感が増しているのだ。したがって、年内利下げとまではいかなくとも、少なくとも中間選挙前のある段階で、FRBがハト派的なメッセージを打ち出すと見るのが妥当だ。もし、FRBがこうした姿勢に転換すれば、言うまでもなく株式市場にとってはアドバンテージとなる。

その後に迎える中間選挙では、下院は民主党優勢が伝えられている。もし共和党が敗北すればトランプ政権のレームダック(死に体)化が進むことになるが、これも株式市場にとっては悲観すべきことではない。何と言っても、議会がねじれてしまえば、相互関税やイラン攻撃のようなトランプ大統領の暴挙は許されなくなるはずだ。

◆第2四半期決算では「SaaSの死」で売られ過ぎた銘柄に注目

そうした状況下で、これから本格化を迎える米国企業の26年第2四半期(4-6月期)決算。今回の決算の最大の注目ポイントは、ハイパースケーラーのデータセンター投資の進捗状況にあることは間違いない。今後の投資計画はもちろん、資金調達の方法や収益への具体的な寄与度などを、市場が客観的に点検していく舞台となる。

ベースシナリオは、決算内容に安心感が広がり、AI関連を始めとしたハイテク銘柄全般がジリ高となっていくといった流れだ。一方、高水準のデータセンター投資が維持されつつも収益寄与が明確に示されれば、株価が急騰していくというシナリオも考えられる。反対にそれが示されなかった場合には、市場の失望を招き、本格的な調整局面に突入する可能性もあるだろう。

個別企業で最も注目すべきなのは、7月29日(現地時間)に発表されるマイクロソフト<MSFT>の26年6月期決算だ。ここで同社が、市場の懸念を打ち消すようなしっかりとした内容の決算を発表できれば、この半年間、市場を覆っていた「SaaSの死」の懸念を吹き飛ばすことができるはずだ。今年に入ってから全体的に上値が重いマグニフィセント・セブンの中でも、同社はバリュエーション的にも「売られ過ぎ」の水準にある。決算を通して、株価が再点火する可能性のある筆頭候補だと捉えている。

ソフトウエア関連企業では、今回の決算では、AI実装による業績へのインパクトに注視したい。AIが業績の追い風となっているのか、それとも脅威なのか。この半年、総じて市場から低い評価を受けてきたこのセクターには、今回の決算を契機に株価の割安感が証明され、急反発を期待できる企業も少なくない。

コロナ禍前に米系証券会社が提唱した「CATWMN(キャットウーマン)」という概念がある。FANGやGAFAMに続く概念として、高い成長期待が持てるクラウド・SaaS企業をピックアップしたもので、セールスフォース<CRM>、アドビ<ADBE>、トゥイリオ<TWLO>、ワークデイ<WDAY>、マイクロソフト、サービスナウ<NOW>の各社の頭文字を取って命名されたものだ。

この「CATWMN」の中にも、マイクロソフト以外に再評価が濃厚な企業がいくつかある。中でも、企業の業務にAIを組み込む、いわゆるエージェント(自律型)AIの分野では、その兆しが顕著に表れつつある。真っ先に挙げられるのが、7月22日に決算が発表され、堅調な業績を示したサービスナウだ。同社は市場関係者が口を揃えてサービスの内容を高く評価する優良企業だが、「SaaSの死」の影響で必要以上に大きく売り込まれてしまっていた。再評価は必然だろう。

エージェントAIではもう1社、クラウド上で企業向けにアプリケーションサービスを展開しているトゥイリオにも注目したい。4月以降、すでに株価は動意づいているが、市場ではエージェントAIの中核を担う企業と目され、AIの追い風を受けるソフトウエア企業の代表格と言える。8月6日に発表される同社の決算では、事業へのAI効果を具体的に確認したい。

半導体なら、7月29日に26年4-6月期決算発表を迎えるクアルコム<QCOM>も面白い。同社は、この数年間のAI相場の中で、依然として光を浴びていない唯一の大手半導体メーカーと言っていい。なぜなら、同社の主力、通信半導体はアップル<AAPL>依存度が高く、AI開発のメインストリームから外れたポジションにいると目されていたからだ。

だが、CPUのインテル<INTC>が一気に脚光を浴びたように、そろそろ順番が回ってきてもいいタイミングだ。特にエッジAIやフィジカルAIの時代になれば、端末の中で能力を発揮する同社の半導体は、その持ち味を生かせるはずだ。最後に残った"未発見のAI半導体銘柄"と言っていいかもしれない。

◆米国株23時間取引開始によって何が変わるのか

今回は最後にもう一つ、今年の12月6日(現地時間)に開始される米国株の23時間取引にも簡単に触れておきたい。現在、SKハイニックスに続いて、サムスン電子やキオクシアの米国ADR市場上場が取り沙汰されている。なぜ、これらの企業が米国市場を目指すのか。いくつかの理由があるが、株価の面で言えば、バリュエーションの拡大に尽きるだろう。

野球の世界では、MLB(米メジャーリーグ)に移籍すれば年俸が大幅に上がる。だから一流選手はみな、MLBを目指す。株式の世界でも同様だが、23時間取引開始によって、この流れに拍車がかかるのではないだろうか。

今後は、世界で勝負できる自信を持つ一流企業は、みな米国市場への上場を目指す。企業の立場になれば、世界中の投資家が集まる米国市場に上場すれば、株価のみならず、世界的な知名度の向上やグローバル人材の採用効果など、そのメリットは計り知れない。結果として、各国それぞれの会計ルールなどを含めて、世界の市場が統一されていく。

23時間取引は、当面は米国株の一部だけ、大手ハイテク企業などの超大型株、数十銘柄に限定されるようだが、順調にいけば、取り扱い銘柄も順次、拡大していくだろう。懸念点として挙げられているのは、現在のPTS(私設取引所)市場の時間外取引のように、市場参加者が限られ、流動性が低くなるのではないかということだが、現在の日本人の米国株への関心の高まりを考えれば、それは杞憂だろう。

いずれにせよ、私たち日本人投資家にとっては、米国株の売買がこれまで以上に簡単にできるようになる。さらに韓国企業や欧州企業を含めて世界の一流企業が米国市場に上場すれば、魅力的な投資対象も増えていく。筆者はその時のためにも、個人投資家一人ひとりがこれまで以上に米国株への関心を高め、知識を深められるよう、情報提供の質を高めていきたいと考えている。

【著者】

小川浩一郎(おがわ・こういちろう)

岩井コスモ証券投資調査部長/チーフアナリスト

1967年生まれ。外資系コンサルティング会社で戦略立案、M&Aアドバイザリー等に従事した後、投資ファンドで投資実務や資産運用に携わり、2006年、岩井コスモ証券に入社。現在は米国株式を中心に外国株式に関する業務全般を担当。テレビ東京「Newsモーニング・サテライト」、インターネット配信「ストックボイス」等に随時、出演。長年の市場分析経験を生かしたストーリー性のある銘柄・セクター分析に定評がある。社団法人・日本証券アナリスト協会検定会員、米国公認会計士・米国証券アナリスト・有資格者。

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