急騰! マイクロソフト、アマゾンに続くAI相場のプラチナチケットは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
◆進む企業の"財務耐久テスト"、AI相場はフェーズ2に移行
米主要企業の2026年4-6月期決算発表が本格化している。各企業の決算内容とその後の市場の反応をひと言で表すと、今回の決算シーズンは「AI(人工知能)企業の"財務耐久テスト"による"選別"の場」と言えるのではないだろうか。ここまでの主要企業の決算を振り返ってみると、まずアルファベット<GOOG>とテスラ<TSLA>が決算を発表した7月22日(現地時間)の翌日、マグニフィセント・セブン(M7)の株価が大暴落した。一日で7社から7970億ドルの資金が流出し、これは25年4月のトランプ関税ショック以来の規模だったという。
営業減益となり、EPS(1株当たり純利益)が市場予想を下回ったテスラはともかくとして、アルファベットの決算は、売上高、営業利益ともに市場予想を上回り、四半期ベースの過去最高を記録するなど決して悪い内容ではなかった。それでもマーケットが売りで応えたのは、以前とは異なり、AI関連企業に対して、何より資本の規律性を求めるようになっているからだろう。事業の成長性が最優先された局面がAI相場の「フェーズ1」であったとするなら、現在は設備投資額を指す「資本的支出(CAPEX)」やフリーキャッシュフロー(FCF)など、資本のバランスが問われる「フェーズ2」の局面を迎えているのだ。
興味深かったのは、アルファベットの決算コメントに対する、あるファンドマネージャーの反応だ。同社はそれまで26年の設備投資額を1800億ドル~1900億ドルと発表していたが、今回、1950億ドル~2050億ドルへと引き上げ、さらに27年も大幅に引き上げる見込みであることを公表した。それに対してこのファンドマネージャーは、「2000億ドルはレッドライン(越えてはいけない一線)だった」というのだ。株価の反応を見る限り、おそらくそれは市場参加者たちの共通認識だったのではないか。
同社の設備投資額が増加していくことは、ある程度予想されていた。だが2000億ドルの大台を超え、さらに来年以降も大幅に増加するとなると、一体、どこまで投資額が膨らんでいくのかという疑念が高まる。しかも営業キャッシュフローから設備投資額を差し引いた四半期のFCFは上場以来初のマイナスに落ち込んでいる。同社のコメントを受け、すでに市場は来期の設備投資額が2700億ドル~2800億ドルほどにまで膨らむのではないかと見込み始めている。アルファベットに対する市場の見方は、「膨らむ設備投資、減るキャッシュ、そして投資回収の遅れ」を懸念していると言える。
一方のテスラは2年ぶりに四半期のFCFがマイナスに転落。イーロン・マスクCEO(最高経営責任者)はAI関連の投資を加速する姿勢を打ち出し、やはり同社の翌日の株価も暴落した。結果としてマーケットは、両社の膨らみ続けるAI投資額に見合うリターンへの確信が持てず、この不安がM7などハイテク銘柄への全面的な売りに波及していった。これが決算シーズン序盤戦の動きだった。
◆クラウド大手2強は市場から合格点、メタは落第
そうした不安心理がマーケットを覆う中で迎えたのが、7月29日のマイクロソフト<MSFT>とメタ・プラットフォームズ<META>、30日のアマゾン・ドット・コム<AMZN>、アップル<AAPL>の決算発表だった。まず、マーケットの不安を打ち消すことができなかったのがメタだ。同社は6月下旬にクラウド事業への進出が伝わると、投資回収にポジティブだと受け止められ、株価が急騰した局面があった。だが今回の決算発表では、今期の設備投資額の下限を引き上げる一方で、決算発表時に今後のクラウド事業の展開やCAPEXの見通しについて問われたにもかかわらず、同社のCFO(最高財務責任者)は明確な答えを返さなかった。投資家としては、投資回収の道筋を示して欲しかったのだが、回答を濁したことでマーケットの失望を呼んでしまったようだ。
対するマイクロソフトは、すでに公表しているCAPEXの水準を据え置きながら、売上高、営業利益、EPSともに市場予想を上回った。特に「アジュール」などのクラウド事業の伸びが顕著で、AI投資の回収が順調に進んでいることを証明した。メタやテスラのように、むやみにAI投資のアクセルを踏まずに、しかも確実に収益化が進んでいる姿がマーケットに好感され、その後の株価急騰につながった。
アマゾンも然りで、今期のCAPEXこそ従来の計画から10%増の2200億ドルに拡大しているが、それ以上にクラウド事業「AWS(アマゾン・ウェブ・サービス)」の伸びが加速している。アンディ・ジャシーCEOによると26年は供給能力いっぱいの顧客の需要があり、27年以降もこの勢いが続く見込みだという。CAPEXの伸びは実際の需要に応じたものであり、投資回収の不安が少ない、というのがこの発言を受けた市場の捉え方で、翌日の株価は15%超上昇した。
各社の決算に対するマーケットの反応を総括すると、やはりAI投資回収へのエビデンス(根拠)を示した企業とそうでない企業の選別が進んだ、ということが言える。この1カ月、M7の中では逆行高となっていたアップルは、皮肉なことに唯一、巨額のAI投資とは無縁でCAPEXの増加がない。アナリストの今期末時点での予想FCFも、M7他社が年初来、悪化する中で同社だけは増加している。資本の規律という面では最も健全だ。今回の決算では、メモリー不足という別の課題があらわになったが、同社だけは他の6社とは異なる基準での投資判断が求められるのかもしれない。
◆顧客との長期契約がAI企業選別の重要なファクター
ともあれ、これまでの決算を通じて、約1カ月続いたAI相場の調整は底打ちの兆しが見えたと言えるのではないか。何と言っても、これまで売られ過ぎだったマイクロソフトや、クラウド最大手のアマゾンの復調は大きい。
ではそうした中、今後はどのような点に着目して、投資判断を行っていくべきなのだろうか。キーワードになるのは「LTA(ロングターム・アグリーメント)」、つまり顧客との長期契約だ。AIへの潜在的な需要はますます膨らんでおり、それを受けた各社の設備投資意欲は依然として旺盛である。したがってFCFがある程度減少するのは必然だが、問題になるのはその先で、「いつまでにどのような手段で投資資金を回収するか」という事業の構造を明示できるかどうかだ。LTAはその端的な指標であり、だからこそ、今後のAI投資を考えるうえでは、重要な要素となるのだ。
アマゾンの決算がマーケットに安心感を与えたのは、ジャシーCEOがLTAに言及し、将来の業績を可視化したからだ。半導体でもSKハイニックス<SKHY>やマイクロン・テクノロジー<MU>が、複数の主要顧客との長期契約締結を発表している。数年先までの受注がほぼ埋まっている台湾積体電路製造(TSMC)<TSM>も同様だし、半導体以外でも、AIデータセンター増設のボトルネックとなる電力供給の分野で、GEベルノバ<GEV>やキャタピラー<CAT>などが、すでに2030年へ向けた長期受注を積み上げている。
◆売られ過ぎ銘柄の本命はやはり"あの企業"
そうした状況を踏まえ、次に今後は具体的にどのような銘柄やセクターに光が当たるのかを考えてみたい。日本では6月まで続いたAI・半導体銘柄への一極集中局面が終わり、ようやくAI関連以外への資金循環の流れが始まっている。一方、米国ではフィラデルフィア半導体株指数(SOX)以外は日韓市場ほどの大きな調整はなく、相場はいわば足踏みをしている状態に過ぎない。日本では相変わらずAIバブル崩壊論がかまびすしいが、米国では"財務耐久テスト"による銘柄の選別こそ始まっているものの、AI相場の持続性に対しては、それほどの懸念が高まっているとは言えない。
むしろ7月以降の調整が、AI相場で大きな果実を得るための"最後のプラチナチケット"獲得の機会であるのかもしれないとさえ感じる。その際の狙い目は、一つにはやはりAI普及のボトルネックとなっている"ツルハシ銘柄"のうち、長期的な収益構造に不安がない企業。先述した電力供給2社に加え、ルメンタム・ホールディングス<LITE>やコヒレント<COHR>などの光ファイバー企業は業績拡大基調が鮮明で、本来ならここまで売られる必要のなかった企業の典型例だろう。
「SaaSの死」で株価が大きく下落しているソフトウエアやインターネットサービス企業にも勝機がある。セールスフォース<CRM>やネットフリックス<NFLX>、アドビ<ADBE>などが、AIへの代替が進むとの見方から年初来、大きく売られているが、各社とも業績自体はそこまで悪化しているわけではない。サブスクリプション・モデルを主体とするこうした企業は、LTAの観点で見ればむしろ優等生と言える。足元で見直し機運が高まっているものの、まだ市場から過小評価されている可能性が高い。マイクロソフト同様、投資家の不安を拭う決算を発表することができれば、再評価が進むのではないか。
売られ過ぎ銘柄の本命と言えば、やはりオラクル<ORCL>を挙げないわけにはいかない。AI過剰投資論に「SaaSの死」が加わり、この1年弱で株価が3分の1の水準にまで下落した同社だが、現時点での最大の懸念は、オープンAIの動向に尽きると言っていい。5月に一度は復調したオラクルの株価が再び急落したのは、オープンAIのIPO(新規株式公開)延期が伝えられたからだ。もし、このIPO計画が具体化され、オープンAIの資金調達が成功すれば、オラクルの株価は一気に火を噴くのではないだろうか。株価は依然としてその可能性を織り込んでいないが、要マークの"隠し玉"として、物色対象に加えるべきだと考える。
◆大手投資銀行に上値余地、そしてエヌビディアへの投資判断は?
AIを離れれば、やはり大注目なのは、大手投資銀行だろう。7月29日のFOMC(米連邦公開市場委員会)後に行われたウォーシュFRB(米連邦準備制度理事会)議長の会見を見て改めて実感したのは、今後のFRBはフォワードガイダンス(先行きの指針)を示さないということだ。これが何を意味するのか。株式市場にとって確かなことは、市場動向に応じてFRBが相場を下支えしてくれるという、いわゆるFRBプットが期待できなくなったということだ。したがって、雇用統計や物価指標発表、8月下旬のジャクソンホール会議など、今後の重要イベントの前後はボラティリティ(株価変動率)が高くならざるを得ない。
そして、情報発信を抑制するウォーシュ議長が唯一、明言しているのは「インフレ抑制を最優先にする」ということだ。トランプ大統領がいくら横やりを入れようが、今後のFRBの金融政策は利上げに向かうと見るのが妥当だろう。
株価のボラティリティが高水準で、金利に先高観がある。そうなれば、収益機会が大きく拡大するのは大手投資銀行だ。少々話がズレるかもしれないが、この1カ月の日韓株式市場のハイボラティリティな相場展開のおかげで、米投資銀行大手のアジア支店は空前の好況だという。それも当然のことで、東証を例に挙げれば、一昔前は一日の売買代金が2兆円もあれば活況とされていたが、いまでは10兆円を超えることが当たり前になっている。投資銀行の収益構造は、ざっくり言えば株式売買のエクイティ部門と、そこで稼いだ資金を機関投資家に貸し出すファイナンス部門が半々なのだが、これだけ売買代金が増えて手数料収入が伸びれば、ファイナンスに回す資金が増え、収益拡大にレバレッジがかかっていく。
もちろん、米国国内でも同様の流れが進んでいて、今回の決算シーズンの先陣を切った各大手投資銀行の決算にもその数字は表れてきている。具体的な企業名を挙げれば、ゴールドマン・サックス・グループ<GS>やモルガン・スタンレー<MS>、そしてようやくリストラが一巡しつつあるシティグループ<C>など。プライベートクレジットの信用リスクが払拭されていないいくつかの企業を除いて、大手各社にはまだまだ上値余地があると見ていいだろう。
最後に少し先の話になるが、8月26日に決算を発表するエヌビディア<NVDA>についても触れておきたい。一時、アップルに時価総額首位の座を奪われるなど、以前と比べて株式市場での存在感が薄まっているが、ジェンスン・フアンCEOが事あるごとに語っているように、同社のAI半導体への需要が指数関数的に伸びている状況には変わりがない。一部で循環取引と指摘される顧客企業への資金提供も、長期的な契約に基づいた実効性のあるもので、財務の健全性という点では不安はない。
確かに将来、中国勢の台頭によって安価なAI半導体が市場に出てくる可能性はある。だが、同社が開発するような最先端の半導体製造技術が簡単にキャッチアップされるとは考えられない。トークン単位で飛躍的に増加していくAI需要を考えれば、安価な製品の普及でAI開発の効率化が進み、むしろAI需要がさらに飛躍的に拡大する「ジェヴォンズのパラドックス」と呼ばれる現象が生じる可能性さえある。そうなった場合、最先端技術を独占するエヌビディアの成長は、さらに勢いを増すはずだ。足もとでは上値が重い展開が続いているものの、同社への中長期的な投資判断はやはりポジティブに捉えている。
【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。
株探ニュース