「ミューズ」暴落銘柄に勝機あり、金利高を乗り越える銘柄とは?<大山季之の米国株マーケット・ビュー>
◆金利高でも株式の投資比率を高める大手機関投資家
ナスダック総合指数が最高値を更新し、S&P500種株価指数は最高値圏で推移、フィラデルフィア半導体株指数(SOX指数)も再び高値を目指し上昇基調を取り戻すなど、米国市場は総じて堅調に推移している。9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)でFRB(米連邦準備制度理事会)が3年2カ月ぶりとなる利上げを決定し、年内の追加利上げも濃厚視される中で、なぜ株高が進んでいるのか。今回はまず、足もとの米国株市場を動かす要因から探っていきたい。
複数の米メディアや市場関係者によると、現在、多くの大手機関投資家は株式にフルポジションを取っている状態だという。アルゴリズムを駆使してトレンド・フォロー型の運用を行うCTA(商品投資顧問)、リスクを一定範囲内に抑えるボラティリティ・コントロールを重視するファンド、さらにアルゴに頼らず裁量的な取引を重視するシタデルやミレニアム・マネジメント、ポイント72といったヘッジファンドなどだ。銘柄はビッグテックなどAI(人工知能)関連企業が中心だが、ダウ平均を除く主要株価指数が時価総額加重平均で算出され、時価総額の大きなビッグテックの比重が高くなることを考えれば、これは必然でもある。
これが主要指数の底堅さの正体だ。そして、彼ら米国人投資家たちが、株式を買う一方で同様にポジションを積み上げているのが、債券のショートである。米ブルームバーグによると、利上げが一気に進んだ2023年以来、最大級の規模に達しているという。株式のフルポジションと債券のショートを同時に積み上げるのはセオリーには反するが、現時点の相場動向に応じた適切な資産配分を行っていると言えるかもしれない。
◆「AI猛威論」はアンソロピック上場まで様子見か
さらに現在の局面で目につくのが、IPO(新規株式公開)を予定していた企業の上場延期だ。ソフトバンクグループ <9984> 傘下の電力インフラ企業、SBエナジーや、ウェアラブル端末「スマートリング」の評判が良く、市場からの期待も高かったヘルステック企業のオーラなどが相次いで表明している。だがこれは、長期金利の上昇に伴う市場の不透明感を避けるための賢明な判断だったと言えよう。両社とも業績や財務内容に不安はなく、無理にこの時期に上場する必要はないからだ。
一方、この秋最大の注目案件であるアンソロピックの上場は、中間選挙後の11月中には実施されるという。来年上場予定のオープンAIも含め、AI開発の主体となるAIラボ企業は、膨らみ続ける開発コストを賄うために、上場による資金調達が必須の課題になっている。AI開発はゴールのない「ラットレース」の様相を呈し、立ち止まったら負けという状態だ。両社にとって、市場環境がいかに悪かろうと、早期の株式公開は「やらざるを得ない」施策なのだ。
「AI開発のスピードを抑止すべき」という意見がAIラボ企業の首脳から発信されるのも、そうした事情が背景にあるからかもしれない。アンソロピックのダリオ・アモデイCEO(最高経営責任者)の発言に端を発した「AI猛威論」については、スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(スペースX)<SPCX>のイーロン・マスクCEOが賛同したのに対し、エヌビディア<NVDA>のジェンスン・フアンCEOやメタ・プラットフォームズ<META>のマーク・ザッカーバーグCEOは反対するなど、AI企業の間でも意見は割れている。もちろん、本当にAIが人類に危害を及ぼすおそれがあるなら一企業の問題ではなくなるが、おそらく現時点では、市場はこの問題を完全には理解できておらず、織り込めてもいない。
したがって、この問題に関しては、まずはアンソロピックの上場を見守るしかないだろう。上場前の同社に対する市場の評価を探る指標となるのが、8月に上場した「アンソロピック AIラボ エコシステム ETF<ANTW>」だ。レバレッジ型のシングルストックETF以外で、個別企業の名を冠したETFは異例だが、AIの代名詞としてアンソロピックの名を充てたようだ。半導体やデータセンター、電力インフラなどAI関連の有力企業が軒並み組み入れられており、アモデイ氏の発言後もそれほど株価は崩れず、底堅い推移を見せている。市場も「AI猛威論」に関しては、様子見のスタンスを取らざるを得ないのが現状なのだ。
◆市場が期待する「想定以上の好決算」、中間選挙前の大勝負シナリオも
ともあれ、秋相場で最大のカタリスト(変動のきっかけ)となるのは「金利動向」と、それを上回る「企業の好決算」であることは間違いない。まずは今月中旬から本格化する米主要企業の26年第3四半期(7-9月期)決算から見ていきたい。前提となるのが、FRBの金融政策だ。前回のFOMCでウォーシュ議長が金融政策の独立性を守る姿勢を示したことで、年内の追加利上げが濃厚視される状態になっている。したがって今回の決算は、現在の堅調な株価の前提である「金利上昇に負けない企業の好業績」が崩れていないかを確かめる機会になるはずだ。
現時点(10月2日)で、市場が予測するS&P500構成銘柄の12カ月先の予想PER(株価収益率)は19.1倍前後、益利回りに換算すると約5.23%前後の水準となる。対する米10年債の利回りは5.27%と同水準で、リスクのない債券に対し、リスク資産である株式のプレミアム(ERP=エクイティ・リスク・プレミアム)がほぼゼロになっている。それでも冒頭に述べたように、機関投資家は株式の保有比率を下げていない。彼らが期待しているのは、企業のEPS(1株利益)が上振れし、益利回りがさらに上昇していくことだ。やはり注目すべき企業は、ビッグテックや半導体などAI相場の指標企業が筆頭にくる。
そしてもう一つ、市場がひそかに期待しているシナリオが、金利の劇的な低下だ。9月のFOMC以降、長期金利が高止まりしながらも、株価の先高観が増している。とはいえ、一転して利下げに転じるというシナリオもわずかながら残っている。言うまでもなく、これはトランプ大統領次第だ。ここに来て、米軍空母の艦隊が中東に向けて出航したという情報も伝わっているが、中間選挙を前にトランプ大統領が最後の勝負に出て、一挙にイランへの攻勢をかけ、一方的に戦争の幕を引くというド派手な"ビッグシナリオ"である。
中間選挙で苦戦が伝えられるトランプ大統領にとって、支持率を回復する起死回生策は、庶民にはガソリン価格の引き下げ、株式市場には長期金利の抑制に尽きる。そのために大統領ができることは、イラン戦争の幕引きをして原油価格を下げる以外に方法はないはずだ。もちろん、もしこのシナリオが実現すれば、その過程では金利が急上昇し、ビッグテックを含めた株価は大暴落、一時的に市場はクラッシュするだろう。だが、その後は昨年までの「TACO(トランプはいつも尻込みする)」の再現で、すぐに市場は復調していく。足もとの中間選挙の情勢や彼の性格から考えると、荒唐無稽とは言えない気がする。万が一、このシナリオが現実化すれば、市場がクラッシュした瞬間こそが、千載一遇の"買い場"となるだろう。
◆「ミューズ・ショック」で売られた銘柄に妙味、堅実なETFも選択肢
ではそうした中で、今後の具体的な銘柄選定にはどのような視点が必要になるのか。好決算が予想されるAI主力企業は、引き続き相場の主役となるだろうか。すでに株価が好決算を織り込んでおり、買い場を見極めるのはなかなか難しい状況にあるが、投資のヒントとして一つ挙げたいのが、先日、メタが新型エージェントAI「Muse(ミューズ)」を発表したことに対する株式市場の反応だ。
利用者に代わって商品やサービスの購入まで実行してしまう自律型AIに顧客が奪われるとの懸念から、足もとで多くの企業の株が売られている。JPモルガン・チェース<JPM>、シティグループ<C>、ウェルズ・ファーゴ<WFC>などの大手銀行、オールステート<ALL>、マーシュ<MRSH>などの大手保険代理店、そしてブッキング・ホールディングス<BKNG>、エアビーアンドビー<ABNB>、トリップアドバイザー<TRIP>などの旅行仲介サイトなどだ。
確かに、「ミューズ」を誰もが使いこなすようになれば、消費者にとって商品やサービスを選ぶ効率は格段に向上する。ネットにある情報を右から左へと流すような仲介サービスや、変化に対応せず惰性でサービスを続ける事業者は痛手を受けるかもしれない。だが、はたして一律に売り込まれる必要があったのかと言えば、疑問視せざるを得ない。記憶に新しい年初の「SaaSの死」では、ソフトウェア関連企業が大きく売り込まれた。しかし半年が経過し、この時の株価の動きは実は過剰反応だったことが明らかになり、多くの企業の株価が復調しつつある。つまり、大きく下げた局面は格好の買い場だったことになるが、今回の「ミューズ・ショック」も同じ現象ではないかと感じるのだ。
したがって、「ミューズ」登場で売られた銘柄には注目すべきだろう。選別のポイントは、「顧客のエンゲージメントの高さ」だ。例えば、フィットネス関連で、低価格帯のサービスを提供するプラネット・フィットネス<PLNT>は大きく売られているが、高級会員制クラブのライフ・タイム・グループ・ホールディングス<LTH>は、一度は売られたもののすぐに復調している。同じく売り込まれた保険代理店に関して言えば、「AIは『ターミネーター』ではなく相棒の『C-3PO』になり得る」という市場関係者の意見もすでに出始めていて、一方的な売りが止まったようにも見える。
「ミューズ」への対処法によっても、市場の評価には差が出てくる。旅行仲介サイトの中では、あえて「ミューズ」との提携を選んだエクスペディア・グループ<EXPE>の株価が下げ止まっている。反対にアマゾン・ドット・コム<AMZN>は「ミューズ」の接続を遮断したことで、市場の過度な懸念が後退している。各社が「ミューズ」に対してどのようなスタンスを取り、事業の成長性を維持していくかを見極めることも、今後の銘柄選定の注目ポイントだと言えるだろう。
また、前述の「AI猛威論」を念頭に置けば、サイバー・セキュリティ関連企業の存在感が増すのは必然。すでにクラウドストライク・ホールディングス<CRWD>、パロ・アルト・ネットワークス<PANW>、フォーティネット<FTNT>など、主力企業の株価は足もとで上昇しているが、今後、AIのリスク管理がますます重要なテーマとなる中で、この株価の動きは決して一過性のものではないはずだ。
最後に、二つほど堅実な投資対象を紹介したい。一つは「ヴィクトリーシェアーズ フリー キャッシュフローETF<VFLO>」で、企業の稼ぐ力であるフリーキャッシュフロー(FCF)に着目し、将来の予測FCFが高い大型株を中心に構成するETFだ。上位構成銘柄はアクセンチュア<ACN>、アドビ<ADBE>、エクソンモービル<XOM>、エクスペディア、セールスフォース<CRM>など、本来は稼ぐ力を持っていながらも市場からの評価が低い銘柄も多く含まれ、バリュエーション面で割安株が多いのも特徴だ。
もう一つは、同じく企業の稼ぐ力に着目しながら、インカムゲインを重視した「アンプリファイCOWSカバード・コールETF<HCOW>」だ。FCF利回りが高く、かつ高配当の銘柄で組成されている。カバード・コールの性質上、株価上昇は期待できないが、その分、極めて高い分配金利回りを得ることができる。高値圏で推移し、上値の重いボックス相場にある米国株相場の現状を考えれば、賢明な選択肢の一つではないだろうか。
【著者】
大山季之(おおやま・のりゆき)
松井証券マーケットアナリスト
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、10年バークレイズ証券、12年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案、自社株買い、金融商品組成などに関わる。現在は松井証券のマーケットアナリストとして、米国のマクロ経済分析や企業、セクターの分析等を行う。
株探ニュース