「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演 後編)」

市況
2018年1月14日 15時05分

―マクロとミクロ・技術邂逅の年、日経平均4万円への道―

※「武者陵司×南川明 2018年を読む!(南川氏講演 前編)」より続く

◆ 「2018年の技術動向とミクロ」(2) ◆

南川 明 (IHSグローバル株式会社 IHS Technology 調査部ディレクタ)

●IoTで生み出されるデータ量はうなぎ登りに増加

IoTの普及に伴い世界中で生成されるビックデータ量は2015年現在の約6ゼタバイト(ゼタバイト=10億テラバイト)から2020年には40ゼタバイトへ急増すると言われている。データ量が6倍以上になるが、データの圧縮やデータセンター間でのデータ交換などが大きいため、実際ストレージに保存しなければならないデータは4倍程度になると見ている。このデータを活用して、これまでは成し得なかった効率化を実現することがIoTの目指す世界になる。

IoTの普及によりビックデータの活用が普通になれば、より多くのサーバー、ストレージが必要になり、より多くの電力も必要となる。中間所得者層人口の増加で、これまで以上の電子機器の販売が期待できる。つまり、電力需要はうなぎ登りに増加するのだが、供給能力には限界がある。やはり、IoTを活用してスマートな社会・交通・製造・医療・農業を行うことでエネルギー削減を期待することが、エレクトロニクス業界では最大の課題になってくるであろう。

AIチップ、人工知能、人間の脳に近い構造を持った半導体のプロセッサが注目されている。IBMとGoogleは既に作っている。他にもFacebook、Amazon、Appleも人工知能チップを開発している。あと3~5年すると、人工知能チップが世の中にたくさん出てくる。性能を上げるために電力を大量に使うコンピュータは、人間の脳に近い構造のチップを使えば、サーバーの消費電力を100分の1から1000分の1に抑えることができる。消費電力を下げる画期的な技術である。

●中国、一帯一路と新たな外貨獲得の手段

中国は2049年に建国100年を迎える。これに向けて世界一の経済大国、軍事大国を目指し、さまざまな施策を推し進めようとしている。例えば、通信のインフラ。世界でも最も早いスピードで、通信のインフラを5G化させている。その通信速度がIoTを広めるために必要だからである。

その前に2025年までに一部の都市で自動運転を確立する。2030年までにはIoTを使ってスマートシティ、ゼロエミッションを目指している。一帯一路、シルクロード構想に伴いスマートシティを作ろうとしている。

なぜ、中国が急速にこれを推し進めているのか。現在は世界の電子機器の40%近くが中国で生産され、外貨を稼ぐ手段となっている。しかし、この40%は頭打ちであり、成長が止まってきている。10年間で人件費は4倍となっている。つまり、製造という意味では競争力を無くしたのだ。外貨を稼ぐために手段を考えなければいけない。

よって、自動運転、スマートシティをいち早く実現し、それをプロジェクトのまま海外にどんどん移植していこうとしている。それを一帯一路を経由して広めていこうとしている。一帯一路に隣接する国々は約40ヵ国あり、人口は45億人、世界の6割を巻き込んだ構想であり、エレクトロニクス産業を巻き込もうとしている。中国はものごとを決めたら実現できる国である。CO2の排出も一気に下げる規制をもう決めている。

●日本のプレゼンス、絶大なチャンス

パソコン産業では日本は負けた。テレビの産業も一時期はよかったが、すでに韓国、中国メーカーに市場を奪われた。スマホに関しても同様だ。

しかし、いま土俵は変わり始めた。次の土俵は車、産業機器、IoT。日本は良い技術、良い材料、素材を持っている。半導体とは違う電子部品、コンデンサーや抵抗器、水晶、フィルタなどで日本は世界シェアNo.1である。

半導体においてはトップの座にはないが、技術は保持している。薄膜技術という元々は写真の技術で半導体を微細化できる。電子部品は厚膜技術という元々は印刷の技術で作られており、村田製作所 <6981> 、TDK <6762> 、京セラ <6971> などのメーカーがある。そして、それぞれの技術を持つメーカーが融合し始めた。一緒に作ることによってより小さく、性能良く作ることができるのである。

モーターでも日本は世界一だ。日本電産 <6594> 、マブチ <6592> 、ミネベアミツミ <6479> などがある。身の回りの電子機器は、ほとんどが半導体、電子部品、そしてモーターが一緒に使われている。例としてはパソコンやスマホはもちろんのこと、車やロボットも同様である。

この3つの技術が非常に高い次元で揃っている国は、日本だけだ。土俵が変わったいまこそ、日本の各メーカーが協力し合って高い次元でこれら3つの技術を融合できれば、いまは非常に大きなチャンスにあると言えるだろう。さらに、材料素材も世界一。メーカー同士が協力し合えば、絶大なチャンスがある。

※・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演 前編)」に続く

・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(武者氏講演)」

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・「武者陵司×南川明 2018年を読む!(Q&Aセッション)」

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■南川 明

IHSグローバル株式会社 IHS Technology 調査部ディレクタ。

JEITA(一般社団法人 電子情報技術産業協会)では10年以上に渡り、世界の電子機器と半導体中長期展望委員会の中心アナリストとして従事する。定期的に台湾主催の半導体シンポジウムで講演を行うなどアジアでの調査・コンサルティングを強化してきた。JEITA、半導体産業新聞、SEMI Japan (日本、韓国、台湾など)、電子ジャーナルなどのセミナーで定期的に講師として講演を行っている。半導体産業新聞、電子ジャーナル、日経マイクロデバイスでも連載記事を執筆。その他、メディアでも記事の執筆やTV出演などの広報活動も精力的に行う。

(2018年1月11日記 武者リサーチ「投資ストラテジーの焦点 303号」を編集・転載)

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