中村潤一の相場スクランブル 「上昇旋風再び 風雲急の“急騰予備軍”7銘柄」

市況
2018年5月9日 19時00分

minkabu PRESS編集部 株式情報担当編集長 中村潤一

イラン核合意からの離脱をトランプ米大統領が表明したことが波紋を呼んでいます。事前に離脱の可能性が意識されていたこともあって、8日の米国株市場やドル円相場に大きな揺れは見られませんでした。また、直近は恐怖指数と称されるVIX指数も低下傾向にあり、同日の終値は前日比0.04ポイント安の14.71と警戒ラインの20には大分余裕がある状況です。ただ、この朝鮮半島と入れ替わる形でにわかに浮上した地政学リスクをマーケットはまだ織り込めていない感触があります。

●米10年債利回りが最大のリスク要因か

市場関係者に取材しても見方はそれぞれで、総じてこの影響を測りかねている印象を受けます。ひとつ言えるのは、この問題は中東の核不拡散体制の揺らぎに対する懸念そのものよりも、原油高やそれに連動した米長期金利上昇に対する懸念が本流となっているということ。原油市況の上昇は紛れもなく世界景気にはネガティブに作用しますが、それ以上に怖いのが米10年債利回りの動向で、再び3%台超えから一段と上昇傾向を強めるような展開となれば、新興国からの資金流出加速のトリガーとなる可能性が高くなります。既にアルゼンチンを筆頭にブラジルやメキシコなど南米諸国や、ロシア、トルコなどでの通貨安が顕著であり、これが勢いを増せば世界経済にも負の連鎖を及ぼし、株式市場のアキレス腱となりかねません。

ただし、米長期金利が糸の切れた凧のように急激に上昇するというシナリオは今のところ現実的とはいえません。原油高の影響はとりあえず置くとして、米10年債利回りが3%近辺でとどまるのであれば、これは日本株にとってはむしろ福音となります。日米金利差を背景とした円安の流れが想定され、企業収益には追い風となるからです。

ローマ帝国ストア派の哲人セネカいわく「恐怖の数のほうが危険の数より常に多い」。これは正鵠を射た言葉で、恐怖の先には危険だけではなく、同じ顔をしたチャンスもたくさん待っているというわけです。恐怖の代償としてチャンスを取りにいくのがいわゆる相場と対峙する、ということにほかなりません。

●波ではなく流れを待つ、それまでは機動的に対応

また、「智者の慮は必ず利害に雑(まじ)う」と孫子は説いています。物事は利と害の両面に光を当てて考えることが大切であり、凝り固まった信念よりも柔軟な思考と行動こそが勝利を呼ぶカギとなります。成功を前提に未来を描いても、その通りにうまくコトが運ぶとは限らない。思惑を外した時のことも想定しながら前に進むのが投資に際しては必須といえます。しかし、“楽観すること”自体は決して悪ではない。基本的に投資行動は楽観が原動力となっており、逆に言えば思考の大半が悲観に支配されていては前進することなどできません。

繰り返しになりますがリスク管理を徹底しておくことは大事であり、変調を感じたら悩む前に仕切り直す。臆病なくらい早めのロスカットでも、それは大きな怪我を回避するうえで肯定されるべきものです。

●ピークに向かう決算発表、相場への影響は玉虫色

企業の決算発表が佳境入りとなっています。前回も触れましたが、今週末11日には800社以上の発表が予定されており、ここが最大のヤマ場となります。さらに来週月曜日(14日)、火曜日(15日)を合わせて700社以上が予定され、ほぼ出揃う感じとなりますが、果たして今回の決算発表をマーケットはどのように受け止め、今後の株価にどう反映していくのでしょうか。あくまで途中経過ですが、前日までの流れを振り返ると、全体観として企業のガイダンスリスクは相場にそれほど悪い影響を与えてはいないものの、プラスインパクトも今一つで、結果的に方向性を左右するような分岐点とはなっていない印象を受けます。

例えば、ソニー <6758> やファナック <6954> の株価は決算発表を受け横殴りの突風に煽られたようにバランスを崩しましたが、全体相場に負の連鎖は見られませんでした。もし相場の体力が弱まっている時であれば、「ソニー・ショック」や「ファナック・ショック」といったように日経平均株価にも如実にその影響がみられるところでしたが、それがなかったのは、地合いの強さを代弁していることにもなります。一方、東京エレクトロン <8035> やアドバンテスト <6857> などの好決算は両銘柄の株価をそれぞれ素直に押し上げる格好となりましたが、他の半導体関連株も巻き込んで見直し機運が一気に高まるようなムードには遠く及ばず、局地的な物色人気にとどまった感は否めません。

●トヨタは気を吐くも全体相場に覇気は及ばず

また、きょう(9日)は、初の試みとして後場取引時間中にトヨタ自動車 <7203> の決算発表が行われました。19年3月期は営業利益段階で4%減益を予想していますが、市場コンセンサスは上回っており、足もとの円安進行に加え、発行済み株式数の1.85%に相当する最大5500万株の自社株買い発表が評価される形で高水準の買いを呼び込みました。しかし、全体相場へのポジティブな効果は限られたようです。

それでも製造業の盟主トヨタの決算と株価動向は明るい兆候。5月後半から6月にかけての東京市場は、霧が徐々に晴れるように買い方有利の展開に傾いていくのではないかとみています。4月新年度相場入りとともに猛然と買い越しに転じた外国人投資家は、4月最終週(23~27日)は久しぶりに現物で1500億円強の売り越しに転じましたが、一方で先物は4000億円強の大幅買い越し(日経平均・TOPIX先物合算)となり、4週にわたり買い越しを続けています。外国人の現物売りは証券会社の自己売買部門が受け皿となった形ですが、これには裏があって、4月の最終週は円安が一気に進んだ週であったため、外国人がここまで積み上げていた先物のショートポジションを解消し、これが先物上昇に伴う裁定買いを誘発して自己部門の買いに反映されたものです。この流れは悪くありません。

ともあれ、業界を代表する銘柄が決算絡みで動いても“貴方は貴方、私は私”的な地合いが今の相場の特徴であることは確認されました。これは全体指数のボックス圏往来が続く可能性を示唆するものですが、日経平均が2万3000円ラインの“天井破り”とはならずとも、強基調であれば個別株で勝負する個人投資家にとってはむしろやりやすい面があります。

●AI、IoT、民泊などがキーワードに

直近、注目が怠れない相場テーマとしては前回取り上げたブロックチェーン関連や、IoT 時代に呼応した新たな有力分野であるエッジコンピューターなどが挙げられます。後者についてはGW特集の「融合“AI&IoT”、急浮上『エッジコンピューティング関連』注目8銘柄」でも紹介しています。このほか、内需では不動産流動化に絡むセクターも引き続き外せません。インバウンド需要が土地の活性化に一役買っており、6月の“民泊新法”も絡めて出世株の宝庫といえます。決算発表が一巡すれば、一連のテーマ株にはメイストームならぬ上昇旋風が訪れそうです。

今回はまず、IoT・エッジコンピューティング関連で活躍気配を漂わせる次の2銘柄に注目です。

【安川情報はIoT時代を担うトップランナー】

安川情報システム <2354> [東証2]は組み込みソフト開発およびシステム構築などを手掛けており、IoT時代到来が強力なフォローの風となっています。エンジニアリング分野でのノウハウやデータの蓄積をAI分析にも生かし、IT技術分野のトップランナーとして将来への成長期待は高いものがあります。クラウドサービスの強化、最先端通信技術を取り入れエッジコンピューティング開発に注力している点もポイント。同社は来年3月に社名を「YE DIGITAL(ワイ・イー・デジタル)」に変更する予定で、株価も新局面を迎える可能性がありそうです。

【図研エルミックは映像・監視システムで飛躍】

また、図研エルミック <4770> [東証2]も面白い存在。図研グループに属し通信用ソフトウエアなどの技術開発を行っていますが、映像・監視システムがIoTのビジネスシーンで重要な位置づけとなるなか、同社の強みとする監視カメラのミドルウエア需要が今後大きく伸びていくことが予想されます。特に今期は2020年の東京五輪関連の切り口で特需が期待。また、映像・監視システムではエッジコンピューティングによる通信負荷の軽減が課題となっており、ここでも同社のノウハウが生かされる可能性があります。

さらに不動産関連では、以前に取り上げたルーデン・ホールディングス <1400> [JQG]などが人気化していますが、ここは改めて低位株に照準を合わせてみたいところ。

【民泊テーマで大勢上昇トレンド続くプロパスト】

不動産セクターではプロパスト <3236> [JQ]が押し目を形成しながらも強い動きでマークされます。訪日観光客の大幅な増加により宿泊施設不足が問題となっており、政府の後押しで進められる民泊市場の拡大は流動化ビジネスを手掛ける銘柄群の株価を強く刺激しています。とりわけ6月15日には「民泊新法」が施行され、民泊運営のルールが整備されることになり、株式市場でもこのスケジュールを意識して物色人気が盛り上がる方向が読めます。

そのなか、同社はシノケングループ <8909> [JQ]と連携して本格的に民泊プロジェクト立ち上げており、ここからの展開力に期待が高まります。

●時流に乗る個別材料株“一本釣り”ならこの株

このほか、前述のテーマ以外で個別に注目される銘柄として以下の4銘柄を挙げておきます。

【船舶の自動運転分野でカギを握る古野電気】

まず、動兆著しいのが古野電気 <6814> で、15年7月以来となる1000円大台回復が目前。同社は魚群探知機の世界的大手メーカーとして知られますが、自動操舵導入に積極的であり、いわゆる船舶の自動運転分野への展開で注目されています。商船三井 <9104> とは将来の自律航行船につながるAR(拡張現実)技術を活用した公開情報表示システムを開発するなど存在感を示しています。

【業績回復色強めるセーラーの急騰習性に再注目】

次に、3月に株探トップ特集で紹介したことのあるセーラー万年筆 <7992> [東証2]に再度着目。業績回復色が鮮明で3月に「継続企業前提に関する注記」の記載を解消したことを契機に一気に水準を切り上げ、その後もうねりを伴いながら次第に下値を切り上げ需給相場の様相を呈しています。同社は高級万年筆など高付加価値の文具への展開に注力する一方、高精度取出機やオーダーメードの自動化装置など製造業向けの産業ロボットで高い技術力を発揮しています。15年7月には一気に800円(分割修正値)まで買われた急騰習性も魅力。

【メディカルネットはインプラント市場拡大追い風】

メディカルネット <3645> [東証M]も上値指向の強いチャートでマークしたい。インプラントや矯正などの歯科検索サイトを運営していますが、旺盛なインプラント需要を背景に今後も広告収入は拡大傾向が続くと思われます。また、ノウハウを生かして美容やエステ関連分野にも展開、子育て情報サイトなど国策に乗る分野にも進出しており、将来的な業容拡大期待が株高の原動力です。

【“習1強”中国関連で浮上するエーアイテイー】

最後に意外性を内包する銘柄としてエーアイテイー <9381> に注目。海上コンテナを主力に国際貨物輸送を手掛けていますが、日中間の貿易に特化しており、中国関連株の一角として頭角を現しつつあります。中国では習近平総書記への権力集中で政治的なリスクが後退しています。加えて同国政府は内需振興策に積極的な姿勢を打ち出しており、景気減速に対する懸念が薄まっていることから、同社にとってはビジネスチャンスの広がりを想起させる状況にあります。

(5月9日記、隔週水曜日掲載)

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