日経平均の影法師「化学株」に意外高の芽、要注目“大化け候補”3銘柄 <株探トップ特集>

特集
2018年8月8日 19時30分

―相似形描く日経平均と化学株、意外な上げ相場のシナリオ―

東京株式市場は2万2000円台後半でのもみ合いを継続、なかなか方向感が定まらない状況にあるが、米国株市場が高値圏を走っているだけに早晩これにキャッチアップする動きが期待される。米株高により海外投資家のリスク許容度は着実に改善しており、これは日本株の上値余地にもつながっていく。全体売買代金が細り、夏枯れと言われる一方で、4~6月期決算を絡め好業績株には海外マネーとみられる資金がしたたかに流入している。米トランプ政権が仕掛ける通商問題に目を奪われがちだが、こうしたポジティブな流れを見逃さないようにしたい。

●化学セクターは日経平均の縮図

東京株式市場の33業種のなかで、年初からの指数トレンドが日経平均株価と最も似た波動を描いているのはどこか。意外に思われるかもしれないが、それは「化学」セクターである(医薬品は含まない)。業種別チャートはその波動にかなりバラつきがあるが、特に「化学」は他の業種とは異なり、日経平均をトレースしたような週足だ。違うところは日経平均が2月初旬の急落時に開けたマドをまだ埋め切れていないのに対し、「化学」は5月下旬時点で埋めている点。その分だけ日経平均よりも強いチャートといえるのだが、それを除けばほぼ“相似形”といってよい。ある意味、化学株は日経平均の“影法師”といえ、そしてその値動きは全体の地合いを映し出す隠れたバロメーターといっても過言ではない。

化学セクターの業績は石化市況に連動しやすい。今回の4~6月期決算発表を受け石化市況の先行きについては、下落歩調を見込む企業が大勢を占めることが明らかとなってきた。これは シェールガス由来の石化製品の流入が加速するという思惑が背景にあり、需給が緩むことが予想されるためだ。

ところが実際は、石化市況は強基調を維持している。消費大国である中国の動向がカギを握るが同国は環境問題という足かせがあり、環境規制の強化でこれをクリアした石化プラントの稼働がままならない状況にある。また、米国ではシェールガス由来のエチレンプラントなどの大規模設備は稼働しているものの、石化製品を輸送する際の港湾設備が整っておらず、「当分の間、デリバリー体制は未整備状態が続く」(市場関係者)という見方が強い。これが石化市況堅調の背景となっている。

●空売りの買い戻しが上げ潮相場をつくる

株式需給面では、石化製品価格下落による収益への影響を見込んだ空売りが入っている銘柄も少なくないとみられ、「場合によっては踏み上げ的な上昇相場を形成する銘柄も出てきそうだ」(国内投資顧問)とする声もある。ヘッジファンドなどの機関投資家は市場外調達による空売りができるため、東証信用残などの数字だけでは潜在的な買い戻し圧力が反映されていない部分もある。

引き続き米中貿易摩擦が先鋭化することへの懸念がマーケットを覆っており、日本でも9日に米国との新貿易協議の初会合を控えるなか、過激なトランプ通商政策についてはもちろん対岸の火事ではない。おのずと積極的な買い参戦は難しい相場環境にあるのだが、こうした局面こそ意外な上げ相場のシナリオが潜んでいることが多いもの。日本の化学メーカーは高い技術力を武器に高機能品(機能性化学品)分野の育成にも努めており、化学株をこれまで通り石化市況連動型の収益構造と高をくくってショートポジションを積み上げると、実は「逆目に張っていた」ということも往々にしてあり得るのだ。

裏を返せば、ここは目先を変え、物色対象として新鮮味のある化学株をターゲットに置くことで、意外な投資成果を得られる可能性がある。

●機能性化学品で飛躍余地を内包する銘柄群

ナイロン繊維やナイロン樹脂の原料であるカプロラクタム(CPL)は宇部興産 <4208> が主力としている分野でマージンは会社見込みを上回る水準で推移している。台湾や韓国の需要家との間で決まった7月の契約価格も前月から上昇している。業績は足もと苦戦しているが、株価は年初来安値圏でPERは10倍を切っており、逆張り対象として妙味がありそうだ。

また、樹脂や合成繊維のアクリロニトリル(AN)で世界屈指の存在といえば旭化成 <3407> だ。同社の4~6月期決算は、アクリロニトリルの価格上昇に伴う原料価格とのスプレッドが拡大し、収益に貢献した。営業利益は前年同期比27%の伸びを確保している。こちらは宇部興とは対照的に上場来高値近辺で強調展開を続けており、化学株の中でも異彩を放つ。株式需給面では信用倍率が0.57倍と大幅に売り長で、日証金では逆日歩が付く状態。踏み上げ型上昇トレンド株の筆頭だ。

信越化学工業 <4063>シリコンウエハーのトップメーカーとして、世界的な半導体需要の拡大で恩恵を享受、業績に反映させていることは広く知られる。しかし、もうひとつの収益の柱である塩化ビニール(塩ビ)も好調を極め、利益を牽引している。塩ビは特に米国での需要が追い風となっており、トランプ大統領が打ち出した大規模な減税効果が寄与しているほか、インフラ投資拡大政策も好環境作りに一役買っている。同社では約1600億円を投入して米国で塩ビ生産ラインを建設、生産能力を1割増やす計画にあり中期成長力への期待が高まる状況にある。

住友化学 <4005> は総合化学大手で幅広い分野で高いシェアを有するが、機能性化学品では、建材や塗料、接着剤などに使われるメタクリル酸メチル(MMA)が収益に寄与している。有機EL向けガラス製タッチセンサーパネルや電気自動車(EV)用リチウムイオン電池部材なども手掛け、ハイテク系成長分野と深い関わりを持つ。有機ELは直近、韓国LGなど大手メーカーがテレビ用有機ELパネルを大増産する意向が伝わっており、同社の収益に強いフォローの風が吹く。

このほか機能化学品では、 炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などが注目される。炭素繊維と樹脂を複合させたもので、自動車軽量化や世界的に普及が加速するEV向け用途で高いニーズがある。総合化学トップメーカーの三菱ケミカルホールディングス <4188> は、同分野でも際立った展開力を持つ。今年3月に使用済みのCFRPから炭素繊維を抽出し、再利用を促す再生事業への参入が伝えられ、今後の展開に期待がかかっている。

●ここから要注目の3銘柄はこれだ

もっとも、物色対象として個人投資家が望むのはもっと足の速い銘柄であろう。それを踏まえたうえで、ここから高い上昇パフォーマンスが期待できるものとして以下の3銘柄を挙げたい。

まず、急速な戻り足に転じているハリマ化成グループ <4410> から目が離せない。4~6月期の好決算発表を受け前週1日にマドを開けて買われ、その後も売り物薄のなか上値慕いの動き。2月につけた年初来高値987円をクリアして4ケタ大台乗せが有望視される。松ヤニ原料化学品の草分けで電子材料や製紙用薬品で高い実績を持つ。同社が製造する導電性ペーストは熱伝導性に優れ、電子部品の高密度化を可能とする。さまざまな印刷方式に対応し「プリンテッドエレクトロニクス」関連の最右翼銘柄としてマークされる。

また、IT向け樹脂板などプラスチック加工で高技術力を持つタキロンシーアイ <4215> も25日移動平均線と75日移動平均線の狭間に位置する時価近辺は仕込み場。世界的に投資需要が盛り上がっている半導体装置向けに工業用プレートが好調だ。PER10倍、PBR0.8倍台、配当利回り2.9%前後と主要株価指標はいずれも上値余地を示唆。ROE11%台と2ケタ水準にあることも見直し買いの材料となる。

リケンテクノス <4220> は13週移動平均線を足場に中段上放れ前夜を印象づける。塩ビコンパウンドのトップメーカー。塩ビ需要の高さは前出の信越化の決算でも明らかとなったが、同社もまた同様の好収益環境に置かれている。建材や電線向けで売り上げを伸ばし業績に寄与、19年3月期営業利益は前期比17%増益見通しにある。一株純資産が前期実績ベースで735円あり、時価はPBRに換算して0.7倍台と割安感が強い。

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