原油“新カルテル”の船出は前途多難か、需給ひっ迫が中心テーマに<コモディティ特集>

特集
2018年9月26日 13時30分

―不安抱える生産余力、影差すロシア・サウジが描くグランドデザイン―

週末23日、石油輸出国機構(OPEC)加盟国と非OPEC加盟国による共同閣僚監視委員会(JMMC)がアルジェリアで行われた。会合後の声明文によると、6月のOPEC総会の減産遵守率100%を目指すという合意が再び強調されたほか、市場の不均衡を回避するために来年の見通しを策定し、生産水準に関する選択肢を検討することになった。次回のJMMCは11月11日にアブダビで行われる。

●増産は不要も、減産が続けば穴埋めを想定

会合後の記者会見で、サウジアラビアのファリハ・エネルギー相は「6月以降、顧客の要求に全て応えてきた」とし、最近数ヵ月間の増産によって足元の需要は満たされているとの認識を示した。需要が満たされている以上、増産は不要である。トランプ米大統領は原油価格を抑制するように主要な産油国に対して繰り返し強く要求しているものの、今回のJMMCで増産が勧告されることはなかった。11月の米中間選挙を控え、トランプ米大統領はエネルギー価格の引き下げを目指している。

サウジやロシアが目指すのは需給バランスの維持であり、米国の中間選挙における共和党の勝利ではない。ただ、米国の対イラン制裁によって、イランの生産量が今後も減少することから、ファリハ・エネルギー相は増産を想定していると語った。設備投資不足を背景にベネズエラやアンゴラでも減産が続く見通しである。サウジやロシアは各国の減産を穴埋めするように増産し、減産遵守率100%を目指す。

●生産余力はおそらく足りない

JMMCの後、各国が記者団に語ったところによると、アラブ首長国連邦(UAE)は日量60万バレル、ロシアは同10万バレル、サウジは同150万バレル増産が可能である。クウェートはサウジとの中立地帯で年末までに日量40万バレルの増産が可能である。各国の発言に基づく生産余力の合計は日量260万バレルである。

主要な産油国は日量200万バレル超の生産余力を用いて、イランやベネズエラなどの減産を補填していくことになるが、減産幅は未知数である。OPEC月報によると、8月のイランの生産量は日量358万4000バレル、ベネズエラは同123万5000バレル、アンゴラは144万8000バレルである。減産幅が膨らむと、生産余力はおそらく足りない。

●供給ひっ迫懸念が中心テーマに

増産余力の減少は値動きの不安定化と原油高を連想させる。東西に分裂しているリビアの生産が安定するとは期待しづらく、イラクの反政府デモによる供給障害発生も警戒しなければならない。来年は供給ひっ迫が中心的なテーマとなるのではないか。今年と比較して、景気動向を背景とした需要見通しに左右されにくくなると思われる。

原油高を警戒して米国が対イラン制裁を一部緩和し、中国やインドが米国の制裁をかいくぐってイランとの石油取引を継続するようならば、供給ひっ迫懸念は多少弱まる。ただ、供給不足が今後の主役級のテーマであることに間違いなさそうだ。来年以降、OPECはロシアなどを加えて生まれ変わる見通しながら、需給バランスの維持を目標とするカルテルにとって、前途多難な船出となるのではないか。

(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)

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