混迷深める産油国ベネズエラ、供給途絶ならパニック誘発も<コモディティ特集>
経済が崩壊しているベネズエラが変革期に入ったようだ。野党指導者のグアイド国会議長は暫定大統領の就任を宣言し、現職のマドゥロ大統領による腐敗した政治に終止符を打とうとしている。外貨不足でベネズエラはハイパーインフレに見舞われており、食料や衣料品など生活必需品が枯渇し、国民はコロンビアやペルー、エクアドルへ難民としてなだれ込んでいる。
●マドゥロ大統領を追い詰める米国
設備投資不足によってベネズエラの原油生産量は減少を続けている。最盛期には日量300万バレル近い生産量を誇ったものの、石油輸出国機構(OPEC)の月報によると昨年12月には114万8000バレルまで減少した。先週、トランプ米政権はベネズエラ国営石油会社(PDVSA)を制裁の対象に加えると発表した。米国にあるPDVSAの資産は凍結され、PDVSAと取引をする米企業は制裁対象となる。ボルトン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は、今回の制裁でベネズエラの70億ドルの資産が凍結され、輸出額は今後1年間で110億ドル減少するとの見通しを示した。
米エネルギー情報局(EIA)によると、昨年11月における米国のベネズエラからの原油輸入量は日量51万1000バレルである。ベネズエラにとって米国は最大の取引先で、今回の制裁によって、マドゥロ政権の最大の資金源であるPDVSAの売り上げは大きく減少する。
マドゥロ大統領は米国に変わる新たな取引先を探すとしているものの、生産量の減少が止まらないベネズエラから敢えて原油を購入しようとする企業は少ないだろう。米国や英国、ドイツ、スペインのほか、南米各国はグアイド国会議長をベネズエラの新たな代表として認めている反面、中国やロシアはマドゥロ政権を支持しており、ベネズエラが国際的な対立の場となっていることも、石油企業がベネズエラを敬遠する背景となる。生活必需品であるエネルギーは安定的に確保されなければならない。
●米露中の対立激化で“第二のシリア”に?
グアイド国会議長を支援する米国は軍事的な選択肢を否定していないほか、ベネズエラにロシアから傭兵が送り込まれたという報道もあって、混迷の度合いが日に日に増している。代理戦争で荒廃した第二のシリアにベネズエラがなるという妄想も可能性がゼロであるとはいえない。ベネズエラから米フロリダ州まで約2000キロであり、米国の目と鼻の先で戦争が始まるとは到底思えないが、中国やロシアが巨額な資金を投下したベネズエラから簡単に手を引くとも想像できない。
原油相場の軸となっている世界の景気見通しは、米中通商協議の行方が握っている。米国が対中関税を引き上げる3月2日までに知的財産権の保護などの協議が大枠で合意に至るかどうかが最大の焦点である。ただ、トレンドに影響しないまでも、ベネズエラが混沌としていることは一時的に値動きを荒らす可能性が高い。減産しているものの、PDVSAの生産量は日量100万バレル超であり、この規模の供給が途絶するリスクが高まるとパニックを誘発するだろう。各国の動きに目を光らせつつ、身構えておく必要がある。
(minkabu PRESS CXアナリスト 谷口 英司)
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