米中貿易戦争に負けるのは・・・【フィスコ・コラム】

市況
2019年9月8日 9時00分

来年のアメリカ大統領選に向け、米中貿易戦争が争点の1つになりそうです。再選を狙うトランプ氏は相変わらず中国を力でねじ伏せようと躍起になっていますが、それが最大の株安要因であることを考えると、今後の対応を見直さざるを得ないでしょう。

7月には過去最高値を更新していたNY株式市場ですが、8月はその上昇分を削る展開が目立ちました。もちろん、米中貿易戦争が背景です。このうち、ダウは一時27300ドル台まで上昇しましたが、8月に入ると方向感の乏しい値動きとなり、25500-26500ドル台のさえない値動きでした。1日500ドル超の大幅安も1度や2度ではありません。しかも、その翌日の戻りは限定的で、市場へのダメージの大きさを反映しています。

象徴的だったのは、8月23日。従来とは異なり、先に仕掛けたのは中国政府でした。トランプ政権による対中制裁「第4弾」の一部発動に先立ち、報復措置として米国からの輸入製品の関税を発表します。トランプ大統領はすぐさまそれに反応し、すでに公表していた対中制裁の税率引き上げに踏み切りました。そうした経緯が嫌気され、ダウは620ドルも下げ市場心理を悪化させています。

その後、トランプ大統領は中国側から通商協議再開を求める電話があったとツイッターで説明し、株価はやや持ち直しました。しかし、中国側はトランプ氏の説明を否定しており、大幅株安に焦ったトランプ氏が自ら「フェイクニュース」を垂れ流した可能性は否定できません。実際、トランプ氏は最近、「中国側がアメリカと交渉したがっている」と繰り返すだけで、刺激的なツイートを控えているように見えます。

一方、民主党は8月29日、指名候補者を20人から実質10人に絞り込みました。そのうちの一人、ベト・オルーク前下院議員は独自の政策をまとめ、貿易に関して中国による通貨安誘導や産業スパイなどの不当行為の禁止とともに通商摩擦の早期終結を盛り込みました。米中対立が目下最大の経済問題となっている以上、他の候補者もそれに追随せざるを得ず、今後の論戦の主要テーマとなりそうです。

統計によれば、アメリカ人の金融資産に占める割合は株式などリスク資産が50%を超えており、そのうち株式は35%にのぼります。大統領選に勝つには、アメリカの2009年3月から現在まで続く強気相場の維持が求められるはずです。トランプ氏は常識外れの連邦準備理事会(FRB)批判を続けていますが、株価を押し上げるためとみられても仕方ないでしょう。

「経済なんだよ、間抜け」??ビル・クリントン氏は1992年の選挙で経済優先の政策を掲げ、父ブッシュ氏を破りました。そして、96年には選挙前の1年間で株価を3割近くも上げ、再選を果たしています。トランプ氏は中国に勝って選挙にも勝とうと目論んでいるのでしょうが、現時点では再選の可能性が高くてもこれまでのようなやり方で中国に接すれば株安で一気に支持を失いかねません。

選挙に勝つのが最優先ですから、トランプ氏は今後、力業(ちからわざ)一辺倒の対中政策を改めざるを得ないと思われます。本来なら知性や理性を駆使した高度な政治的駆け引きが求められるところですが、政治家としての同氏の力量が試される局面と言えそうです。

(吉池 威)

※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。

《SK》

提供:フィスコ

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