ストラテジスト馬渕治好氏に聞く年後半相場 <GW特集>

特集
2020年5月2日 19時00分

―ブラックスワンは再び羽ばたくか、メインシナリオ&リスクシナリオ その時株式市場は?―

新型コロナウイルス感染症が世界の株式市場をかつてないインパクトで揺るがしている。東京市場でも日経平均株価が3月下旬に1万6000円台前半まで売り込まれるなど、半ばパニック的な売りに晒された。その後は戻りに転じ一時2万円台を回復したが、依然として先行き不透明な状況に変わりはない。2020年後半、東京市場は果たしてどういう軌道を描くのか。外部環境次第で株価動向も大きく左右されることは必至だが、考えられるさまざまなケースに際しどんなシナリオが想定され、その時全体相場はどこに向かうのか。今回はゴールデンウイーク版相場観スペシャルとして、このテーマに踏み込んでみる。

著名ストラテジストとして市場第一線で活躍するブーケ・ド・フルーレット代表の馬渕治好氏に話を聞いた。

――東京市場は足もと戻り相場の色を強めていますが、新型コロナの感染状況を横目に先行き警戒感は拭えません。今後予想される、可能性の高いシナリオについて教えてください。

馬渕  まず、ワクチンや治療薬の開発動向がカギを握る。メインシナリオとしては開発が漸次進行し、実際の治療薬及びワクチンの大量生産は次のシーズン(12月以降)となっても、有効な治療法が現れたという期待があれば株式市場の底入れも早まる。6月頃までは経済活動抑制の影響が嫌気され、日経平均もはっきりしない動きが続き、一度は1万8000円台を割り込むような場面もありそうだ。しかし、3月下旬の安値水準(1万6300円台)を再び試しにいくような下落は見込んでいない。

3月の暴落局面では金や米国債といった安全資産といえるものまで売りたたかれ、現金のみを保有しようという投資家のパニック的な心理が如実に表れており、VIX指数も一時はリーマン・ショック時の高値を上回る水準まで跳ね上がった。今後株価が下押したとしても、その時を上回るような狼狽売りに晒されることは考えにくい。

一気に経済活動を再開することは難しいが、著しく悪化した経済や企業収益のデータが明らかとなっても、マーケットはそれを確認して底値を固める展開が想定される。日米欧など主要国は金融緩和や財政拡張の手仕舞いも緩やかなものにすることが予想され、景気や株価が一時的に過熱する局面もあり得る。

――企業業績の低迷だけでなく、中小企業レベルでは倒産も相次ぎそうですが。

馬渕  企業破綻が増え、銀行の不良債権もそれなりに増加するが、政府系金融機関の低利融資や地方の補助金などが支える形で危機的なものにはならないと思われる。原油価格なども大幅な上昇は期待しにくいが、底値から持ち直す展開となり、産油国や産油国企業も深刻なダメージを受ける可能性は低い。結果として3月後半の日米株の安値は不安心理が先行したパニック的な売りだったと解釈されることになる。年央以降は日経平均も上昇基調を次第に鮮明にしていくことが予想され、年末までに2万3000円台に戻す局面が訪れるとみている。

――今年1月の高値水準(2万4115円)を年内に超えるようなケースはさすがになさそうですか。

馬渕  ポジティブシナリオとしては年末までに大方の想定を上回る大幅な上昇展開もないとはいえない。ワクチンや治療薬開発が急ピッチで進み、新型コロナが近いうちに撲滅されるとの期待がマーケットに広がった場合、経済活動がいずれ新型コロナ前の状況に復するとの期待が、年央を待たずして確信されるようなことがあれば、株価の戻りのスピードも上値余地も増すだろう。個人の消費行動も爆発的な復活を遂げ、企業の設備投資需要も急増することが考えられる。結果として4~6月中に世界経済が底を打ちV字回復の道をたどる。このケースでは日経平均は年内に2万4000円を通過点に2万5000円近辺をうかがうような強調展開もありそうだ。

――ただ、新型コロナはいまだに未知数の部分が多いですね。流行第2波が訪れるなどして新型コロナの終息が遅れた場合はどうなるでしょうか。投資家としてはネガティブな環境も想定しておく必要がありそうです。

馬渕  新型コロナの流行が夏場になっても終息する気配がみられなかった場合に、悪い条件が重なれば悲観シナリオに陥る可能性も否定できない。例えば一部の国や地域でしびれを切らして経済活動の再開を行ったがゆえに感染者や死亡者が急増するようなケースで、なおかつワクチンや治療薬の開発も先の見通しが立ちにくければ、来シーズンも流行は避けられないことになり、経済活動は休止のまま1年以上が経過する。

既に先進国の金融政策はゼロ金利で追加緩和余地は少なく、量的緩和も、銀行が企業や個人向け融資をためらい効果が生じない。更に原油価格が低水準で常態化し、新興国通貨の暴落や資源国の国債などもデフォルトする。こういったケースとなれば1929年~1930年代の大恐慌を遥かに上回る未曽有(みぞう)の世界恐慌に陥る。一部地域で偶発的な軍事衝突も避けられないだろう。日経平均の下値を想定することすら難しくなる。こうなるシナリオも完全に排除できないが、確率としては5%くらいのパーセンテージにとどまると考えている。

今想定されるのはあくまで最初に挙げたシナリオで、日経平均はいったん2番底を探りにいった後は本格的な戻り相場を形成し、年末までに2万3000円台を目指すというコースが有力とみている。その確率としては80%ぐらいと考えている。

(聞き手 中村潤一)

<プロフィール>(まぶち・はるよし)

1981年東京大学理学部数学科卒、1988年米MIT修士課程修了。米国CFA(証券アナリスト)。マスコミ出演は多数。最新の書籍は「投資のプロはこうして先を読む」(日本経済新聞出版社)。日本経済新聞夕刊のコラム「十字路」の執筆陣のひとり。

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