山岡和雅が大胆予想、為替相場はこう動く! <GW特集>
山岡和雅(minkabu PRESS 外国為替担当編集長)
2020年これまでの相場は、新型コロナウイルス の影響で、近年まれにみる大荒れの展開となった。
ドル円相場は2018年、2019年と変動相場制開始以降の最小値幅を連続で更新。昨年のレンジはわずか7円94銭に過ぎなかった。しかし、今年に入って新型コロナウイルスの影響で相場は大きく動いた。特に新型コロナウイルスの感染被害が世界中に広がった2月後半以降の値動きは凄まじく、2月20日に10ヵ月ぶりの円安圏である112円23銭をつけたドル円は、わずか18日後の3月9日に101円19銭まで、11円以上もドル安円高が進行。2019年1年間のレンジをわずか2週間余で超えてしまったかたちである。さらにその2週間後には111円71銭までと10円以上も切り返すなど、相当に荒っぽい振幅を見せた。
その後は少しドル安円高が進んでいるものの、パニック的な動きは見られず、値動き自体は落ち着いてきた。もっとも、これまで市場が経験したことのないパンデミックという材料を受けて、今後への不透明感は強い。
世界的に広がるロックダウン(都市封鎖)の動きにより、世界経済の減速がどこまで続くのか。今後、事態が終息した時に、どの程度の回復を見せるのか。また、それにより為替相場はどのような動きが見込まれるのか。不確定要素は多いが、ポイントを挙げながらまとめてみたい。
●(1) 新型コロナウイルスの感染拡大動向
発生源となった武漢市の封鎖が4月8日に解除されるなど、中国は新型コロナウイルスの感染拡大からの回復が本格化。感染被害が広がった欧州でも、オーストリアがロックダウンの段階的解除を開始し、イタリア・ドイツなど多くの国で5月以降の段階的解除の動きが広がるなど、被害は一服しつつある。感染被害が世界最大となり、収束が遅れていた米国でもピークアウト期待が広がっており、ロックダウンの段階的解除を早期に進める姿勢をトランプ大統領が示している。
こうした状況はリスク警戒感の後退につながり、本来であれば円安材料である。しかし、ドル円で見た場合、4月後半はドル安円高の動きが優勢となった。
世界規模での懸念拡大と先行き不透明感を受けて、流動性が圧倒的に高く(外国為替市場での取引は9割近くがドルと何かの取引になるなど、ドルが絶対的な地位を占めている)、信用力も高いドルを手元に保有しておこうという意識が一時強まった。これによりドルの逼迫感が広がっていたが、リスク警戒感の薄らぎに伴う逼迫感の後退がドル売りにつながっている。こうした状況は当面続くと見られ、新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着くことがドル買い円売りにはつながりにくい。
●(2) NY原油先物市場の混乱
4月20日のNY市場で、NY原油先物(WTI)5月限が、史上初めてマイナス価格をつけた。この動き自体は21日の取引最終日を前に決裁が必要なポジションの解消に伴う混乱ということで、為替市場への影響は限定的なものにとどまった。しかし、翌21日に取引最終日まで約ひと月ある6月限の価格が6ドル台まで下落するなど、NY原油の下げが顕著になっている。新型コロナウイルスの感染拡大による需要減と、貯蔵施設の飽和状態が背景にある。
原油価格とドル円相場との相関は通常はそれほど高いものではないが、原油価格の低迷によって、先進国唯一の純産油国(原油輸出>輸入)であるカナダドルや、資源国通貨の代表格である豪ドルが対円で売られることで、ドル円の頭を抑えてくる可能性がある。
また、シェール革命以降、米国内で石油産業はかなり大きなものとなっているが、今回の原油価格低迷で、ほとんどの油田が採算割れに陥っているとみられている。生産や投資の縮小、経営不安などを通じて、米経済に深刻な影響が出る可能性が意識されている。トランプ大統領は支援を表明しているが、混乱が続くとドルにとっては売り材料となる。
●(3) 新型コロナウイルス対応での世界的な金利の低下
新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンなどの影響で経済に大きな悪影響が見込まれる中で、各国中銀は金融緩和の動きを強めた。米国は3月の2度の緊急利下げで実質ゼロ金利に。かつては高金利通貨として知られていた豪ドルやNZドルも3月に0.25%まで金利を引き下げ、英国も0.10%まで金利を引き下げた。南アフリカやトルコといった新興国はまだ金利があるものの、それぞれ4.25%、8.75%と過去最低水準まで低下。トルコなどは消費者物価指数が11%程度のため、実質金利が大きくマイナスという状況になっている。
また、日本をはじめ、米国、ユーロ圏などでは量的緩和の動きも強めており、各中銀とも積極的な緩和姿勢が目立つ。
こうした状況は当面続く見込みで、今後、新型コロナウイルスを巡る状況が落ち着いたとしても、各国の金利上昇までにはかなりの時間を要しそうだ。そのため、リスク警戒感が後退した場合でも、金利差を狙ったいわゆるキャリートレード(金利の低い通貨を売って、金利の高い通貨を買い、金利差を狙う)が増加する可能性は低い。キャリートレードは円売り材料となるため、今後の外貨買い円売りの動きがしぼむ可能性が高い。
●米大統領選が為替相場の転機となるか
こうした状況から、ドル円は下値リスクが相当に高いと考えられる。3月につけた101円19銭をターゲットに、ドル安円高の動きが当面は続くと予想される。
各中銀が積極的な緩和を進める中でも、米FOMCが決めた今回の新型コロナウイルスの影響でジャンク級に落ちた債券をも含めた積極的な資産購入による量的緩和は、かなり思い切った緩和とみられており、そうした面でもドル安が進みやすい地合いが見られる。
円高主導ではなく、ユーロドルなども含めたドル安主導の動きが強まると、先月の安値を超えてのドル安円高の進行も十分視野に入ってくる。この場合、100円では動きが止まらず、95円あたりまでのドル安円高を意識したい。
こうした流れが大きく変わるとすると、きっかけは11月の米大統領選となりそう。
新型コロナウイルスの影響で本来この時期には活発になっている大統領選に向けた動きが広がっていないが、バイデン前副大統領が民主党の候補として事実上決まり(正式には7月の党大会での選出)、夏以降は大統領選の話題が増えてくると思われる。
現状の支持率から見て、かなりの混戦が予想されるところだが、トランプ大統領が激戦を制するようだと、かなり強引にでも米経済を引き上げる動きが強まると期待され、ドル高が強まる可能性も。米経済の本格再開は来年以降となりそうだが、為替市場は本来の経済の動きから数ヵ月先行することが一般的ということを考えると、大統領選前後を境に、ドル高へ流れが切り替わる可能性は十分にありそうだ。
(2020年4月30日 記)
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