武者陵司 「コロナパンデミックは歴史を推し進め、株価を押し上げる(前編)」 <GW特集>
(1)コロナパンデミックが歴史趨勢の障害物を打ち砕く
コロナ感染と死者数が欧米でピークアウトし、封鎖解除がスケジュールに上ってきた。とはいえ、決め手になる処方薬とワクチンの開発には多くの不確実性があり、封鎖解除の後の感染第二波も懸念されている。最大の震源地である米国では感染者100万人、死者は6万人(中国比13倍)とベトナム戦争の犠牲者を上回る国難となっている。主要国経済は大恐慌時に次ぐ戦後最大の落ち込みのさなかにある。
この歴史的な惨事を前に、人々が悲観にとらわれ、後ろ向きになるのは自然のことである。しかし、よく考えれば、コロナパンデミックは障害物・抵抗勢力によってせき止められていた歴史の流れを一気に推し進め、経済と株価を押し上げる方向に働くことが分かる。コロナという稀有な天災が奇しくも引き起こす、大きな機会(チャンス)を見過ごすことはあまりにももったいない。
●既に始まっていた4つの歴史的趨勢
コロナパンデミック以前から以下4つの大きな歴史的趨勢が始まっていた。
(1).ネット化→ビジネス、生活、金融、政治のすべてを覆いつくすIT・ネット化、
(2).大きな政府化・新ケインズ体制→財政と金融の肥大化による大きな政府の時代、
(3).中国の孤立化→米中貿易戦争、米中冷戦開始、中国依存の国際分業の再構築、
(4).株式資本主義の進展→株価を軸とする経済・金融運営、である。
●歴史を押しとどめる障害物と抵抗勢力
しかし、こうした趨勢は、牢固な障害物により展開を阻まれていた。障害物とは、
(A).ネット化に対しては既存の慣習・制度・システムが
(B).大きな政府化に対しては健全財政信仰、緊縮金融信仰が
(C).中国の孤立化に対しては対中協調習慣が
(D).株式資本主義に対しては、バブル批判・資産価格軽視思考が、等である。
●障害物がもたらした病、デフレ、ゼロ金利、格差拡大
これらの阻害要因が歴史の流れを押しとどめ、澱みができ、政治・制度・経済・社会・生活等で大きなひずみが起こっていた。ここ数年顕在化していた世界経済の病、1).デフレ(=供給力余剰)、2).ゼロ金利(=資本余剰)は変化を押しとどめる障害物が引き起こしたものと理解することができる。あと一つの病、格差拡大も上述の阻害要因が是正の邪魔をしていた。
コロナパンデミックはこれらの阻害要因をことごとく壊し、歴史的趨勢を加速させるだろう。1~2年先にコロナ感染が沈静化した時、世界経済はより活力を高めているはずである。今や、ビジネスと生活における最大限のネット活用、財政金融の総力出動に異を唱える人はどこにもいない。中共という全体主義が国際秩序の妨げであることも議論の余地はない。本来なら何年もかかり多くの失敗の末にようやくたどり着いたであろうこれらの結論に、コロナパンデミックにより瞬時に到達できる、このことの意義は大きい。株式市場のV字回復はそれを織り込み始めているのかもしれない。
武者リサーチは新年レポート(ブレティン242号「2020年世界情勢の鍵、4つのパラダイムシフト」)で、4つのパラダイムシフトが起こっていると述べた。(A)5G新技術時代の始動、(B)米国株式資本主義の隆盛とそれを支える緩和的金融政策、(C)米中対立の新展開、(D)米英による世界秩序の再構築、である。
この歴史的趨勢は、コロナパンデミックにより断絶or歪曲されるのではなく、一段と加速されていくというのが武者リサーチの一貫した主張である。株価の暴落は一過性のもの、空前の財政出動と超金融緩和でセーフティーネットはほぼ整い、過剰流動性の発生は確実と想定できる。
●暴落前も後も市場の牽引車は変わっていない
最近1カ月間の市場展開は、強気派の見方をサポートしている。
第一に、今回の株式暴落がバブルと偽りの繁栄の終わりなら、その主役が打撃を受けるはずである。しかし、これまでの株式上昇をリードした米国MGAFA(マイクロソフト、グーグル=アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン)の下落が最も小さく、その後のリバウントが最も大きい。アマゾン、ネットフリックスなどは既に史上最高値を更新している。
第二に、本当にベアマーケット、長期下落相場が始まったのであれば、たった2週間で下落幅の半値を取り戻すなどということは起きないはずである。
●悲観的歴史観と楽観的歴史観のどちらをとるか
ただ、市場では弱気説も根強い。コロナショックは、それがなくても起こった当然の暴落であり、これまでの過剰金融緩和によるバブルの崩壊、偽りの繁栄体制の終焉とする見方がある。二番底がやってくるとの見立てにより、投機筋の米国株式ショートポジションが2016年以降の最高水準まで高まっているとWSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)は報じている(2020年4月20日)。いま歴史を悲観で見るのか楽観で見るのか、投資家と企業経営者は判断を迫られている。
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株探ニュース